第35話 薬草採取と乱入者である?
ギルド長こと、バジットと昼食という名の密会をしてから数日後……
未だ借金は完済しきってはいないものの、少しずつその量を減らしている。今更だが、タオラが利子を付けてなくて本当によかったである。
(さて、今日の依頼は……ふーむ。)
(どうかされましたか?)
朝、掲示板に張り出された依頼を睨み、思案気な声?を漏らしてしまった吾輩にコーリィは即座に反応する。
吾輩たち、初心者がよく受注するとスライムやゴブリン、コボルドなどの雑魚と揶揄される魔物の討伐系依頼を毎日やっているため……他のものにも手を伸ばしてみたい。
(今日は討伐系はやめて、気分転換に別の依頼でも受けてみるであるかな。)
(かしこまりました!では……この薬草採取でどうでしょうか?)
おおう、コーリィにしては珍しく吾輩が決めるより先に依頼を選んだであるな。
薬草採取は初心者向きの採取系依頼のようだが、これに思うところがあるのか、聞いてみると
(薬草が生えそうなところを知っておきたいんです。ネコ様であれば薬草を使うことなんて滅多にないでしょうが、そう言った場所を知っておくに越したことはありません。それに――)
(それに?)
(依頼外で採取しても売れますからね。)
あー確かに。採取系依頼のアイテムは依頼を受けていないと採取してはいけないという規則はない。
そこまで考えが至らなかったであるが、コーリィのおかげで気付くことが出来た。
(分かった。では今日は薬草採取をするであるか。コーリィよ、今日はしっかりと薬草の生える場所を学ぶであるぞ。)
(はいっ!)
喜色の混じった声で返事をするコーリィに吾輩は頷く。これほど喜ばれるとは……たまにはコーリィが受けてみたい依頼をするのも悪くないかもしれないであるな。
早速、紙を受注受付に持って行くである。
「はいはい、依頼ですね。っと、薬草採取ですか……ありがとうございます。」
ん?頭の寂しい職員にいきなり礼を言われたであるぞ?吾輩たち、ただ薬草採取の依頼を持ってきただけのはずなのであるが。
「あぁいえ、このところ採取系……その中でも特に薬草採取を受けてくれる冒険者の方が少なくなって……地味なんですかねぇ。」
うむ、地味であるな。
薬草採取は大切なことなのであろうが、冒険したがりの冒険初心者はちまちまとした採取依頼なんて地味に映るのだろう。言ってしまえば草刈って終わりであるからな。
「だから有難いんですよね、たまに薬草採取をしてくれる冒険者の方が……ちなみにFランクのうちに薬草採取をしている冒険者は伸びるって職員の中でジンクスがあるんですよ。」
ほー、この依頼にそんなジンクスがあったのであるか。
「おっ!しかもコーリィさん、この依頼を達成すればEランクに昇格できますよ!」
「昇格ですか?」
「えぇ!コーリィさんは確か最近冒険者になられたんですよね?いやぁこんなに早く昇格するなんて久しぶりですねー」
今日は頭の寂しい職員、よく話すであるなー。朝早いためか、受付に並んでいる冒険者がコーリィだけだからなのか……まぁ機械的に流されるよりかは気持ちはいいであるな。
「おっと、失礼!お時間を取らせてしまいましたね。いやぁ、若い娘さんと話すことが好きなもんで。」
「大丈夫ですよ、お気になさらず。」
「はい、それでは薬草5束ですね。薬草3本につき、1束なので15本です。こちらの紙に描いてあるのが薬草です。それでは頑張ってください。」
コーリィは薬草の絵が描かれている紙を受け取り、小一時間話したことで、ただの受付職員ではなくなった見知った頭の寂しい職員に軽く頭を下げ、場を後にする。
スライムを狩った池に近い森に少し入った所にて――
「ありました、ネコ様!これですね!」
コーリィの柔らかな腕の中に加え、心地よい木漏れ日のツープラトン攻撃でうとうととまどろんでいた吾輩だったが、コーリィの声で現実に引き戻される。
見上げるほど巨木の根元に生えるそれは草は間違いない。あの紙に描かれた通りの薬草であるな。
「おー結構あっさり見つかったであるな。」
「ですね。どんどん採取してしまいましょうか。」
薬草は葉と茎の部分だけ採取されることが多いらしいが、根っこにもちゃんと薬効があり、そちらは病気に対しての薬になるようで、葉と茎、そして根っこ全てそろった薬草を売ると少し色がつくらしいのである。
コーリィはナイフで、吾輩は尻尾で土を掘り、丁寧に薬草を掘り起こす。
しかし、この草をどうにかしただけで、薬へと変貌させるのだから人間とはスゴイであるな。
さて、辺りに生えていた薬草は採り終えたであるな。何となく分かったのだが、薬草は大きな木、つまりはよく成長した木の元によく生えるみたいであるな。
もし必要になった時は木を目印に探してみると良さそうである。
「んじゃ、帰るであるかな。」
「えぇ、そうしましょう。」
採った薬草は吾輩のマジックボックスに収納し、提出する前にコーリィに渡すつもりである。その方が楽であるからな。
再びコーリィに抱えてもらい帰路に着こうとすると――
「た、助けてくれぇええええええええええ!!」
何やら叫び声が聞こえ、その声がどんどん近くなってくる。
何事かと2人で顔を合わせてると、森の奥から1人の冒険者が何から逃げるように走ってきた。
そいつは吾輩たちがいることに気付くと足を止め、必死の形相で叫んだ。
「に、逃げろ!今すぐ逃げるんだ!」
「え?あの、何が……」
「いいがら逃げるんだよ!や、奴が来る!」
奴?もしかして吾輩たち、面倒事に巻き込まれそう?
確かにこいつが走ってきた方向から何かずしんずしんとした足音が……
「ひっひぁあああああああああ!」
冒険者は腰を抜かし、恐怖に歪んだ表情で奥からやってきたそいつから逃げるように這う。
森の奥から現れたそれは豚の顔をした醜悪な人型の魔物で、吾輩はある意味と言って親しみ深いかもしれないその魔物の名前を知っていた。
「オークであるか……!?」
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