第130話 戦後処理である!

 バステトから別れた我輩とコーリィ。案の定、体は動かない――程では無いが動くたびに痛みが走る。意識を失うよりかはマシであろうがな。コーリィも同様のようで寝そべったまま、うーうーと唸っている。癒してやれればいいのであるが、何故かバステトのデメリットは我輩の"癒しの肉球"でも癒すことは出来ぬ。

 そうして苦しんでいると、1年前ダンジョンにて出会い雌雄を決したグラディウスサーベルタイガーが我輩に向けて首を垂れてきた。


『おぉ、改めてお久しぶりで御座いますな、ネコ様』

「であるな、グラディウスサーベルタイガー……いや、グサタよ」


 にしても"グ"ラディウス"サ"ーベル"タ"イガー故にグサタであるか……そのまま過ぎではあるまいか?我ながらセンスを疑うであるぞ?本人は気に入っているようであるからこれ以上我輩が口を出す必要は無いであろう。

 さて、痛む首をどうにか動かして周りを見渡すが、動いている敵対した魔物は無し。狂操状態であった獣人達は、バステトが呼び出した土の腕が無くなっても他の冒険者たちが何とか押さえつけている。

 む、回復職のものであろうか。狂操状態の者に何やら魔法をかけておる。そうすると――おぉ、目の充血が一気に引き取り押さえられた獣人が正気を取り戻しておるではないか。……だが、魔法をかけた者の額に汗が流れ、まるで走ったかのように息を切らしておることからあまり連発できるものではないのやも知れぬ。となれば


「グサタよ、我輩をあの黒狼が踏みつけておる少女――ティナの元へ運んでくれ」

『ふむ、黒狼と……そちらの少女2人は見覚えがありますが、あちらは知りませぬな。畏まりました。それでは、失礼いたします』


 そう言うとグサタは我輩のうなじを絶妙な加減で咥えるとひょいと持ち上げる。

 コーリィが何か言いたげな目をしているが別に失礼な行動を言うわけではないであるからな?猫的にはこれは割と普通なのである。だから睨むな睨むな。


「グルゥ……」

「ポチよ、ティナをよく抑えてくれたであるな。ロッテも助かったである」

「いいわよ、これくらい。ただあの時の魔物が仲間になるなんてねぇ……なんて、今はティナね」


 流石にグサタに運ばれたままではプラプラしてやり難い故、ロッテに我輩の体を受け取ってもらい、ティナへ近づけてもらい……その額に我が肉球を押し当て"癒しの肉球"を発動させる。効果は抜群。目の充血はもとより、自傷させられていた拳の傷も癒えたようであるな。狂操状態から解除されたティナは正気に戻ったその目で我輩を視界にとらえると、柔らく微笑み、眠りについた。にしてもこの癒しの肉球が魔力によって発動する物じゃなくて良かったである。


「ティナは大丈夫なの?」

「うむ、狂操状態でどれほど消費したかはわからぬが……まぁとりあえず寝かせておけばいいであろう。他の者も治療せねばな……」


 そうして我輩は、他の回復職の者と共に狂操状態の獣人達の治療へと回った。その者らに話を聞くと解除するためには状態異常回復の魔法の中でも上級のものでないと解除できないらしい。上級だからこそその魔法を行使できるもので冒険者――となると少ないとのことである。それを気軽に行使できる我輩とんでもないであるな。

 最後の1人の治療が完成する頃には既に朝日が昇り始めていた。……いかん、眠くなってきたである。


『ネコ様、どうやら我が現界できるのもここまでのようですな』

「む、透けておるな。が、根性の別れではないであろう」

『我もそう願っております。では、暫しの別れで御座います』


 そう言い残し、グサタは完全に消え去り、その場所には我輩が彼を呼ぶのに用いた牙だけが場に残った。牙をしっかりと回収し我輩達は王都への帰路へと付いた。殺された魔物は、死体をそのままにアンデッドにならぬよう、光魔法で保護した後、土魔法によって作られたバリケードの中に置いておくことになったである。

 九尾の方はしっかりと拘束され、魔法も身動きも満足に出来ない状態で王都へと運ばれた。途中で目を覚まし暴れないか、いささか不安であったが……杞憂だったようである。

 王都についたことで冒険者たちは一旦解散。道中目を覚ましたカルラと何人かは報告のため冒険者ギルドに向かい、我輩らは宿屋に戻り――即寝た。

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