第123話 カルラの頑張りである!

 鳥人からの声に、この場にいる全員が息を呑む。……いや、カルラだけはいつものすまし顔であるな。ぶれんであるなコイツ。

 それはさておき、魔物の大群とは……妙な気配と言いどう考えても偶然じゃないであるよな。

 次第に我輩の耳にも地鳴りのような音が届き、それがどんどんと大きくなるもの分かってくる。あ、まだ小さいが姿も見え始めたであるな。鳥人の言葉通り様々な魔物がいるである。


 ダンジョン産ではない魔物は同種以外の魔物は基本敵同然となっている。ゲームのように「オークAが現れた!じんめんちょうが現れた!オークBが現れた!ゴーレムが現れた!」とはならないのである。もしなったとしても、人間対魔物ではなく、バトルロイヤルに発展する。

 勿論ここはダンジョンではなく屋外である。故にこの事態は――異常である。

 気配につられ、外に出てみれば魔物の軍団。この場にいた冒険者面々はたじろぐ。しかし、そこで一つの声が上がった。


「鳥人!名は!」


 声をあげたのは、カルラであった。いつも淡々としゃべる彼女とは思えないほど、声を張り上げ、空を飛ぶ鳥人に声を掛けた。


「むっ!俺はバルダーモだ!」

「ならバルダーモ!あなたは街に戻ってギルドマスターにこの状況を伝えて!」

「分かった!しかし、もう間もなく接敵するぞ!?」

「私なら足止めできる。」


 自信に満ち溢れたカルラの言葉に、バルダーモはそれ以上何かを言うことなく頷くと素早く王都シャスティの方角へと飛び立った。

 それを見送ると、カルラは再び声を張り上げる。


「バルダーモの言った通り間もなく魔物と接敵する!これから私はアースウォールで壁を作り、魔物を足止めする。そうなったら、私たちも後退できない。だから、戦えないと思った者はバルダーモの後を追ってシャスティに戻って。」


 アースウォールで壁を作って足止めてさらっととんでもないこと言ってのけたであるが、カルラは大丈夫なのであろうか。あれを止めるほどの壁って相当の魔力を消費するのであるが?

 おっと、そんなことを考えている間に数人が、申し訳なさそうな顔でバルダーモの後を追っていったであるな。まぁ責めることはできないであるよなぁ……

 で、残ったのは我輩とティナとカルナと……ケンタウロスとワーウルフ。あと羊の獣人であるか。


「ティナよ、我輩は魔核大量に食えそうだから残るであるが、お前はどうするであるか?」

「もっちろん残るよ!1人だけ帰るなんてヤ!」


 愚問であったな。ふんすと鼻息を荒くするティナはやる気満々である。

 む?男のワーウルフがこちらに向かってきたであるな。


「よう、嬢ちゃん。俺ぁドルフってんだがよ、名前教えてくれねぇか?」

「うん?私はティナだよ?」

「そうか。……でよ、ティナちゃん。お前さんのおふくろの名前教えてくれねぇか?」

「ふくろ?」

「母親の事である。」

「お母さん?ラナイナだよ?」


 その名前を聞くと、ドルフは目に手を当て天を仰いだ。いきなりどうしたであるか?

 ティナもティナで、ドルフの行動に首を傾げる。


「そうか、そうかぁ……やっぱりラナイナの子供かぁ。通りで似てるはずだ。」

「お母さんの知り合い?」

「あぁ。……親父の名前はギィガだろ?」

「そだよ?何で知ってるの!?」

「そりゃそうさ。俺は昔、ギィガとラナイナを賭けて決闘したんだからな。」


 え、何であるかその話。滅茶苦茶気になるのであるが……魔物は待ってくれない。足音はもう間近である。

 「後でな。」と言葉を残し、ドルフは二対の短剣を鞘から取り出すと魔物の軍勢に向け、歩き始めた。他の獣人冒険者も各々武器を取り近い時間やってくる魔物に備えた。


「さて、始める。」


 コキコキと首を鳴らし陸上のアスリートのようにぴょんぴょんと跳ねるカルラ。1年前もカルラの戦いを見たが、彼女は近接戦闘を得意としていて魔法を使った様子などなかったのであるが……

 そんな我輩の心配を察したのか、カルラはこちらを向くと微笑んだ。


「心配しなくてもいい。私は鍛錬積んでいまやSランク冒険者になった。」

「……は?」

「”アースウォール”」


 いつの間にという我輩の言葉は地面が盛り上がる音によってかき消された。

 土の壁……いや、地面の壁と言った方が正しいのであろうか。カルラの後方からどんどんと壁が……待ってこれ我輩の想像以上なのであるが?壁の端見えないのであるが?


「流石に壁作り過ぎた……?疲れた。」

「いやお前凄いことやってのけるであるな。」


 魔力を使い過ぎたのか、カルナは生み出したばかりのアースウォールに背を預け荒げた息を整える。

 この様子では、カルラは少しの間動けないであるよな。であれば我輩らが魔物を動きを止めるしかない。


「ティナ、迎え撃つであるぞ。」

「うん!」


 瞬間、我輩の眼前に不意に白い何かが現れた。一瞬では何かか理解できなかった。しかし、本能的に尻尾が動きその白に攻撃を仕掛けた。貫いた感触は―ない。避けられたであるな。その代わりに避けたことで足を止めた白の正体が明らかになった。


「まぁたお前であるか。帰れ。」

「キュルルァ……」


 九尾の狐め。

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