第125話 冒険者の救援である!

「すまない遅くなった!カルラよ、壁を開いてくれ!」

「分かった……!」


 バルダーモの声を受け、カルラはアースウォールに触れ、再び魔法を行使する。魔力の通った土の壁は細かく振動すると、カルラが触れたところから縦に線が入り、そこより自動ドアのように横へ開いていった。

 そしてその先には、50名あまりの冒険者が揃っていたのである。勿論、コーリィ達もいる。


「おらぁ!野郎ども行くぞ!」

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 誰ぞの声かは分からないが、その一声で冒険者たちは魔物へ躍りかかったある者は剣で、ある者は弓で。獣人と我輩だけで何とか今まで持ちこたえていたであるが、一気に戦況がこちらに傾いたようであるな。

 む、コーリィ達はこっちに向かってくるであるな。


「ネコ様、申し訳ありません寝坊してしまいました。」


 コーリィは眉尻を下げ、謝罪を述べるが、別にコーリィが悪い点は一切ないである。ので、我輩は気にするなとだけ告げ、九尾の方に視線を向ける。

 奴の方にも冒険者は向かっている。いや、他の魔物よりも大人数で相手をしているであるな。実際奴を1対1で仕留められることは困難であろうからな。


「あの狐ってもしかしなくても、この前の奴よね?」

「である。」

「でもあれ……ネコでも勝てないんでしょう?あいつらにやれるの?」

「やってもらわねば困るであるが……」


 正直なところ、無理であろうな。今だって九尾の前に何人も倒れ伏している。生半可な冒険者では抑えることも難しいであろう。

 急いで我輩も回復せねば……!と言っても、疲れから動くこともままならないので、マジックボックスから回復薬を取り出しコーリィに飲ませてもらうである。……まずっ!

 吐きそうになったが、何とか取り直し、ポーションを飲み干す。

 ――そうしているうちに魔物たちは数を減らし、ついには九尾1体のみになっていた。ただ、その九尾が倒せていないのであるが。

 だがそこで奇妙なことが起こった。冒険者と戦闘を繰り広げていた九尾が不意に動きを止めたのだ。

 傍目から見ればとんでもない隙をさらしている様に見えるだろう。それでも冒険者たちはその異様な光景に動けずにいた。

 どこか不安をあおる数秒が過ぎたとき、九尾の口が開いた。


『いやぁー!すげぇなぁ、正直舐めていたよ!王都の連中、やるもんだなぁ!』


 九尾のその口から放たれたのは、どこか軽薄そうな印象がある声だった。

 誰もが頭にクエスチョンマークを浮かべる中、九尾は気にせずさらに口を動かす。


『装備させたただの魔物どもじゃ手も足も出ないのも納得だ!戦力の温存なんてするもんじゃねぇな!ってことでよ、ごつ盛りお代わりくれてやるよ!キヒャハハハハ!!』


 何とも不愉快な笑い声で訳の分からないことを言う九尾……いや、これ喋っているの九尾なのであるか?


「な、あぁっ!?」


 不意に上空を飛んでいたバルダーモが驚嘆声を上げ、震える指先で前を指し示す。

 それに釣られた我輩たちはその視線の先に目を向け、驚愕することになる。


「お代わりて、そのまんまの意味であるか!」


 そこには武装した魔物たちがいた。ただ、先ほどとは違い……何というべきか纏っている雰囲気が違う。人間で例えるのであれば歴戦の勇士であるような?

 冒険者が驚嘆する中、ポツポツと声が上がった。


「あ、あのゴブリンナイト、ガーマローの連れていたベイジムじゃ……あいつの剣も持ってるし!」

「それにあのグレイウルフ……目の傷!間違いない、ケティリーのシンディアだ!」


 まさか、奴らは今まで従魔であった魔物たちであるか!であるとするならば、かなり不味いのでは?どう考えてもそこらにいる魔物よりも従魔として鍛えられてきた魔物のほうが数段強い。そしてその従魔たちが他の冒険者たちの戦い方を覚えているのであれば……厄介この上ない。


『キヒッ!いいねぇいい顔!そうなんだよぉ!こいつら元々は従魔!いやぁ主人に襲わせたときは快感だったぜぇ?襲われた奴らみーんな信じられないって顔するんだよ!いや当たり前なんだがな!普通じゃ思いもよらねぇからな!だからこその絶望感!』

「いや口閉じろ、普通に耳障りである。」


 一切笑っていないのにその口から笑い声を漏らす九尾に我輩はイラつき、尻尾を叩き込まんとするが奴め、難なくよけやがった。


『おっとぉ?喋りの途中だぜぇ?見たことない魔物ちゃんよぉ、いんやぁ、ネコだっけ?』

「よく知っているであるな。」

『そりゃあよぉ有名だぜぇ?喋る見たこともない魔物!そーりゃ名前や姿も出回るってもんだ!』

「……道理であるな。」

『ま、お前は叩き潰してからじっくりと俺のもんにしてやるから待ってろよぉ?ンでその後に!お前の周りの女共を殺させてやるよ?』

「ほう?だが我輩が殺したいのは貴様の方なのであるが?」

『ケヒャ!勘弁願いてぇな!っととそうだそうだ!お前さぁ、――後ろに気を付けたほうがいいぜ?』

「は?――ぐっ!?」


 九尾からの声に理解できずにいると不意に横から強い衝撃が我輩を襲った。吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられ我輩に痛みが襲う。

 一体何が起こったであるか!?我輩の後ろにはポチ以外の魔物はいないはずだし九尾も一切動いていない。攻撃を加えるような者など!我輩が先ほどまでいた場所に視線を向けると、そこには信じられない人物が立っていた。


「……ティナ?」


 ティナは何も答えずゆっくりと顔をこちらに向けた。

 その目は赤く充血していた。まるで、先ほどまで戦っていた魔物のように。

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