第73話 貴族じゃ無くていいである?

「そもそも、私――いえ、ディアント家には貴族と言う立場はしがらみでしかありませんでした。」

「は?え?ちょっとまて、コーリィ。ディアント家が?」


 再興しなくてもいいという爆弾発言に加え、コーリィは更なる爆弾を投入してきたではないか。

 もはやライアット王は、混乱しきっているようで、眉間を手で押さえてるであるな……絶対腹痛めているであるぞアイツ。

 しかし、コーリィはそんな王の様子など一切気にせず言葉をつづけた。


「はい。以前、酒に酔っていた父が零していました。『王への義理で貴族になったが、正直間違いだったかな……冒険していた時期が懐かしい』と。」

「本当か?」

「母もそれに同意していましたよ?『貴族になってからあまり暴れられなくなって暇だわー』って。」


 ほー、コーリィの両親は冒険者なのであったのか。

 ま、確かに貴族になったらそこに留まらなくてはならないし、領地のこととかいろんな仕事が舞い込んで冒険どころではなくなるであろう。

 吾輩が前世でよく読んでいた本でも貴族になった主人公がいたであるが、あれ仕事どうしているんであろうか……?

 さて、衝撃の真実を知らされた王は――アカン、乾いた笑みを浮かべているではないか。


「ですが、自分と違って闘う事の出来ない弟も貴族にしてくれたのは有難かった。とも言っていました。」

「ん?弟であるか?コーリィ、お前叔父がいたのであるか?」

「はい。でもネコ様、その方と会っていますよ?」


 会っている?と言われてもだな……ここに来て会った貴族と言うと……あの謁見の間にいた貴族達の誰かという事になるのであろうが……

 む?確か騎士も貴族ということになるのであったか?それなら結構な数にあったと思うであるが……護衛の3人は除いたとして印象に残っているのは騎士団長ルーデリクであるかな?


「クレードさんです。」


 …………ん?

 ク、クレ?クレード?……んん?聞いたことあるような無いような……


「誰であるかそれ?」

「やはりネコ様は覚えておいででないですよね。あの謁見の間でネコ様に噛みついてライアット王に下がれと言われた――あの人、子供のころから変な目で見て少し嫌いなんですよね。」

「あぁあの赤髪のおっさん……髪色はディアント家の遺伝であるか。」


 コーリィ曰く、その叔父クレードはディアント家ではなくまた別の家名を持っているらしい。

 クレード本人が希望したらしく、家名を別々にするという事は赤の他人になるようなものらしいが、グラァードもそれを了承とのことだが……ふむ、何故であろうな?

 別に同じ家名でも良かろうに……何か訳があるのか?それとも、単に嫌であったか?

 ま、吾輩からしたらどうでもよいことであるな。


「確かにクレードは優秀だ。優秀なのだが……妙にプライドがあってなぁ。今日のネコに対するあれもあったしなぁ。」

「あれはどうにかならんのであるか?貴族として問題だと思うのであるが?」

「王は人を動かせても人の性根までは動かせんのだ……」


 ライアット王も苦労をしているようであるな。

 辞めさせればいいものの、自分で貴族にした手前、そう易々と辞めさせることは出来ないのであろう。

 だが、吾輩が口出す問題でもないし、クレードを貴族にして更に近くに置いたのはライアット王の責である。吾輩の知ったところでないであるな。


「ところで……お前達、明日からどうするつもりだ?」

「どうするも何も、城下町に出るつもりだが?食べ歩きであるぞ?」


 何を当たり前のことを言っているのだこの王は。

 吾輩がそう連日続けて城に引き籠る訳が無かろうが。

 本当であれば今すぐにでも外に出て城下町を堪能したいところなのであるがな。


「お前、まだ俺は外に出していいと言った覚えはないぞ?」

「知らん。吾輩が外に出たいのである。」

「お前勝手すぎないか!?」


 勝手も何も、別に吾輩がそうしたいのであるからそうするのであるがな……今までアステルニで何事もなく生活を送れていたのをほぼ無理矢理連れてきたのはお前らであろうに。


「チッ、こんなのが主人だと苦労しないか?コーリィ。」

「いいえ?ネコ様はとっても素敵だと思います。」

「心配になって来るなぁ……はぁ分かった分かった!許可する。漆黒魔猫ネコよ。貴様は我が国で妄りに悪事を行わない魔物とライアット王の名を持って認める!レイネ、書類を用意しておけ。」

「かしこまりました。では、失礼します。」


 ライアット王から名を下されると、レイネは軽く頷き、瞬時としてその身を消した。

 その書類とやらを取りに行ったのであろう。


「普通だったらもう少し考えたいところなんだがな、コーリィも信頼しているようだし、大丈夫だろう。」

「という事は、明日は町に行っても?」

「あぁ、構わん。だが、コーリィの両親の墓には行ってやってくれ。」


 言われるまでもない。もとよりそのつもりではあった。

 それぐらい、対した時間ロスにはならんであろうしな……朝一に行くであるか。

 こうして吾輩たちとライアット王の夜のお話は終わった。

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