第24話 バーサク少女である

 何というべきか……予想以上に獣っぽい出で立ちに赤髪の少女であるはずなのに奴が一瞬テレビで見たライオンに見えたである。

 さて吾輩は尾で扉を閉め、少女と向かい合う。

 ふーむ、牢屋とは言え元々はいくらか生活できる空間だったようであるな。明らかに机だったであろう木片や割れた皿の破片がそこら中に散らばっているではないか。その中でも野菜の切りくずや焦げ目の付いた骨があることから食事自体はとっているのであろう。……壁や床にクレーターの様な穴もあるが……そう言う事であるか。


 少女を止める方法だが、簡単に言えば、吾輩の肉球が奴に触れればいい。そうすればユニークスキル癒しの肉球が発動する――はずである。実はとても心配なのであるが……クシャルダはぷにぷにした者の精神的状態異常を回復するというものと言っていた。

 もしも失敗したら、その時考えるであるか。今は深く考えている暇はないのである。だって――


「グルァ!」


 口に涎をしたらせた少女が吾輩目掛け、飛びかかって来た。涎ってお前、吾輩を餌と勘違いしていないであるか!?

 もちろん、餌になるつもりは毛頭ないので宙に浮いた少女の下を潜り抜けることで回避する。いくら人間とは言え、バーサクの呪いによって思考はほぼ獣同然となり下がっているようであるな。ぐうっ!?

 突然上からの重量感に吾輩は石床に叩き伏せられる。何とか見上げてみるとやはりというか少女がしてやったりとでも言いたげな笑みを浮かべていた。

 

 吾輩の避けを読んでいたのか、または即座に反応して我輩を押さえつけに動いたのか。前者でも後者でも――あまり侮れる相手ではなさそうであるな。それに痛みこそあれ、吾輩を押さえつけようなど不可能である。

 

「”シャドウダイブ”」


 少女が覆いかぶさっているおかげで吾輩の下には十分に影が出来ている。故に潜ることもまた容易である。


「グァッ!?」


 突然吾輩が影に潜ったことで少女の腕は力の行き場を失いバランスを崩した少女は前のめりに倒れ始める。

 その隙を見逃すはずもなく影から飛び出した吾輩は腹に20パーセントほどに手加減した猫パンチをがら空きになった腹へと叩き込む。20パーセント猫パンチだ。あまり人間の少女に使う技ではない。――はずなのであるがなぁ


「グガァ!」

「まだやる気であるか……」


 思わずため息交じりに声が出てしまうが、どうにも少女、手加減猫パンチを喰らっても平気な様子。バーサクの呪いは肉体強化のみならず体力増強までこなすのか。

 だが少女の方こそ、これを吾輩をただの餌とは思わないだろう。その証拠に、少女の辺りが何やら揺らめいている……?確か陽炎という現象だったような?

 何故少女の周りに熱気が?と考えを巡らせていると


「グルァッッ!」


 突如、少女の周りの空間から火の玉が飛んできた。こやつ、魔法まで扱えるのであるか!

 一直線に飛んでくる火の玉を避けるのは容易い。容易いのであるが――それが1つ2つの話であるぞ!最初のうちはひょいひょい避けることは出来たが、数が増えてくると避けるスペースが限られて来て相当辛い。


 忌々し気な吾輩と対照的に、少女は楽しそうに火の玉を次々と飛ばしてくる。狩りを楽しんでいるようで吾輩、大変気分が悪いである。

 吾輩、性格出来た猫ではないであるからな。いよいよもって限界である。

 もう子供とは思わず、少し荒っぽく押さえつけさせてもらうであるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る