第34話 ギルド長とただの食事である?
(なぁコーリィ。吾輩たちは職員スペースとやらに案内されたはずであるよな?)
(聞く限りはその筈ですが……)
吾輩たちが今飯を食べているところは、絶対職員スペースという場所ではない。
何故なら今この場にいるのは、吾輩とコーリィとギルドマスター、バジットのみ。
騙したなこやつ……ここはギルド長が執務するためにある部屋、その名も執務室であろう!そうであろう!
ちなみに吾輩は机に乗ってカレーを食べているわけでは無い。
お行儀よく椅子に座って尻尾で器用にスプーンを巻き掴んでキチンとカレーを掬って食べている。最初こそ苦戦はしたものの、今では慣れて楽勝である。
ただしバジット何であるか、その気持ち悪いものを見る目は。
黙々と食べていたが、先に食べ終わったバジットが箸をおき、茶を一服するとコーリィに話しかけてきた。
「さて、コーリィ君。すでに気付いていると思うが、ここは職員スペースではない。」
「あ、はい。流石に分かります。」
「騙して悪いが、君と話をしてくてな。……内容は分かるな?」
「……ネコのことですよね?」
まぁギルド長が一端の冒険者であるコーリィを呼び出すなんてあり得ないであろうし、他の冒険者と違う点で呼び出す理由があるとするなら吾輩以外にないだろう。
しかし、耳が早いであるなぁ。流石はギルド長と言ったところであるか。
「分かっているなら話が早い。君はその黒魔猫とやらを従魔にしたらしいが、俺は30年以上生きて冒険者として色んな地に赴いて色んな魔物と殺し合ってきたが、そのような魔物は一度も見たことは無い。ただ、ケット族という獣人に似た耳を持っているようだが。」
そらそうであろうな。ただ、ケット族というのは少し気になるであるな。
獣人と吾輩と同じ耳――いわゆる猫耳を持っている獣人がいるのであるか。
「偶然見ていなかったんじゃないですか?隠れて生きている魔物かもしれませんよ?」
「だとしてもだ。誰にも見つからない様に生きていた魔物がいたとして、何故君の前に姿を現した?」
「さぁ、それこそ気まぐれじゃないでしょうか。私には特別なスキルもありませんし。」
冒険者というものはみだりに自分のスキルを公開しないらしいし、深く詮索してはいけないという暗黙のルールというものがあるらしいから、スキルに関してはバジットは問いただすことは出来ない。
「……そうか。では聞くが、君はその魔物、ネコと言ったか?どのような生態をしているか前例がないそいつが何の罪もない人を襲わないと断定できるのか?」
「できますが?」
何を当然のことを聞いているのかとでも言いたげなコーリィの声。実際そういう事をするつもりはないのであるが……そろそろコーリィが自身より吾輩が疑われていることに関してイライラしてきている。
さて、不味いことになってきているであるな。このままだとコーリィのイライラでギルド長のコーリィに対する心象も悪くなるだろう。最悪、得体も知れない魔物を連れ、ギルド長に対し敵対心を持ったとして除名処分――なんて無い話じゃないはずである。
しゃーない。ギルド内にも理解者が1人でもいた方がいいと考えていたし、いい機会であるかな。
まさか最初の相手はギルド長になろうとは思いもよらなかったであるが。
吾輩は食べ終わったスプーンを皿に置く。その音に反応し、2人の視線が吾輩に向く。
(ネコ様?)
(コーリィ、もういいである。)
(ネコ様?もういいとは一体――)
「初めまして、とでも言っておくであるかな、ギルド長?」
「!?今……声が?まさかその魔物が!?」
「カカッ、そう驚くなである。どうせ吾輩以外にも話せる魔物がいないわけではあるまい?」
もちろんそんな存在に吾輩はあったことは無いが、この世界で言語理解発声というスキルもあるし、知能のある魔物であればそのようなスキルを持っている魔物だっているはずである。
「た、確かにいる……いるが、それは特殊な魔物だったり強力な魔物だと相場が決まっている。黒魔猫とは特殊な魔物なのか?」
「さぁ?吾輩は吾輩以外に黒魔猫を見たことないであるからなぁ。」
嘘は言っていないであるな。
それにしてもバジットの困惑は相当なものであるな。
「な、ならば聞く。お前は何故、そのコーリィ君に付き従う。何故、姿を現して彼女の従魔になった!」
(ネコ様が私に付き従うですって!?ギルド長とは言え……)
(落ち着けコーリィ。吾輩が話しているのであるぞ?任せるである。)
さて、コーリィも抑えたことだし、吾輩がコーリィに付き従う理由であるかー
「彼女が冒険者になると話していたものであるからな。俗世とは離れて生きて来た吾輩には各地を回って旅をするというのは魅力的な話であったものであるからな。」
「だ、だから従魔契約を結んだと?」
正確には奴隷契約であるからな。それはそれで問題視されそうだからここは黙っておこう。
「如何にも。まぁ人間にも老後の楽しみで旅に出たりというものがあるであろう?それと似たようなものである。」
前世の概念でいうと猫の15歳は人間でいう76歳ほどらしいからこれも間違っていないであるな。今の吾輩は寿命伸びているようだし老人解釈は間違っているかもしれないであるな。
「う、うぅむ……なるほどなぁ。それほどの知性があるなら人は襲わない……のか?」
「少なくとも吾輩から進んで関係ない人間に襲い掛かることは無いことは約束するである。ただし、自衛やコーリィの危機に関してはそれに限ったことではないであるがな。」
「それは勿論分かっている。彼女は容姿もいいし、如何わしい目的で近づく輩もいるはずだ。恥ずかしい話、それは冒険者にも限った話ではないからな。」
ギルド長がそれを言うのかと一瞬思ったが、前世でも警察の不祥事なんて無い話でもない。ギルド長一人に責任追い求めているのも酷な話か。
「それでは吾輩の事は信用してくれたと考えても?」
「――正直言うとまだ信用しきってはいない。」
おや、ハッキリと言ってくれるであるな。
「しきっていないという事は少しは信用してくれているということであるな?それで充分である。ま、コーリィの活躍を見ていることである。それで残りの信用を勝ち取って見せようではないか。」
どうやら、コーリィもカレーを食い終わったようだし、話も終わったである。この辺で失礼させてもらおう。
(コーリィ、行くであるぞ。)
(はい、ネコ様!)
「それでは、ギルド長。私達はこれで失礼してもよろしいですか?」
「あ、あぁ。本当に騙して悪かった。」
「構いませんよ、静かにご飯を食べさせていただきましたし。では、失礼します。」
吾輩を肩に乗せたコーリィは深々と頭を下げ、カレーの入っていた皿を持ち退室する。
おっと、言わねばならんことが一つあったのを忘れていたであるな。
コーリィに退室する直前で足を止めさせ、少し疲れた様子のギルド長に声をかける。
「ギルド長よ、吾輩が言語を理解し話せることはどうか内密に頼むであるぞ?」
返事は聞こえなかったが、まぁ大丈夫であろう。
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