第107話 何であるかこの猿?

 ティナめ……頼もしくなりすぎであろう。ワイバーンにおびえていたあの時が懐かしくなってくるであるな。

 一先ず礼を言っておくべきであるな。


「助かったである、ティナ。」

「気にしないで!」


 ふむ……そう言うのであれば、気にしないでおくであるかな。

 我輩は、ティナに殴り飛ばされ、完全に絶命した猿に歩み寄る。猿……猿?猿にしては上等な装備を着ているであるよな。だがここでお決まりの猿顔の人間――というわけではなさそうである。顔まで毛に覆われているである。

 その存在が完全に人間の、それも戦士が装備するであろうはずの鱗のついた鎧を着ている。


「ティナよ、お前これを殴っていたであるが拳は大丈夫であるのか?」

「うん、平気。」


 ティナは手を振って見せ、手が無事であることを示す。確かに手の甲に傷は一切見受けられない。

 それは良いのであるが、この猿はどう見ても異常……であるよな。もしかして誰かの従魔であろうか。それであれば装備を着ているのも納得であるがな。

 我輩は耳を澄ましてみるが、不自然な音は聞こえない。小鳥のさえずりが聞こえるだけである。


「ティナ。ワーウルフってことは鼻はきくであるか?」

「うん。」

「この辺りに人間の匂いは?」

「んー?するにはするけど、新しい物じゃないよ。きっと前にこの森に来た人の物かも。あ、でもこの魔物からは人の匂いはするね。」


 聞けばその匂いはやはりというべきか、装備から漂ってくるらしい。

 ……もしかして我輩、やっちゃったであるかなぁ?正当防衛とは言え、他人の従魔を殺した場合、罪に問われるのであろうか。問われるのかもしれないのであれば、消すしかないであるよな!


「ティナ、このことは内緒であるぞ。」

「うん?うん。」


 ティナを口止めをすると、我輩は猿をマジックボックスに収納し綺麗さっぱり、猿がいた証拠を消した。

 証拠を消した後、念のため再び気配を探ってみるが、やはり見当たらない。これは帰ってギルド職員にそれとなしに聞いてみるであるかな。どちらにしろティナの狩った魔物を換金してもらわねばならぬしな。


「帰るであるかー」

「ネコがそう言うなら帰るー。」


 我輩の言葉に、ティナは素直に同意し、帰路に着いた。しかし、最後の最後に良く分からない魔物を倒してしまったであるな。この森に来なければよかったである。

 人知れずため息をついたつもりの我輩だったが、ティナの耳は誤魔化せないようで、我輩が元気がないと勘違い抱きかかえられよしよしと撫でられた。……お前、そこも大きくなったのであるな。


 ――我輩たちは、気づいていなかった。いや、気づいてはいたのだが、その対象から外していたのだ。

 囀りながらこちらをずっと見ていた小鳥の存在を


「ッハー!いやいや、まっさかこんなに面白魔物がいるたぁな。猿の一匹、遠出させてみるもんじゃあねぇか!」



「冒険者の装備を身に着ける魔物ですか?」


 シャスティの冒険者ギルドに戻った我輩たちは魔物の換金をアニィナお願いしながら、彼女のサポートをしているサラマーナにさっき遭遇した魔物のことを話さずに、やんわりと聞いてみた。

 サラマーナは本棚から何やら分厚い本を1冊取り出すとぱらぱらと捲り、1つのページを我輩たちに見せてきた。そこには鎧を着た骸骨が描かれていた。


「まず思いつくのがスケルトンですね。それと、ゾンビ系。所謂人間の死体が魔物化したものです。こういう存在は、大抵死体の持っていた装備を扱い、その死体の質によって強さは変化します。」

「仮にAランク冒険者がゾンビ化したらどうなるであるか?」

「あまり考えたくありませんが、驚異的な存在になりますね。」


 ゾンビ系の魔物の能力は魔物化する前のステータスに依存するらしく、それこそ、生前のスキルを見事に扱う個体もいるのだとか。確かにAランクの冒険者がそのまま敵になるとか、考えたくない話してあるよな。

 しかし、我輩が得たい情報はゾンビ系の物ではないのであるが……


「猿とか人に近い魔物が装備したりとかはあるのであるか?」

「そういった種は、生まれた直後から装備していますからね。武器だけならまだしも、鎧までわざわざ冒険者のものを装備となると、知性がないと無理ですね。ただ……」

「ただ?」

「ネコさんのような、従魔であれば話は別です。従魔が装備をつけることは何ら不思議ではありませんからね。」


 ……であるよな。ゲームでも魔物に武器を装備させるなんてざらであるしな。グラフィックでは何にも装備されていないであるがな。

 しかしやはり……ティナが殺ったあの猿は誰かの従魔?


「そういえば我輩的に大事なことを知らないのであるが、もし従魔が罪のない人間を襲った時、その従魔は殺されても問題ないのであるか?」

「程度によりますね。……と言っても少々難しい問題ですが。ただし、本当に人や他人の従魔を殺しそうなほどであれば殺しても問題ありません。加えて襲った従魔の主人も罪に問われますね。」


 ふむ。そこは予想通りといったところであるか。そんじゃ、この猿を仕留めたのは間違いなかったということであるか。……でもこの場で出すのはやめておくであるか。変に騒動になっても嫌であるからな。いつか、コーリィに解体してもらってそれを売るであるか。

 そんな話をしていると、いつものようにどたばたと賑やかな音を立てて、


「お、お待たせしましたぁっ!え、とティナさん!お、おおおめでとうございます!Dランク昇格です!」

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