第54話 コーリィの決意表明である!

「すまねぇ、ネコの旦那。あんな大見得きった手前言いにくいが、こりゃ時間かかりそうだぜ。」


 大量のオークの中の1匹に取り掛かった親方であったが、まーいかに親方といえどこの量をすぐに解体するのはさすがに無理だと思ったのであろう。

 もちろん吾輩だってそんなことは百も承知である。


「そんなことであろうと思ったである。で?どれくらいには仕上がるであるか?」

「ンーとな、明日の朝にはなんとかいけると思うぜ。」


 それならば吾輩は一向に構わんである。明日パーティの全員で獲得物を山分けにするのだからそれに間に合えばいいのであるからな。

 明日またここに立ち寄ることを約束し吾輩たちは解体所を後にした。



 あのあと吾輩とコーリィは、ニア達と一旦別れ、借りている自室に戻った。

 少しずつではあるが吾輩の体は動くようにはなったであるが、それでも満足に動けないので柔らかいベッドの上で寝そべる。


「ふぅ……今日は疲れたである。」


 おっと心に留めておくつもりだったのが、つい口に漏れてしまったである。

 ちらりとコーリィに視線を移すと、彼女は椅子に座り吾輩をジッと見ているのに気づき、慌てて視線をそらしてしまった。


「お疲れさまでございます、ネコ様。何回も言いますがご無事でなりよりでした。」


 うぐっ、見えない針が吾輩の心に突き刺さるであるぅ……


「心配かけたであるな。」

「えぇ、全くです。」


 そう言い、コーリィは不機嫌気に頬を膨らませながらプイッと顔をそらす。

 命令ゆえ仕方なかったとはいえ、主人である吾輩を置いて逃げさせられたのだ。思うところがあるのは当たり前か。

 しかしその顔はいくらか子供っぽいぞと言いたかったが、それを言ってしまえば後が怖いから黙っておこう。


「それでもネコ様は同じ状況になったらまた私を逃がすのでしょう?」


 吾輩はその問いを沈黙をもって答える。まさにコーリィの言った通り吾輩は繰り返すであろうな。

 吾輩の沈黙をどう取ったかわからないが、コーリィは顔を引き締め、ジッと吾輩を見据え、告げた。


「ネコ様。私、強くなります。ネコ様に守ってもらわなくてもネコ様の横…いえ、背後で闘えるように強くなります。」


 ……ククッ。そうかそうか、思わず笑いが込み上げてきたではないか。

 そうかそうか、横ではなく背後であるか。何とも吾輩を立たせようとするコーリィらしいであるな。


「デアルカ。そう決めたのであるなら励むである。それなりに応援しているであるぞ」

「えぇ、ありがとうございます。まずは魔法を使わなくとも近距離戦でもリンピオさんに勝てるくらいには強くなりたいと思います。」


 何故そこでリンピオが出てくるのであろうか……流石に嫌いすぎではないであるか?

 いや、逆か?今までリンピオにあまり関わろうとしなかったコーリィからその名前が出ただけでも充分認識が変わったのであろうか。

 それに近距離であ奴に勝とうとは。一応あんなのでも近距離戦は本職であるぞ?


「さて!これで私の決意表明は終わりです!」


 あ、決意表明だったのであるか。そんな吹っ切れたような顔をしちゃって……まぁ頑張るであるよ。なんて呑気なことを考えていたら不意にコーリィが吾輩に笑いながら迫ってきた。

 あ、この笑みは駄目だ。アカンと吾輩の頭が警鐘をならすが逃げようにも逃げられない。立ち上がろうにもうまく立ち上がれないのであるからな!

 無駄な抵抗をしようとする吾輩をコーリィは無慈悲にも両前足を掴みあげ、宙づり状態にする。おう、これでも吾輩主人ぞ?


「ところで、ネコ様?ティナちゃんとは一体どなたでしょう?」

「へ?ティナ?」


 なんだ。また吾輩何かやらかしたかと思えば(そもそも過去何かやらかした覚えすらないのであるが)ティナのことであったか。

 そういえばコーリィにはまだ……あれ?話していなかったであるか?

 コーリィが膨れっ面な理由はよく分からんであるが、夕飯まで時間は十分にあるであろうから、説明するであるか。


 転移したことをぼかしながらワーウルフの集落での出来事を説明するが、所々ティナの話題が出る度に眉がピクンとうごいたり口がへの字になるのは何故であるか……?


「――とまぁこんな感じである。ティナが泣いたときは参ったであるなぁ……『ネコについていくー!』だなんて。ハハッ、懐かしいである。」

「なるほど、そんなことが……」


 話を聞き終えるとコーリィは俯き、なにかを考えるように押し黙った。

 吾輩もそれに対し声をかけず、そろそろ降ろしてほしいななどと考えているとコーリィが急に吾輩を抱きしめ、宣言したのである。


「私、負けません!!」


 ……いや、誰に何にであるか。という吾輩の声はコーリィの胸の中へと消え去った。


****************************************************


「ネコさん達帰っていたんですね。」

「あぁ。マキリーも後で話すといいよ。夕食には誘っているからさ。」


 残った積み荷を倉庫に運びながらニアとマキリーは話していた。ニアは顔に疲れが出ていたが、対照的にマキリーはいつもと変わらない無表情を貫き、疲れを感じさせなかった。


「そういえば、ちゃんと伝言は伝えたんですか?」

「あぁ、もちろんさ!私は仕事はちゃんとこなす人間だからね!ギィガ殿とティナちゃんのネコへの伝言はバッチリ伝えたさ。」

「……あれ?ティナさんからコーリィさんへの伝言は?」

「へ?」


 そう。ニアが伝言を授かったのはギィガからネコとティナからネコだけではないのだ。

 2人(というよりも殆どニア)からコーリィの話を聞いたティナからもコーリィに対して伝言を預かっていたのだ。

 それをこのニア、バッチリ忘れていたのだ。しかも彼女はそれをおくびにも出さず――


「あーうん、もちろん言ったよ!伝えた伝えた!言っていたことを忘れていたよ!」

「……?そうですか。ならいいんですが。」


 いつもだったら疑ってかかったかもしれないが、伝言くらい簡単な仕事ならニアでも完璧に出来たであろうと信じたマキリーはこれ以上追及しなかった。

 ニアもニアでマキリーの言葉により伝言を思い出したのだが、それをコーリィに伝える気はさらさらなかったのだ。

 何故かといえば、ただただ面白そうだったからと何とも身勝手すぎる理由からだ。


 ティナからコーリィに対する――


『あなたには負けないから!』


 という伝言は、ニアとマキリー以外に伝わる者はいなかった……

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