第56話 呼び出しである!

「すまないな、急に呼び出してしまって。」


 執務室通された吾輩たちを迎えた声の主は書類の山――ではなく、その奥にいるギルド長のバジットがのっそり椅子から立ち上がった。

 ……ってか巨体の奴が隠れるほどの書類って……ギルド長も楽では無さそうであるな。


「あ、あのー?ギルド長?」

「な、何で私達も呼ばれてるんですか?」

「ワゥウ……」


 そう、この執務室に呼ばれたのは吾輩とコーリィのみならず、何故かロッテ達も一緒に呼ばれたのだ。

 リンピオはさておいて、勝気なロッテも強面ギルド長に腰が引けているようであるな。ポチも怯んでいるであるな。


「あぁ、君たちを呼んだのは――まぁコーリィ君のパーティメンバーだからだ。これから彼女に話すことを聞いておいた方がいいと思ってな。」

「ほう?それほど重要な話という事であるか?」

「まぁ、な。ってお前喋っていいのか!?しかも何か変わってるし!」


 ん?何で吾輩が喋ったことでコイツ驚いているのであるか?……あぁ他人に吾輩が喋ることを内緒にするように言ったのであったな。

 いやいや、お前に口止めしても、吾輩自身が喋らない理由にはならぬであろうに。


「いいのである。だからとっとと話すである。」

「……偉そうだなぁお前。一応俺ギルド長だぞ?まぁいい、そこに掛けてくれ。」


 ソファに座る様に言われたが、流石に3人+2匹座れるほど大きなソファではなかったので、吾輩はコーリィの膝上。ポチはロッテの足元で寝そべることにした。

 ギルド長は仕事しながら話すつもりなのであろう。自分の椅子に座り直したが、やはり書類で見えないのか、少し山を崩して顔をのぞかせた。


「まずは此度のオーク討伐作戦に尽力尽くして感謝する。ネコがオークジェネラルとソルジャーを狩ったのは知ってるんだが、それ以外のオークは何体狩ったんだ?」

「20体です。」

「ほう?ならラカロッテ君はDランク昇格だな。」

「えぇっ!?」


 突然の昇格の知らせに驚いたロッテは昨日の吾輩の暴露の時の声にも負けず劣らずの声をあげた。

 いやまぁ、パーティでとは言え、格上の魔物を20体も狩れば十分に昇格理由にはなるであろう。

 ポチも主人の吉報を感じたのか飛び上がってロッテの顔をペロペロと舐めて祝福しているようであるな。

 もしかしたら自分も……?と思ったのであろう、リンピオが恐る恐る挙手をし


「あ、あのギルド長俺は……?」


 と聞いてみると、ギルド長は苦笑いを浮かべ告げた。


「君はまた今度だな。」


 あらら、残念な結果にリンピオは肩を落としたであるな。まぁこればっかりは……残念でしたとしか言いようがないであるな。

 しかしまた今度と言っているあたり、昇格は間近なのではないだろうか。ショックのあまり、気付いてはなさそうではあるが。


「さて、まぁこの流れからして察していると思うだろうが、コーリィ君も昇格だ。なんとCランクにな。」

「え?C……ですか?」

「ほう?Dランクすっ飛ばすのであるか?」


 前にペルラから説明を受けたときは街を脅かすような魔物を低ランクの冒険者1人2人の力で討伐したら特例として2段階以上のランク上昇が認められると聞かされていたであるが……まぁ確かにオーク軍団は街を脅かす存在ではあったな。


「あぁ、Bランクの魔物も討伐しているから妥当だと思ってな。」


 ギルド長が言うには、アステルニの冒険者ギルドのギルド長に就任してから短期間でCランクまで上り詰めた冒険者はいなかったというのであるから結構すごいことをしたのであるな。


「そういえば、ギルド長。オークキングらはちゃんと倒したのであろうな?」

「もちろんだ。多少は前線から離れていたが、俺もまだまだやれるんだぞ?キングもクイーンも討伐したし、他の上級オークも潰しておいた。まぁただのオークが何匹か逃したかもしれんが、そう脅威にはならんだろ。」


 一日で膨大に増えたオークを殆ど殲滅とは……軽々言っているが、やはりギルド長。実力は相当なものであるな。

 だが、ギルド長だけではなく、他のギルド職員やBランク、そしてAランクの冒険者も奮闘したからこそ、1日で殲滅が完了したのであろう。ドラゴンもいたし。

 

 ドラゴンと言えばファンタジーの生き物の代名詞ともいえる存在。じっくり見たいところであるが、ギルド長曰くドラゴンの魔物使いは既に発っているのだと。チッ


「――さて、ここからが本題だ。」

「うん?昇格は本題ではなかったのであるか?」

「昇格も本題と言えば本題なんだが――こっちは方向性が違うんだよ。」


 そう言うと、ギルド長は引き出しから1枚の高級そうな封筒を取りだし、席を立ちコーリィに手渡した。

 見ると封筒にはよく分からない赤い模様……これはスタンプであるか?がでかでかと映し出されていた。


「ギルド長、これは?」

「それはだな……王都からの召喚状だ。」

「っ!?おう……とですか?」


 は?召喚状?召喚ってあの……魔物召喚とか勇者召喚とかの召喚……ではなさそうであるな、普通に考えて。

 となると、来るように命令するっていう意味の召喚状であるか。しかしなんでまたコーリィに召喚状が?

 当の本人であるコーリィもそう思ったようで不可解な表情が浮かんでいた。


「ぎ、ギルド長?私は王都に呼ばれるようなことをした覚えはないんですが……?」

「もちろんだ。君が何も犯罪を犯していないことは承知しているつもりだ。……まぁその召喚状は君宛てではあるのだが、実際は君ではなく……ネコにだ。」

「え?吾輩であるか?」

「噂で王都に知られたんだろうな。誰も知らない見たことも無い魔物、黒魔猫。」

「あ、今は漆黒魔猫である。」


 そこは大事である。黒魔猫である吾輩は既に過去の存在。吾輩は漆黒魔猫である!


「あーはいはい、漆黒魔猫な。――んでまぁ、王都の連中は一度自分たちの目でお前を確認しておきたいそうだ。王都に牙をむく魔物かどうかってな。」

「面倒であるな。」

「俺も同感なんだけどな。しかし、無視するわけにもいかんのだ。すまんが行ってくれるか?」


 ……正直に言うと、気はあまり進まない。変な陰謀に巻き込まれてしまいそうであるからなぁ。

 だが、ギルド長の言う通り、断ったら断ったらでそれこそトラブルを引き起こしかねないのもまた事実。

 コーリィはどう思っているのであろうか。ん?コーリィ、震えているのであるか?


「コーリィ。お前はどう思うである?」

「……私は……どうとも……」


 うん?珍しく歯切れが悪いであるな。でもこれは吾輩に判断を任せるという事で……いいのであろうか。

 コーリィの様子が気になるが、吾輩は王都に行くことに決めた。少し嫌な予感を感じながらも――

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