第30話 冒険者登録である
吾輩が冒険者ギルドという存在を知ってまず思ったのが、『派遣労働者組合みたいであるな』である。実際は似て非なる物なのだろうが……まぁ吾輩とコーリィはその冒険者ギルドの前に立っている。
タオラに渡された地図通り進んでみたが、正解だったようだ。大剣を背負ったごつい男だったり杖を持った女。はたまたそんな人間の団体様がこの建物の中にぞろぞろと入っていくのを確認した。
(コーリィ、緊張しているであるか)
(いいえ、ネコ様と一緒であれば怖いものなんてありませんから緊張なんてするはずもありません)
(ならばよし。だが、何が起こるか分からないから気は引き締めるである。)
(かしこまりました。)
では冒険者登録に行くとするであるか。ニアの忠告通り、吾輩がコーリィをサポートするである。
コーリィの肩に乗り、中に入り……おっ、中は酒場も兼用しているのか、テーブルを囲って食事する者たちもいる。真昼間から酒を煽っているものもいる。
(中々に賑やかなところであるな。)
(そうですか?私は喧しいと思いますが……)
厳しめなコーリィの評価に思わず苦笑いがこぼれる。今はテレパシーだから誰にも聞かれていないが、あまりそういった発言をして周りを煽らないでほしいのであるな。
さて、登録をするであるかなっと……またか。視線を感じる。ハイハイ、珍しい魔物魔物。
コーリィも視線に気付いたのか、辺りを見渡し、目を細め睨み返す。そんな彼女を諫め、『冒険者登録』という看板の付いた受付へ向かう。
受付の前に立つと、仕事をしていた女性がコーリィに気付き、営業スマイルを浮かべる。
「いらっしゃいませ。私は、職員のペルラと申します。えーっと、どのような御用件でしょうか?依頼発注はこちらではないのですが?」
ん?こやつ、コーリィを依頼人と勘違いしているのか?
「いいえ?私は冒険者登録に来たんですが……」
「登録ですか?失礼ですが、御年齢を。」
「15歳です。登録できますよね?」
ペルラとやらはジッとコーリィを見るとふぅと軽く息をつき、書類を差し出す。
「15歳で間違いないようですね。申し訳ございません、少々お若く見えたものでしたからふざけ半分で登録にした子供なのかと思いまして……。では、こちらに」
確かにコーリィは顔立ちが幼い方と言えば違いないであるからな。ただ、コーリィ本人は不服気味なので、あとでフォローを入れておこう。
書類に記入であるか……コーリィは奴隷だったであるが、文字は分かるのだろうか?とも思ったが、どうやら杞憂だったみたいである。すらすらと美麗な字で書類を埋めていく。
「はい、コーリィ様ですね。書類の不備もございませんが……えと、そちらの肩の魔物は、コーリィ様の従魔ですか?見たことも無い種類の魔物のようですが……?」
(ネコ様、どのようにお答えすれば?)
(吾輩の種族名は昨日教えたとおりである。そのまま話していいである。ただし!吾輩の名前を言う時は様を除くのである。断固として人目があるときはネコと口にしろ)
(そんな!ネコ様を呼び捨てになど……)
(いや、寧ろ様付けの方が変に注目浴びるから止めろ。)
タオラ達商会やラダンの面々ならまだしも、何も知らない人間が、魔物に対して様付けしている少女を見たらどう思うだろうか。
よくて変人、悪くて――魔物に洗脳されている怪しげな少女という事にもなりかねん。吾輩は決して洗脳になどしていないから悪しからず。
「こ、この魔物はネコさ……ネコという名前です。種族は黒魔猫です。」
「くろまびょう?聞いたことのない種族名ですね……?どこで従魔にしたのですか?」
「村からこの街に来る時の通り道を歩いている時にいつの間にか私の横にいたんです。で、あまりの可愛らしさに餌をあげていたら次第に懐いちゃって……」
うむうむ。この時のために設定を考えておいて良かったである。ただ、可愛らしさ云々はコーリィのアドリブである。自分で自分を可愛いと評する訳がないし、吾輩はどちらかというとこの姿は格好いい方だと思っているのだが?
「珍しいこともあるのですねー?あ、でも本当に可愛い……撫でてもよろしいですか?」
ふむ、別に悪い奴では無さそうだから撫でるくらい構わないであるな。
吾輩は肩から降り立ち、ペルラに歩み寄り小さく「にゃあ」と鳴く。
「えっと……?」
「撫でてもいいそうです。優しく撫でて上げて下さいね?」
「ありがとうございます。わっ柔らかっ」
ペルラは最初恐る恐る指先でちょんと背に触れる。しかし次第に指ではなく、手のひらで背を撫で最後には優しい手つきで腹をわしゃわしゃと撫でた。
こやつ、初めてネコを撫でるにしてはとても上手であるなー。つい吾輩も気持ちよくなってしまった。
「あぁ……ネコちゃん凄く可愛いですね。これは従魔にしたい気持ちもよく分かります。」
「そうですよね!?ネコさ……ネコは本当に素晴らしいので私も鼻が高いです。」
ペルラの腕の中で気持ちよくなっている吾輩を奪い取る様にコーリィは吾輩を自分の腕の中に取り戻す。あの、ちょっと力強いですコーリィさん。
「うぅ、もうちょっと撫でたかったですが……諦めます。ではコーリィ様、こちらがネコちゃんの従魔登録書ですので記入をお願いしますね。」
吾輩の紙の方は、名前と種族名を書くぐらいだったのですぐに書き終わった。
ペルラはその紙を引き取ると白いカードを取り出し、コーリィの冒険者登録書と吾輩の従魔登録書の上に重ねると、カードが紙を吸収し、無地だったはずのカードに文字が浮かび、コーリィにそのカードが渡された。
「こちらが、コーリィ様の冒険者カードになります。これが冒険者という証明になるのでなくさないでくださいね?まぁ失くしても再発行は出来ますのであまり深刻にならなくても大丈夫です。ただし、発行料こそ頂ますがね。では最後に登録料として、銀貨1枚頂戴いたしますね?」
銀貨を渡し、カードを受け取る。これで晴れて吾輩とコーリィは冒険者とその従魔となることが出来た。……うん、銀貨はまたタオラに借りたものを使っているである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます