第55話 山分けの相談である?

 翌日、体もすっかり回復したようで、足も尻尾も思ったように体が動く。というか動きすぎる気もするのであるが……進化の影響であろうか。

 いつものようにコーリィを伴い、解体所に赴く。昨日はニアが付いていくとは言っていたので部屋の前まで行ったのだが、中から聞こえたのは静かな寝息。やはりと言うべきかあ奴は今も夢の中である。


「親方ーいるであるかー?」

「親方さーん?」


 む?返事がないであるな。約束をたがえる男とは思えぬであるが……まぁ入ってみればいいか。

 こ、これは……中では親方と数少ない解体師たちが血腥いであろう床の上で死んだように安らかな寝顔で雑魚寝していた。そりゃ返事もできまいか。

 オークどもは綺麗に肉と骨と皮に分かれており、ジェネラルとソルジャーの魔核もちゃんと並べられていた。

 このまま勝手に肉を回収すると怒られそうなので、少しかわいそうではあるが、親方だけでも起こした。


「んぉっ!?……なんだ、ネコの旦那か。」

「お疲れ様である。夜通しだったのであるか?」

「まぁなぁ……我ながら少ない人数でよくやったと思ってるよ。こりゃ代表に言って給料に色つけてもらわねぇとな。おっと、オークの素材は持って行ってくれてかまわねぇぜ。素材の内容はこっちで把握してっからよ。」


 それではとお言葉に甘えてさっさと解体されたオークをすべて回収した。

 回収し終えたところで、もう一度親方に礼を言おうかと思ったが……親方に視線が向いた時には彼は床に寝そべりもう夢の中へと旅立っていた。


「……コーリィ。静かに退室するであるぞ。」

「そうですね。」


 心の中で礼を述べ、吾輩たちは静かに解体所を後にし、冒険者ギルドへと向かった。




 冒険者ギルド内は大騒ぎだった。だがそれは、オーク来襲からくる緊迫した雰囲気とは異なり、むしろ逆ともいえる。楽しげな騒がしさであった。

 多半数の冒険者が片手に酒の入ったコップを持ち高く掲げているである。あぁ……この様子から見るにオークの件は片付いたと思ってもいいであるな。

 さて、あ奴らは……おぉ吾輩たちに手を振る者が。


「おーい、コーリィ!こっちこっち!」


 ロッテにリンピオもいるであるな。それに――


「ワウワウ!」


 ぬおぉっ!?ポチがスゴイ勢いでやってきたぁ!?くそっ、包帯こそ巻いているであるが、こいつ完全に回復しているであるぞ。

 お、おい待つである。お前何吾輩の首根っこ咥えているであるか。いや、痛みは感じないであるが……おい、そのまま運ぶでない!


「ネ、ネコさ……」


 吾輩はポチに連れ去られ、コーリィはそれを追いかけることで、ロッテ達のいるテーブルにたどり着いた。

 着いたら着いたらで挨拶のようにポチにぺろぺろと体中舐められるし……気に入られたものであるな。


「ポチはすっかり治ったの?」

「私もびっくりよ。朝起きたらケロッとしてたんだもの。怪我していたのがウソかと思うくらい。」


 吾輩はポチに一切癒しの肉球などの医療行為はしていないであるからポチの回復力は相当なものなのであろう。

 少しばかり談笑したところで、そろそろ素材の山分けといくであるか。

 これぐらいの騒がしさなら吾輩が話しても気づかれないであろう。気づかれたときはそん時はそん時でどうにかするであるか。


「コホン。では、素材の山分けするであるか。」

「それなんだけどね、オークソルジャーとジェネラルの素材はネコたちのものでいいわよ。」

「む?いいのであるか?吾輩、勝手にオークの魔核を平らげてしまったからその分ジェネラル等から分けようと思っていたのであるが。」

「いやいや、それをしなかったら少なくとも俺はお前を助けに行っておきながら死ぬとか恥ずかしい目にあってたんだからな。もらってくれ。」


 そういうのであれば、遠慮なくもらっておこう。

 明らかにオークよりも魔核は力はあるだろうし、素材は高く売れそうであるからなー、楽しみである。


「んじゃとりあえず20体であるから、1人6体であるな。残りの2体は……」

「おいおい、ネコ。それ以前になんで俺まで分け前もらえる話になってるんだよ。」


 ふぅ、言うと思ったである。

 確かにリンピオがこのパーティに入るとき、条件として自分の報酬を全てコーリィに支払うというのがあった。

 もちろん忘れたわけではない。


「いや、吾輩たちは討伐した報酬のみお前からもらうだけであるから。素材までもらう気はないである。なぁ?コーリィ?」

「えぇ。私もネコ様と同じ認識であなたをパーティに入れましたからね。」

「そ、そうは言われても……なぁ。俺に受け取る権利は……」


 煮え切らない奴であるなぁ……もらえるものなら貰っておけばいいものの。損をするタイプであるな、間違いない。

 その時、バン!と大きくテーブルをたたく音がし、近くの冒険者は一瞬、視線をこちらに向けるがすぐに自分たちの世界へと戻っていった。

 音を出したのは吾輩でもロッテでもなく、握り拳を固めた。コーリィであった。その顔は一目見てわかるほどイライラしていた。


「いいから受け取りなさい!あなたには受け取る権利があるんです!」


 あまりの怒気を含んだ声に、怒られていないはずの吾輩も身が縮まってしまう……怒られた本人はたまったもんじゃないであろう。実際リンピオはすごく圧倒された様子でコクコクと頷いた。

 受け取らないとさらに怒られる。そう思ったのであろうな……


「ふぅ……失礼しました。では改めて話し合いましょうか。で、2匹はどうしましょうか?」

「ハイ、それならいい考えがあるわ。」

「何であるか?」

「その2匹分の素材は全部ギルドに売っちゃえばいいのよ。その買取価格を三人で分配……でどう?」


 ふむ、それならば確かに後腐れなく分けることができそうであるな。

 ロッテの提案に全員同意の意を示した。


「では、それぞれの素材であるが……吾輩たちの分は売るところが別にあるから、ここで売る気はないである。2人はどうするであるか?」


 売るところというのは言うまでもなくタオラの店である。

 もし、オークの素材に売る以上の価値があるというのなら聞いておきたいであるからな。

 

「俺は……全部売るな。別に欲しい部位があるわけではないしな。」

「私は肉は少しポチの御飯用に持っておくつもりよ。それ以外は売るわ。」


 売るのは冒険者ギルドでいいかと聞くと2人ともそのつもりらしいので、これで話し合いは終了。

 全員で昨日の報告+買取をしてもらうべく、依頼達成受付の列に並んだ矢先に受付奥からペルラがやってきたではないか。何事であるか?


「あ、コーリィさーん!至急執務室に来てくださいってギルド長がお呼びですー!もしよろしければパーティの皆様とご一緒でも構いませんのでー!」


 え?何故?

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