第108話 盗賊の調査であるか?

「お、前回の結果が反映されたのであるな。」

「わー!これで少しはネコたちに近づけたんだね!」


 ティナのDランクの昇格は予想できたであるから我輩は驚かなかった。聞けばDランクはDランクでも、実績を重ねれば早い期間でCランクに昇格するとのことである。アニィナから昇格した冒険者カードを渡されたティナは喜びからか、カードをまじまじと見つめていた。……あれ、確かそんなに中身変わってなかったはずであるがな。

 我輩……もといコーリィのランクは未だCだが、1年もやっているであるからな。そろそろ昇格であろうかな。ロッテもポチとともに頑張ったおかげでCランクに昇格しているであるし、メンバー全員Cランク以上も夢でないであるな。


「えぇっと、ティナさん報酬なんですけど、銀行をご利用しているみたいですけど、そちらに送りましょうか?」

「うん、お願い!」

「それと前回の――」


 前回の報酬の件もあるため、ティナはアニィナと話しているようであるし、気になったことをサラマーナに聞いてみるであるか。


「ギルドに銀行なんてあったのであるか?」

「ありますよ。ただ、冒険者の方々のほとんどが稼いだものをすぐに使いたいと利用される方は少ないんですよね。」

「分からんでもないであるがな。」


 冒険者という職業はいつ死んでもおかしくない。であれば、思い残すことのないように稼いだ金を使い切りたいというのはごく自然であるな。我輩もどちらかというとその考えである。我輩の場合、マジックボックスに入れておけばいいだけであるし。


「利用している方の多数は家庭を持っている方ですね。もしその冒険者がなくなった場合、預けたお金や物は、ご家族の手に渡ります。」

「それ絶対トラブル起きるやつであろうが。」


 元の世界でも遺産云々ではトラブルはつきものであるからな。剣も魔法も存在するこの異世界。遺産目的で魔法によるアリバイ工作だったり、遺産相続権をめぐって死人の出る決闘なんてざらにありそうである。

 我輩のツッコミに、サラマーナは自嘲的な笑みを浮かべて


「否定はできませんね。」


 と言う。その表情からして彼女もそういうトラブルを何度も見てきたのであろう。これ以上追及するのはよすであるか。丁度ティナの話も終わったころであるし、そろそろ帰るであるか。

 しかし、ティナが預金であるか。その日暮らしのイメージが強いワーウルフには似合わないであるな。恐らくラナイナの入れ知恵であろう。念のため、何故預金しているのか聞いてみたところ――


「結婚資金!」


 ……デアルカ。



 翌日、我輩たちは一つの依頼を受け、山岳に来ていた。

 その依頼内容とは、近くに潜伏している盗賊集団の調査だそうである。調査だけ、というのはまだ盗賊集団の詳細が掴めていないためらしい。まずはどういった盗賊がどこに潜伏して、ギルドの情報と照らし合わせた上で討伐の依頼ランクが決まるらしい。

 そして、この依頼の時、盗賊から発見されなかったり盗賊行為に遭遇しない限り盗賊に挑むことは禁止とされている。もし全員捕縛、または殺せばいいが、1人でも逃したり返り討ちに合ったら悪い展開になりえないとのことらしいである。あくまで拠点の発見とのことである。


「ティナ、分かってるであるよな?」

「んもー、ネコ何度もそればっかり。分かってるよ、今日は見るだけ!」

「うむ。」


 一番の懸念であるティナの暴走を避けるため、我輩は口を酸っぱくして何度も言い聞かせたから大丈夫であろう。そんな我輩は、コーリィの腕の中。昨日分の何かを補充するだのなんだので朝からこんな具合である。


「ポチ、匂いは感じる?」

「バウゥ……」

「ティナは?」

「んー全然。」


 盗賊を探すのはやはり嗅覚の優れているポチとティナを頼りにすることにした。ティナはワーウルフではあるが、人間+狼のためか、純粋な動物型であるポチよりは嗅覚は控えめらしいである。


「ネコ様、もうちょっと奥へ進んでみましょうか?」

「であるなぁ……もしかしたら臭い消しでもしてるやも知れぬであるからな。」


 盗賊が手練れであればあるほど、自分たちの痕跡を消すことに慣れているであろうからな。それでもポチたちの嗅覚を退けきれるとは思えぬが。

 注意し、見渡しながら整備されていない山道を進んでいくと我輩の耳に何か聞こえてきた。これは……悲鳴?

 我輩がそれを耳にしたのと同時に、地面に鼻を近づけ臭いを探っていたポチが顔を上げた。


「何か見つけたの、ポチ!?」

「ワウ!」


 肯定を示す一鳴きに我輩たちは頷きあい、ポチの先行の元臭いの発生源に向かった。そして臭いのもとに近づいたのか、ティナがはっとした表情になり告げた。


「ネコ、これ血の匂いだ!」


 血の匂いに我輩が耳にした悲鳴。……これは盗賊行為が行われているのであるか?

 多少面倒ではあるが、止めねばなるまいなー

 進むにつれ臭いが我輩にも、そして悲鳴がロッテ達の耳にも届き、全員の顔に緊張が走る。

 最初に聞こえて、臭ってから急いだが時間は経っている。ということは明らかに何人かは死んでいるだろう。


「ぎやあああああああああ!!」


 野太い悲鳴が木々の向こうから聞こえた。そこから顔を覗かせると――

 開けた空間が存在し、そこに無残な死体と飛び散った血が存在していた。

 よく見るとその死体のどれもが屈強な男でどう見ても堅気の人間のようには見えないであるよな。


「こいつら、例の盗賊じゃないの……?」


 死体の匂いに顔をしかめながらつぶやくロッテに全員が同意する。こんな屈強な商人が……いや、いないとも言い切れぬであるが。

 仮にこやつらが盗賊集団だとして、死体共の奥に見えるあの洞穴が奴らの拠点であろうか。聞き耳を立てるとその洞穴からも悲鳴が聞こえ、やがて悲鳴は止んだ。その代わり何かを引きずるような音が聞こえその音がどんどんと近づいてきたである。


 この惨劇を生み出した者であるか?我輩たちは草木に隠れながら出てくるであろうその存在を待ち伏せた。

 やがて暗い洞穴から何かが出てきて日の光によってその正体が明らかになった。それは――


男の頭を咥えた大きな狐であった。

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