第5話 ワーウルフの集落である
「――い、おいネコ!着いたぞ!」
「にゃっ?」
……むむっ。ギィガの頭のあまりのふかふかさに吾輩寝てしまっていたであるか。
いやぁ、一時はどうなるかと思ったが、速さも慣れると良いものであるな。
風が中々に心地よかったからまた乗ってみたいである。
「ったく、まさか寝るとは思わなかったぞ?結構な速度出したと思うんだけどなぁ……」
呆れるギィガを尻目に吾輩は地に降り、辺りを見渡す。
ほう、確かに少し離れたところに小さな家の様な建造物がちらほら固まっているであるな。
あれが集落であるかー……む?ギィガ同様のワーウルフらしき者共が何やら騒いでいるであるな。
「ギィガ。何やら騒いでいるようであるが?」
「あー、ありゃ多分俺が帰ってこねぇからそれじゃねぇの?」
そういえばコイツ、自分は長とか言っていたであるが、その長がそんなにのんびりしてていいんであるか……?
集落、どう見ても大騒動であるぞ?
しかし吾輩の心配とは裏腹に、ギィガは集落に向け、どんどん進んでいくので……まぁ吾輩も奴の後をついていった。
「……長?」
お、集落のワーウルフの1人がこちらに気付いたようであるな。
その1人につられ、他のワーウルフの視線にこちらに移り口々に――
「長だ!」
「長が帰って来た!!」
「ギィガの奴、やっと戻ってきやがったか。」
「おい!ラナイナさん達を呼んで来い!」
とまぁ、皆が皆嬉しそうに「長、長」と言っている当たり、本当にギィガは長であったであるな。
こんな馬鹿っぽそうな奴が長って正直信じられなかったであるが、事実だったみたいである。
「ようお前ら!心配かけちまったようだな。」
ギィガの一言でワーウルフ達は喜びが沸き上がったように歓声が上がり、こちらに駆けてくる。
中には感極まって、狼のように遠吠えをするものまでいる感動的な場面なんであるが、うるさいのである。
それにしても……ワーウルフと言ってもギィガのように狼頭で毛がもっふもっふってわけでも無いみたいである。
狼頭もいれば人の顔に犬耳が生えたのもいるし、体も人間に近しいのもいるであるな。
「なぁ長!その横にいるのは何だ!?獲物か!?」
「見たことのない魔物ね……」
「だが肉少なそうだぞ?」
……は?もしかしなくても吾輩今、こやつ等の食糧扱いにされているであるな。
ジロリとギィガを睨むと吾輩の視線に気付き、苦笑いを浮かべる。
「あーそのだな、こいつは獲物じゃねぇ。寧ろこいつは俺の恩人だ。」
「恩人……?長、一体何があったんですか?」
ギィガは今までの経緯を事細やかに、ワーウルフ達に伝えた。
自分が奴隷商に捕まって連れ去られそうになった時、荷車に急に吾輩が現れて、鎖を破壊してもらい、奴隷商共を殺し、今に至る――
「そうだったんですか……申し訳ございませんネコ殿、ご無礼をお許しください。同時に長を救っていただき有難う御座います。」
「うむ、次から気を付けるであるぞ。」
説明が終わると、ワーウルフ達は吾輩に向け跪き、頭を下げた。
まぁ、説明もなしに長が魔物を連れてきたら獲物と勘違いされても仕方ないのでとりあえず許すことにした。
吾輩は出来た猫であるからな。小さいことは気にしないのである。……多分。
「お父さん、帰って来たんだね!」
「おかえりなさい、あなた……」
「おう!ラナイナ、ティナ!帰ったぞ!」
おおう?人間に近い姿をした女ワーウルフの2人が民衆の奥からやって来たと思うと少し身なりが小さい方がギィガに抱き着いた。
確かワーウルフの1人がラナイナという名前のものを呼んでくるとか言っていたであるな。
よく見たら抱き着いた方のワーウルフの頭に生える耳や髪の毛並みは銀色と柔らかさを持っていてどこかギィガを彷彿とさせ、顔立ちはもう1人の女ワーウルフに似ている気がするである。
ん?小さい方の視線がこちらに向いて……オイ、何であるか。オイ、いきなり吾輩を抱えるでない!
「お父さん、これ何?獲物?」
「これ呼ばわりとは失礼であるなぁ!?」
「うわ、喋った!」
「うわとか言うでないである!!」
何であるかこの娘!温厚な吾輩でも持ち上げられて獲物扱いされた日には怒り心頭であるぞ!小さいことは気にしない?ンなもん忘れたである!
「あーティナ。そいつは獲物じゃ無くてな、俺を助けてくれた恩人なんだ。降ろしてやってくれ。」
「お父さん!すごいよこの魔物!足の裏スゴイぷにぷにして気持ちいい!」
「勝手に肉球触るなである!」
この娘、自由にもほどがあるであるな!これには覚えがあるであるぞ!生前、我が友の元に訪れた孫とやらと同じ対応である!
「すまねぇな、ネコ。そいつは俺の娘のティアっていうんだ。んで、こいつが俺の妻のラナイナだ。」
「ティナだよ!よろしくね、魔物!」
「ネコってお前の父が言っていたの聞こえていなかったであるか!名前を呼ぶである!」
「あらあら、ごめんなさいね、ネコさん。娘が失礼なことを……」
そう思うのであれば、さっさとこの娘を止めてほしいのであるが。
もういいのである、どうせこのティナという娘も我が友の孫と同様飽きたら離すであるからな。
と思っていた時期が吾輩にもあったのである。
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