第18話 ニア達の代表である。
「街に着いたのはいいであるが、これからどこに行くのであるか?」
「私達の商店さ。何、すぐに着くから気楽に待っていなよ。――おっと、悪いけど荷物の中に紛れておいてね?箱をノックしたら出てきてね。」
言われた通り荷物の箱の中で休んでいると不意に宙に浮くような感覚に襲われる。フロートは発動していないし、中の荷物と共に揺れる感覚がある。
「おう、ニア嬢この荷物も倉庫でいいのか?」
頭上から男の声が聞こえる。吾輩が入っている荷物を持っている男の声であるな。
「あぁ、それはーっと……いや、それはタオラさんの所まで持って行ってくれ。私も行くから。」
「おやっさんの所?よく分かんねぇが分かった。なんかすげぇもんでも仕入れたのか?」
「そんなところさ。」
ふむ?タオラとやらに何か用でもあるのか?いや、十中八九吾輩の事であろうな。
しかしこの荷物の中は揺れるからイカン。男は吾輩が中にいることを知らないからゆっさゆっさと運ぶからたまに中の果実が頭にぶつかるし面倒である。
暗闇の中聞こえる二つの足音が不意に止まるが、到着したであるか。
「タオラさん、ニアニです。入ってもよろしいでしょうか?」
扉をノックするような音の後、また遠いところから「どうぞ」と声が聞こえた。
「失礼します。あぁ、荷物はここにおいてくれ。」
「あいよ。んじゃ俺ぁ失礼しますよ。」
ぐへっ、男め、乱雑に荷物を置きやがったな。衝撃がモロに来たであるぞ。
「さて、ニアニさん。今回もお疲れ様でした。ギィガさん達はお元気でしたか?」
落ち着いた渋く低い男の声が聞こえたが、この声がタオラであるか。
聞き耳を立ててみるが、ニアとタオラ以外の声は聞こえない。この空間には2人だけであるな。吾輩入れると2人と1匹であるが。
「えぇ、今回も美味しいお野菜やお肉頂いてきました。」
「それは何より。――で、それだけなら別に帰ってすぐ報告でなくてもよいはずですよね?何かあったのでしょう?……その箱ですか?」
「流石、話が早くて助かります。」
コンコン、と上から乾いた音が聞こえる。ニアがノックしたのであろう。先ほど言われた通り吾輩は、尻尾で内側から箱のふたを開き、飛び出た。
ふむ、部屋はまぁまぁいい造りをしているであるな。本棚に難しそうな本が一杯並んでいる。
部屋を一回り見ていると、中央にある大きな机の向こう側、壮年の男が立っていた。奴がタオラであるか?予想以上に質素な服を着て体格も痩せ細いであるな。
「これは……ニアニさん、見たことのない種ですが魔物ですか?」
「はい。私とマキリーが集落で出会った魔物です。」
そう言うとニアは吾輩を抱き抱え、タオラと目を合わさせる。自己紹介しろという事か?まぁいいである。
「初めましてである、タオラ殿。吾輩はネコ。種族は黒魔猫と言うらしいであるぞ。」
「!!ほう、言葉を理解し、会話できる魔物ですか。……おぉっと、失礼しました。私はタオラ・アバノーニ。この商会で代表を務めているものです。」
タオラは頭を下げ、魔物である吾輩に挨拶をする。ニアと比べて丁寧な御仁であるな。ニアもこんな感じで挨拶すればよかったのに。
「私がネコくんをここに連れてきたのは、うちで彼の狩ったワイバーンの解体をしてほしいからなのです。」
「お1人でワイバーンですか。それは素晴らしいですね……構いませんよ。買取もうちでするんですよね?」
「まぁ、ネコくんは冒険者ではありませんからね、その方がいいかと。あと全て買い取る訳では無くて魔核や各素材は売らずに引き取るそうなのでその分を引くと、大銀貨2枚ほどかと」
「そうですね、それだとそのくらいが妥当ですかね。……えぇっと、ネコさんとお呼びしても?」
商人2人の流れるような会話に唖然としていると不意に話を振られた。
「んあっ、構わんである。」
「ありがとうございます。ネコさん、買取の件は了解しました。ネコさんもよろしいですか?」
「構わんであるが――1つ聞きたいことが。」
「はい?何でしょうか。」
「吾輩でも泊まれる宿は……あるであるか?」
そう、今は草木も眠る真夜中……この街で拠点を持たない吾輩としては宿を見つけておくのが大事である。
しかしこの身は魔物。そうそう泊まれる宿がある訳もない。野宿してもいいのであるが、魔物が街の中でグースカ眠っていたらどうなるか?
当然襲われるか捕獲されてしまうだろう。吾輩、どうにも見たことのない種族の魔物らしいから捕獲の可能性の方が高いである。
「残念ですが魔物使いが連れている魔物ならいざ知らず、単独で泊まれるところなんて聞いたことありません。」
「そうであるか……」
残念だが仕方ない。魔物云々は吾輩が望んでなったのだから悔やむつもりはない。が、そうであるなぁ……最悪この街を抜け出して外で野宿した方が良さそうである。
「ですからネコさん。今日はうちに泊まられては如何でしょうか?今日も夜遅いですから、今から解体師に働いてもらうのは少々申し訳ないですからね。」
「……料金は?」
「いいえ、結構ですよ。――ニアさん。貴女の部屋にとめさせてあげなさい?」
「はい。ネコくんサイズでしたらスペースに困るわけでも無いですからいいですよ?」
何という事だ……吾輩、今初めてニアが素晴らしい人間だと思ったである。
「あの、ネコくん?その妙にキラキラした目は何かな?今までにそんな目向けたことなかったよね!?」
そういう訳で吾輩のワイバーン買取は明日へと持ち越しになったである。
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