第86話 先客であるか?

「なっ……!?お前ら、いつの間に?すれ違ってないはずだぞ!」


 フォルとライザの二人を前にして一番最初に口を開いたのはリンピオであった。

 その顔から焦りが見えているであるが、まぁラストバトルと意気込んで突入したら見知った顔がいるのだ。しかも、フォルが宝箱に座っていると言うことはその戦闘は既に終わっているのであろう。

 さて、リンピオの問いに対してフォルは皿に笑みを深め答えた。


「なぁに、簡単な話さ。ここはダンジョン、何が起こるか分からない不思議なところだ。別に最上階に繋ぐ道が1つじゃねーってことさ。」


 フォルが己の後方に親指を向け我輩たちはそれに視線を移すと確かにーーあった。下へと続く階段が確かに存在した。

 ってかそんなのもありなのであるか、ダンジョン。


「いやぁ、苦労したぜ?火竜と来たもんだ。手こずっちまったぜ。ほれ、お前らは帰りな。あっちに帰還用の魔方陣があるからよ。」


 ふむ、少し離れたところに青白く光る魔方陣があるであるな。あの中に入ることでダンジョンの外にでも転送されるのであろう。


「仕方ないであるな、まさかいくつも道があるとは思わなかったであるし、こいつらが早かったのは事実である。ここは堪えて帰るである。」

「ですね。他のパーティが踏破した場合でもそれなりに報酬はであるみたいですし。」

「しゃあねぇか……俺たちの間をすり抜けてクリアした訳じゃねぇもんな。」


 みんな正直であるなー。仕方ないとはぼやいていてもその顔は不服そのものである。

 けれども文句を言ったところでボスがもう一度出てくるわけはない。

 肩を落としながら魔方陣に足を踏み入れーー


「あん?どうしたよ、帰還しねぇのか?」

 

怪訝そうな顔でこちらを見るフォル。それもそうだ。我輩たちはまだ魔方陣の中に入っていない。

 いや、正確に言うと、リンピオ・ロッテ・ポチを我輩の尻尾で引き留めている。コーリィは我輩が事前に伝えており自分で足を止めている。

 このまま魔方陣に入れば確実にヤバイことになるであるからな。


「んー?お前らに背後から襲われたらたまらないであるからな。だってお前ら、少なくとも何人か殺しているであろう?」

「……どうしてそうなる?」

「お前らよ、どうしてダンジョンの冒険者が全員死んだことを知っているのであるか?」


 その場に静寂が訪れた。リンピオとロッテは絶句し、我輩が何を言うのか分かっていたコーリィは静かに杖を掲げる。

 さて、奴等の反応は……ん?上より冷気?っしまっ!


「コーリィ、上である!」

「承知しました。”レイ・フレイムボール”!」


 我輩の声に即座に反応したコーリィは操作が可能な火球を生み出し、我輩たちの上部より落ちようとしている巨大な氷塊にぶつけられる。

 普通であるならばコーリィのその魔法であるならば氷など蒸発も容易いのであるが今回はそうもいかないようである。溶かしきれてない!


「ネコ様、申し訳ございません!」

「構わぬ。”猫招き・炎””炎猫パンチ!”」


 グラディウスサーベルタイガーの時と異なり今度は前足にユニークスキルである火車を起動、雷ではなく猛々しく燃える炎を纏わせ猫パンチを氷塊に叩き込む。

 問題なく砕かれたそれは炎の熱気により破片すら溶かし尽くした。

 だけで終わるわけないであるよな!


「リンピオ!剣を構えろ!来るであるぞ!」

「なっとぉ!?」


 反応に遅れたリンピオであるが、それでも何とか剣を構えることが出来、自身に襲いかかってきたフォルの剣を受け止めることが出来ーーいや、出来てない!咄嗟の事で力が入ってない。

 剣こそ手放してないが、体勢は大きく仰け反ってしまった。そんな瞬間を見逃すわけもなく第二激がリンピオに向けられる。

 が、その攻撃は止められる。ポチが体当たりを繰り出しフォルを突き飛ばした。


「ったくよぉ!てめぇのせいだぞライザ!余計なこと言わなきゃ仕事も簡単に片付いたのによぉ!」

「……あぁ、俺の過失だったな。目標が近くにいることで高ぶっていたのかもな。」


 顔を手で押さえ天をあおぐライザ。怒ったような口ぶりだったフォルは楽しそうに笑いライザも顔を押さえたまま堪えきれない風に笑い始める。


「俺等ぁ初対面だがよ、久しぶりだなぁコーリィ・ディアント!闇ギルドがてめぇを迎えに来たぞ!」

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