第84話 新技である!
フォルとライザと別れた後も吾輩たちは順調にダンジョンを攻略していった。
罠も魔物も段々と階層を上って行く度に強力かつ狡猾なものへと姿を変え、最初は吾輩は手助けほどだったのであるが、徐々に吾輩がメインとなって戦うようになってきた。
吾輩的にはようやく暴れる機会が来たので願ってもないことなのだが、しきりにリンピオが力になれなくてすまないだの謝り倒してくるので、尻尾で軽くたたいておいた。気にしすぎなのだこいつは。
続々と現れる魔物を猫パンチや魔法でなぎ倒しながら吾輩はあることを考えていた。
そのせいか、自然と吾輩は無表情になり無言で敵を薙ぎ払っていた。
「……」
「ネコ様?どうかされましたか?何か考えているご様子ですが?」
おっと、テレパシーを介したわけでもないのにコーリィに感づかれてしまったであるか。おい、ドヤ顔やめろ。
コーリィの問いには答えずに置いておくであるか。あまり推測でかき乱すべきではないであるからな。いや、推測ではないか。ほぼ確信か。
2人組と会ってから……そう、5階ほど上がり、7階?に到着するとまた大広間へとたどり着いた。そこに待ち構えていたのは1匹の魔物。
ってだけであるならば一蹴したのかもしれない。だが、一蹴できない理由がその魔物の体勢にあった。それは――
伏せのポーズ。
「「「「……え?」」」」「バウ?」
これには流石の吾輩もコーリィも間抜けな疑問の声が漏れてしまった。それ程までに異様な光景なのである。
今までダンジョンで出会った魔物はそれはもう一心不乱に襲い掛かってきたものだ。
目の前のこの魔物にはそれがない。……ん?この魔物、どこかで見たことあるような……いや、直接は見たことないのであるが、どこか本で……?
と考えていると例の魔物がゆっくりと顔を上げた。
四足歩行で強靭な肢体をした魔物は黄色に近い肌……いや、毛であるかあれ。目は鋭く上顎にはまるでサーベルを思わせる牙がつい……んん!?サーベルのような牙!?
そうだ、こやつを見たことがあるのは動物図鑑である!暇つぶしにパラパラーっと見たときに「ほう、この猫中々イカす牙持っているであるな。」とまぁ、猫なりに憧れたものだ。
ただ、確かサーベルタイガーというものはでかくて2メートルほどだったはず。
あの、お前、あの、このパーティで一番背の高いリンピオが見上げるほど……いや、ジャイアントオーク程ではないがでけぇ!
デカサーベルタイガーはその相貌で吾輩たちを見据え――あ、吾輩を見ているなこいつ。――口を開いた。
『お初にお目にかかる、偉大なる御方よ。』
「ぬおっ!?お前しゃべれるのであるか!?」
その口から出たのは何とも丁寧な口調。しかも低い声で渋みがあるであるなぁ……
「ん?ネコ様、私にはあの魔物は唸り声を上げただけにしか聞こえませんでしたが?喋ったのですか?」
「あ、俺も唸り声しか聞こえなかったぞ。」
「私も。」
「バウ!?ババウバウ!」
ふむ?コーリィ達は聞こえていなかった?となると、サーベルタイガーはその名に違わず猫科であるからして、吾輩の近縁種言語理解が翻訳したのだろう。
どうやら聞こえるのは吾輩だけ……など思ったがそうではなく、ポチの鳴き声には驚きと吾輩に何か訴えかけるような鳴き声があった。ポチも聞こえたということか。
『ほう珍しい。そこの黒い狼、貴様は多言語・多鳴理解のスキルを持っているな?』
「バウ!」
デカサーベルタイガーの言葉に肯定を示すポチ。というか、何そのスキル。吾輩の言語理解・発声と近縁種言語理解と似ても似つかぬ。便利ともいえるが不便ともいえるスキルであるな!ロッテはこのこと知っているのであろうか……?
いや、今はそんなことよりも目の前のこいつである。
「お前……何で伏せていたであるか?しかも吾輩を御方などと。」
そう尋ねるとデカサーベルタイガーは首を軽くかしげ、こう言ってのけた。
『口が、体が、我がグラディウスサーベルタイガーの意思が、自然とそうさせたのだ。御方にひれ伏せと。御方を敬えと。何故ならば御方は……我よりはるか高みにいる存在だと。』
え゛なにそれ怖い。吾輩、こんな強そうな魔物に敬られるような存在になっていたのであるか?
心なしか、グラディウスサーベルタイガーの目がキラキラと輝いているように見える。人間に例えるなら目の前に憧れのスポーツ選手がいるようなものなのであろう。
『しかし、悲しいことに我はダンジョンより生まれた身。同時に御方を殺さねば。消し去らねば。嗚呼、忌々しい呪いだ。忌々しいが、嬉しいと思うのもまた事実。我は偉大な御方と牙を、爪を交えることができる。呪いがなければ平伏し、頭を垂れっぱなしであっただろう。故に、喜びを。そして偉大なる御方よ。我が我が儘をお許しになられるのであれば、一騎打ちを所望させていただきたい。』
吾輩はそのグラディウスサーベルタイガーの願いに応じ、コーリィ達一同を階段まで下がらせた。
コーリィは心配し、吾輩は平気だ平気だと何度も言い聞かせたのだが、それでも聞かない。……まぁ確かに今までの魔物の中ではこいつは別格であるからな。最終的にはロッテに無理やり連れて行ってもらった。
さて、舞台が整ったことで吾輩たちはお互いを見据えあう。
そして幾何の時が流れるかと思ったら早速グラディウスサーベルタイガーが動いた。
その巨体からは考えられないほど素早く飛び上がり牙を吾輩に突き立てんと襲い掛かる。これが奴の全力の攻撃なのだろう。
なれば、このダンジョンで唯一意思を持って吾輩に挑んできたこいつに敬意を表して吾輩もそれなりの本気で返してみるであるかな。
「スキル、火車を起動。"猫招き・雷"」
吾輩はユニークスキルの火車の効果で右前脚に迸る電撃を付与し、奴の牙を紙一重でかわし鼻っ柱に叩き込んだ。その名も
「"雷猫パンチ"!」
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