第25話 情け容赦ないである?
まずはこの火の玉連打をどうにかせねばならぬであるな。ウィンドカッターを使おうにもまだ1発しか出ないし、コントロールに自信があるとも言えないから少女に当たる可能性すらあるから無し。
となると、火の玉を消すのではなく、逸らした方がましであるな。早速行動に移すである。
吾輩は一旦近くの元この牢屋の備品であっただろう瓦礫の影に潜り、作戦を実行させる。
吾輩が影に潜る瞬間を目視していた少女は当然ながら、瓦礫に向かって火の玉を放出する。
瓦礫に火の玉が大きな音を立て直撃し、轟々と燃え、煙が立ち上り、そこから逃げるように影から吾輩が現れ、走り出した。
しかし、走り出す吾輩は、今までの俊敏な動きとは見る影もなく格段に遅くなっているのだ。
今が好機――そう察したのか、少女は口角を上げ、獲物に食らいつく寸前の獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべ、倍の量の火の玉を吾輩に放つ。
潜る影もなく、他の魔法を使うなど大した行動も起こせず、吾輩は無残にも火の玉の餌食となった。
勝ち誇った笑みをした少女は未だ残り火を煙が残る火の玉の着弾点に自分の戦果を確認しようと歩み寄る。その後はどうするつもりなのだろうか。
吾輩の死体を喰らうのか。はたまた扉の前に置いてラダンたちへ見せしめにするのだろうか。
勿論どちらも御免なのである。それに吾輩死んですらいないし……
火の玉自体喰らってすらいない。何故なら火の玉が直撃した吾輩は、分身であるからな。
とある漫画か、小説か、テレビ番組かで聞いたことがある。
『相手が勝利を確信した時 すでにそいつは敗北している』。
勝って兜の緒を締めよともいうが、この少女はそれを怠った。完全に吾輩が死んだかと勘違いし、勝ちを確信し、気を抜いている。
吾輩は物陰よりこっそりと出、気配遮断と忍び足を用い、背後より少女に近付き――唱える。
「グラビティ。」
「ッ!?」
吾輩の声に瞬時に反応し、振り返ったその反射神経は評価するであるが、遅い。既に重力は少女の上から降り注がれ、先程までの何倍もの重さが彼女を襲っているだろう。
これで終わりだと思いたいが、そうもいかない。吾輩はあまり油断したくない。今だって少女はグラビティを喰らってなお、吾輩を睨め付けている。戦意は全くそがれていないし、少しずつながらも吾輩に向け、手を伸ばしている。
加え、重力下にあっても魔法は使える。重さによって上手く魔法が発動できないのか、1発ずつ、それも威力も控えめな火の玉しか飛ばせないようだ。
とはいえ、これでも喰らったら火傷はするだろうし、今のまま少女に近付き触れようものならバーサクで強化された体で、グラビティを物ともせずいきなり動き出し、カウンターをもらってしまう可能性だってある。
だから吾輩はあくまで、吾輩が安全に、少女の呪いを解けるように全力を尽くすである。荒っぽい手段にはなるが、まぁこの手しかなかったという事で少女には諦めてもらうである。
さらにグラビティに魔力を注ぎ、少女が地に伏すまで加減無しで重力を増大する。
「グアッ……ガッ!」
苦しそうに呻き声を上げるが、どうでもいい。今この少女は、ただの獣であるからな。情け容赦をかけるとすぐさま吾輩に襲い掛かるだろう。
ならば、意識を刈り取ってしまえばいいだけである。であれば手痛い反撃を喰らう必要もなくなるというものだ。
どう意識を絶つのか?そりゃもう簡単な手がある。吾輩にはこの伸縮自在な2本の尾がある。
それを少女の首に絡ませて――一気に締め上げる。
「グギィッ!ガッ!ガハッ!ゴハッ!」
重力により身動きが取れない少女は抵抗らしい抵抗もできないまま、まともに呼吸もできず青ざめ苦しみ、やがて死んだように目を閉じ力尽きた。
……あれ!?やり過ぎたであるか?!あれ!?テレビでやってたロードショーで見た映画では首をキュッて締めたら気絶したであるが、そう簡単に行くもんじゃなかったであるか!?殺しちゃった!?
慌て、急いでグラビティを解除し、少女の口に耳を寄せ、尻尾は少女の手首に軽く巻き付き、脈を確認する。
――小さくだが、呼吸をする音が聞こえ、脈も確認できた。……焦ったである。
だ、だが!これで治療が出来るというものであるな。少女は未だ青い顔して気を失っているが、癒しの肉球にてどうにか回復することを祈る。
吾輩は初めてのユニークスキルの発動に一抹の緊張を覚えながらも少女の額に肉球を静かに当てる。
すると頭の中に機械的な声が流れて来た。
『対象、認識しました。これより、癒しの肉球による治療を開始します。』
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