第44話 オーク増殖の理由である!?

「は、はぁっ!ひぃっ!ふぅっ……よ、ようやく倒せた……」

 

 肩で息をし額に流れた汗を拭いながらリンピオは呟いた。

 彼の目の前には既に死に果てたオークが全身に刻まれた傷からおびただしい程の血を垂れ流していたである。舐めてみたけど、意外に美味い。

 吾輩だけではなく、ポチも水分補給のため舐めるほどの味であった。


「あんた遅すぎない?Eランクとは言え、私の支援魔法を受けてるのよ?」

「ご、ごめん。俺EランクじゃなくてDランクなんだよ。」


 ……え?リンピオの衝撃的な発言にパーティの間に静寂が訪れた……こいつ、Dランクであったか?確かタオラが言うにはオークとはDランクなりたての冒険者がよく狩る魔物だと聞いたであるが……?

 でもこいつ、一番遅かったであるぞ?仮に吾輩が規格外だとしても、ポチもリンピオよりも早くオークを倒していた。


「何でアンタDランクなのよ。コーリィに聞いたけどオークから逃げたらしいじゃない。」

「Dランクと言ってもまだなりたてだ。あの時は……いや、本当に恥ずかしい話なんだが、オークと闘う前にマンドレイクを採取してたんだよ。その時ミスって叫び声をもろに聞いてな、恐怖状態になってたんだよ。」


 マンドレイク……確か薬効作用のある醜い人型の植物であったな。

 しかし、叫び声を聞いたら死ぬとか何とか、吾輩が見た本にはあった気もするのだが、世界が違うのであるし、効果も違うのであろう。

 で、その叫び声を聞いたリンピオは恐怖の状態異常となり、オークを怖がって――吾輩たちの所に逃げて来た、と。


「ふぅん、それは不運だったわね。ま、幸運ともいえるんでしょうけど。」

「あぁ、コーリィさんがいなかったら俺は死んでな。」


 話題に上がったコーリィであるが、彼女は黙々とオークの解体を行っていた。と言っても全部解体できるわけでは無く、吾輩のために魔核を取り出すことだけをしていた。


「手際いいわね、コーリィ。誰かに習ったの?」

「えぇ、知り合いにちょっとね……」

「そ。私は解体に抵抗があるから少し羨ましいし尊敬するわ。魔核だけってのは、手軽に提出できるから?」

「いえ?これは私が個人的に欲しいだけよ。」


 コーリィが、というわけでは無く吾輩が欲しいのであるがな。


「え?魔核が欲しいのはいいけれど……でもオークの提出分はどうするの?」

「?本体を持って行けばいいじゃない。」

「いやいや、コーリィさん。当たり前のように言ってるけど、オークは相当重いぞ?俺でも持てる気はしないぞ。それこそ、マジックボックスじゃないと……。」

「別に、あなたの力を借りる気はないですよ。――よし、魔核回収完了。じゃあネコ、お願いね。」

(よろしくお願いします、ネコ様。)


 別にテレパシーで2度お願いしなくてもよいのであるがな……まぁいいである。


「にゃ。」


 コーリィの頼みに一鳴きして答えると吾輩は手っ取り早く、オークの死体を次々とマジックボックスに収納していく。うむ、あの巨体を4体入れても依然マジックボックスには余裕があるみたいであるな。


「嘘……マジックボックス持ち?オーク4体も入る?……す、凄いわねー」


 やはりマジックボックスは衝撃的なのか、気丈なロッテもいくらか動揺しているであるな。リンピオは絶句しているし。

 しかし、ここまで反応されるとあまり大っぴらに使うものでは無さそうであるな。

 貴重な物みたいであるし、何より便利ときたものであるからな。殺してでも奪い取ると思う輩がいない訳ないである。

 この2人には見せてしまったが、使い方を考えねばなー。


「そろそろ行きましょう。4体倒したとはいえ、まだまだオークはいるでしょうしね。」

「え、えぇそうね!ほら、リンピオ!アンタもシャキッとしなさい!」

「いって!」


 ロッテが背中を強く叩くことで、ようやく意識を現実に引き戻されたリンピオ。どこか疲れたようにも見えたが……まぁ大丈夫であろうな。



「20体目っ!!」

「ブギィ!!」


 あの後吾輩たちは、次々と襲い掛かってくるオークを遭遇しては斬り、遭遇しては燃やし、遭遇しては噛みついて狩りまくっていたのである。

 今しがた、リンピオが20体目のオークを殺したので、流石にそれだけ狩っていれば疲れは貯まる。

 一旦休憩とし、全員木の幹に座り今の現状を話し合っているが、何かおかしいであるな。

「ねぇ……これちょっと多すぎじゃない?」

「そうね。私達だけ20体もオークが現れるわけでも無いし……」


 あまりにもオークが多すぎるのである。ギルド長が言っていた数は200……その中の10分の1の数のオークを吾輩たちが狩れるわけがない。

 吾輩たちよりも先に沢山のパーティ、冒険者が狩りに出ているはずであるのに一向にオークが減っているようにも見受けられない。


「異様な速度で増えている……のか?」


 リンピオがそう呟いたが、恐らくその通りだろう。でないと説明がつかないであるな。

 魔物という存在は、自然に生まれる事もあるが、スライム等の例外を除き、同種での繁殖で増えるというのもあるらしい。

 が、リンピオが言うには、オークはメスが生まれる確率は低く、仕方なく同種以外……人間やエルフといった者や、はたまた魔物のメス個体、メスのゴブリンやコボルドを母体として繁殖するという。同族からしたら胸糞悪い話であるな。

 その場合は1体ずつ産まれるが、仮にオークのメスがいたとすれば、メスから10体以上のオークが生まれることがあるらしい。


「だが、だとしても多すぎるし、異様な速度で生まれ過ぎじゃないか?」

「そうね。これはちょっと街に帰還してギルド長の指示を仰ぎましょう?もしかしたら、本当に気のせいで運悪く私達に集中した可能性だってあるんだし。」


(ネコ様、どうしましょうか。)

(コーリィも同意しておくである。吾輩からしても嫌な予感がするである。)


「私も嫌な予感がするから帰った方がいいと思うわ。」


 どうやら全員の意思は一緒の様で、ロッテもリンピオも頷き返す。

 オークを回収し、いざ帰還しようと思った矢先、全員の持つギルドカードが赤く輝く始めたではないか。


 カードを取り出すと、緊急通達という文字が浮かび上がり、以下の文章がギルドカードを埋め尽くした。


『緊急通達

 現在、オークの数は400を上回る勢いで増えている模様。厳密に調査したところ、軍隊の中にオークキング並びにオーククイーンが存在していることが発覚した。

 オーククイーンはオークキングと並ぶオークの中でも完全上位種で、生物を喰らうことで同時に15体以上のオークを産む。

 そしてオークキングは、幼体を一気に成体にする能力を持つため、異様なオークの増殖に繋がっている。

 オークキングもオーククイーンも普通のオークとは比にならない強さを持っているうえ、奴らの繁殖したオークの中にオークジェネラルやオークプリースト、ウィザードといった上位種も生まれている模様。

 これにより、Eランク・Dランクの冒険者には危険と判断しDランク以下の冒険者は急ぎ、帰還を命ずる。

 また、A・B・Cランクの冒険者も危険と判断すれば、体勢を整えるため一旦帰還するべし。決して無理な戦いをしないように。

 そして異常事態につき、これよりギルド長バジット並びギルド職員もオーク殲滅に参加する。

                        アステルニ冒険者ギルドより』


 なんかとんでもないことになっているであるな!

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