第36話 VSオークである!
オークは、その顔を醜く歪ませニヤリと笑ったようにも見える。
大方1匹の獲物を追いかけたら更に獲物が2つも増えたとかそんなところだろう。
さて、どうしたものかな。オークはどう見ても吾輩たちを襲うつもりだし、逃げても執念深く追いかけるだろう。
ならばどうするかとすれば、簡単であるな。
(コーリィ、こいつは吾輩が狩る。)
(かしこまりました。)
吾輩が出るなら私がっとか言うかと思ったが、コーリィは一切の躊躇なく吾輩が闘うことを了承した。
流石分かっているであるな。寧ろ引き止めたら怒っていたであるぞ。
コーリィの腕をするりと抜け、オークの前に降り立つ。
こうしてみるとでっかいであるな、この豚。コイツの持っている棍棒でさえ吾輩の何倍もの大きさがあるではないか。
豚と視線が合い、にらみ合う。余りの小ささ故、無視されるかと思ったが、このオークはちゃんと吾輩を視界に入れて獲物として認識しているようであるな。
そんな中、後ろで腰を抜かしていたオークを連れてきやがったあんちきしょうが声を上げた。
「そっ、そうか!その魔物を囮にして逃げればいいんだ!ほ、ほら!アンタも逃げるぞ!」
何言ってるんだコイツ。いや、コイツからしたら吾輩なんて人間ではなく魔物。簡単に散ってもいい命だとか思っているのであろう。
そんな戯言に一番に反応したのは、吾輩ではなく――
「は?」
当然と言うべきか、コーリィであった。
にらみ合っているため、コーリィの表情こそ見えないが、声色でなんとなくわかる……これは間違いなくキレたであるな。
が、オークにとって吾輩の後ろの人間がギャーギャー喚こうがどうでもいいのだろう。
吾輩が背後に気を取られたのを見逃さず、その棍棒を振り下ろしてきた。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「甘いであるぞ、豚。」
一瞬意識がそれたからと言って遅れる吾輩ではない。
棍棒を避けるのではなく、尻尾を伸ばし正面から受け止めた。見た目相応の力を誇っているようだが、吾輩には届かないようであるな。
「ほれ、折角であるからその棍棒少し借りるであるぞ?」
「ブッブモッ!?」
尻尾でぐるぐると棍棒に巻き付き、無理矢理オークの手から引き剥がす。武器を手放してなるものかと抵抗されたが、それを一笑するかのように容易く奪い去った。
武器を奪われたオークは怒り狂って吾輩に襲い掛かって来るかと思ったが、次に行動は吾輩の想像だにしないものであった。
「ブ、ブモオオオオオオオオオオオ!!!」
「は?」
に、逃げたである?オークは吾輩に勝てないと判断したのか、一目散に来た方向を逆走し始めた。太ったその体に見合わず、意外にも俊敏であるな。
だがしかし、この吾輩よりも速いということは無い。
(コーリィ、その馬鹿は任せたである。吾輩は豚を追ってくる。)
(かしこまりました。)
……あれ?そう言えばあの馬鹿冒険者の声がいつの間にか聞こえなくなったのは何故であろうか。
まぁ今は気にする必要もないか。そんなのよりオークであるオーク。
吾輩は棍棒を尻尾に巻き付けたまま、子供の頃、原っぱに逃げたトカゲを追いかけたのを思い出しながら逃げたオークを追いかけた。
棍棒という重りのハンデがあっても吾輩の速度は落ちることは一切無く、すぐにオークを追い抜き奴の前で停止する。
「カカ、遅いであるな、豚ぁ。」
「ブギアアアアアアアアアアアアアア!!」
ほう、人間の言葉を理解したであるか?先ほどまで逃げ腰だったオークが顔を怒りに染め立ち止まることなく吾輩を突き飛ばさんと更に速度を上げ突っ込んできた。
まさに火事場の馬鹿力、死に物狂いというやつであろうか。明らかに最初の一撃よりも威力の高いであろうその突進を吾輩は――
「ほら、返すであるぞ、棍棒を!!」
前世でやった野球ゲームよろしく尻尾で棍棒を大きく振りかぶり、吾輩の行動を理解しても急には止まれないオークの土手っ腹に命中、そのまま思いっきり振りぬいた。
ぶっ飛ばされたオークは幾本の木々をなぎ倒し、5本目くらいの木でようやく勢いを失い激突し力なく倒れた。まぁ流石に絶命であろうな。
……吾輩、筋力に関しては今まで全力を出したことは無かったのであるが、オークをあそこまでぶっ飛ばせるほどの筋力を持っていたのであるな。
この小さな体の中にどこにそんな力があるのか、少し不気味にも思えたであるが、それが魔物という存在だという事で無理矢理理解しておくである。
――さて、オークを回収してコーリィと合流するであるかなーっと。
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