第83話 ほかのパーティと遭遇である!

 まぁほかの冒険者がいるかどうかなど想定していないわけがない。吾輩たちの前に4人……もしくは4つのパーティがギルドの依頼を受注してダンジョンに潜っているはずであるからな。

 さて、階段から上がった吾輩たちの目の前にいる冒険者は2人。その周りにはオーク等魔物の死体が数多く乱雑しており、この2人が殲滅したようである。

 それなりに強いご様子であるな。少なくともリンピオよりもやるやもしれぬ。

 件の2人は、吾輩たちを視認すると、互いに目を合わせると、片方の男が薄ら笑いを浮かべこちらに向かって歩いてきた。


「よぉ、お前ら確か最近噂になってる見たこともない喋る魔物を連れたパーティだよなぁ?」


 ん?噂になっているのであるか?吾輩ら普通に依頼を受けているだけなのであるがな。

 別にドラゴンを倒したーとかかの大秘法を持ち帰ったーとかそんなことは一切しておらんのであるが。


(ネコ様は存在自体で噂になるかと……)


 コーリィに対してテレパシーはしていないはずだが、コーリィは吾輩の意を読んだのか、テレパシーを介してツッコミを入れてきた。

 ……

 う、うぅむ確かに吾輩の存在の重要性を忘れてはいたな。

 おっと、彼奴らの受けごたえをせねばな。


(コーリィ、頼む。)

(かしこまりました。)


「そうですね。あなた方の思っている通りのパーティで間違いないと思いますよ?」

「あん?ンだよ、お前が話すのかよ、折角例の魔物の声を聴きたかったんだがなぁ?ほれ、何か喋ってみろよ魔物。」


 そう言うと、細身の剣を持った男が吾輩めがけ、剣を振り下ろしてきた。その剣には少しの熱気を感じるが、火の属性でも持っているのであろうか。そんな武器見たことないのであるがな。

 しかし、その剣は吾輩に届くことはなかった。別に吾輩が防いだわけではない。


「……何をしてるんですか?」

「へぇ?」


 剣を受け止めたのはコーリィだ。まさかの片手に持った短剣で受け止めたコーリィは穏やかな笑みをそのままに軽々と男の剣に対抗している。

 それどころか。


「フレイム。」

「っとぉ!……ってぶげぇっ!?」


 空いたもう片手から火球を生み出し男にぶつけんとしたが、男も瞬時に身を引くことで火球を躱しコーリィから距離をとる。

 だが、コーリィそれだけでは留まらず、地面を蹴りだし避けた男の頬に右こぶしを叩き込んだ。

 殴られた男はもんどりをうって倒れ、コーリィは追撃を加えんと手を掲げ――っていかんいかん


「コーリィ、止まれ。」

「はい、ネコ様。」


 吾輩の一言で後ろから引っ張られたかのようにコーリィの勢いは減速し、すぐになんでもない顔で吾輩の横へと戻る。

 ……いや、コーリィ、吾輩のことでは怒りやすいとはいえここまでするであるか……でもこの前騎士団長に斬りかかられた時は動かなかったが……?あぁ、あれは吾輩が受け止めたからであるか。

 さて、コーリィの拳を受けた男とは言うと……って普通に起きてる。話しかけた時と同様に薄ら笑いもいまだ浮かべたままだ。


「やるじゃねーのさ。それに魔物の声も聞けたなぁ」

「お前よぉ、フォル。お前考えなさすぎだろ。その魔物がヤベーヤツだったらどうすんだよ?」

「俺としちゃあ実力のほうも見ておきたかったんだが。」


 フォルと呼ばれた男はフード被った法衣を着た仲間であろう男に杖で軽く頭を小突かれた。

 悪い悪いとまったく悪気なしに謝るフォルにもう片方の男は溜息をつき、一歩前に出てきた。


「あーすまない。俺の名はライザ。この糞アホはあとでシメておくから気を悪くしないでくれ。」

「十分悪くしました。」

「いや本当にすまんかった。」


 コーリィの目にはいまだ敵意が宿っている。吾輩が止めねば更に追撃を加えていたであろう。

 しかしとして、奴――フォルもまたぴんぴんとしているし何より奴は好戦的な性格のようだ。あれ以上コーリィを自由にさせたら酷いことになっていたであろう。


「コーリィ、犬に噛まれたと思ってここは抑えるである。お前らもこれ以上ちょっかい出してくれるなよ?」

「勿論だ。……あぁ、迷惑をかけたついでに情報を一つ教えてやろう。」

「じょ、情報ですって?」


 今までのやり取りに呆けていたロッテがようやく現実にひき戻り、オウム返しにライザに聞く。

 ライザはフードの奥から見える瞳を細め、重めの口調で告げた。


「俺らとお前たち以外のこのダンジョンの依頼を受けた人間はすべて死んだ。」



「あっそう。」


 皆が沈黙する中、吾輩がそう口にした。

 すべて死んだ?それがどうかしたのであろうか。別にダンジョンで人が死ぬなんておかしい事はないであろう。

 強いて言うなら全員死んだのはちょっとびっくりかもしれぬが……なぁ?


「ぶふっ!ダハッ……だぁっははははは!やべっ、すげぇ面白れぇ魔物だな!さすがに肝が据わってやがる!見ろ!お前の後ろの男目ぇまん丸させてるぜ?」


 面白くて仕方ないとばかりに膝を叩きながら笑うフォル。リンピオ……お前ってやつは……もうちょっと揺るがない心をなぁ

 いや、初めてのダンジョンならこれが普通なのであろう。

 リンピオは己を叱咤するかのように頬を叩くと「俺は大丈夫だ!」と大声をあげ、さらにフォルを大笑いさせる結果となった。


「魔物。お前は怖くないのか?見たことろ初めてのダンジョンのようだが。」

「吾輩はネコである。――まぁ怖くはない。むしろワクワクしているである。それじゃ、吾輩たちは行くである。お前らもまぁ、死ななかったらいいであるな。」

「こっちのセリフだ。」


 フォルとライザに別れを告げ、吾輩たちは再びダンジョンの奥へと進む。

 彼らももう少し休憩したら進むようだ。……おっと、忘れていたである。

 吾輩は、コーリィたちに待っているように告げると、一旦フォルの元へと戻った。

 座っていたフォルは訝しげに


「ンだよ、まだ何か用か?」


 と尋ねてきたので吾輩はこう答えた。


「いや、一応見たかったであろう力を見せておこうと思ってな?"猫パンチ"。」

「「っ!!?」」


 吾輩は地に向かって猫パンチを叩き込んだ。と言っても座って軽く地面をたたいただけなのであるが、結果としてダンジョンの地面はひび割れそのひびは少し離れたライザの足元までに及んだ。

 いきなり攻撃してきたお返しである。


 吾輩は踵を返し、コーリィたちの元に急いで戻る。

 背後から何者かの大笑いが聞こえた気がするが、気のせいであろう。

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