第127話 妾の声に応じるのじゃ!

 妾は再び襲い掛かってきたティナを優しく組み伏せ、ティナ等を操っている男の意識が宿っている九尾を睨みつける。


「プッツンと来たわ。お主、絶対に妾が縊り殺す。」

「殺すとは大きく出たな!操れねぇことは驚いたが出来ねぇなら仕方ねぇ。九尾とてめぇら冒険者で俺こそお前を殺す!どうせてめぇは冒険者どもを殺せないんだろう?」


 いや、妾的にはティナ以外がどうなってもいいんじゃが、妾の中の2人がそれを許さぬでな。まぁ確かに冒険者は殺せぬが無効化できないとは言ってない。

 組み伏せついでに妾は地面に手を伸ばし何時かのように地面に向かって呼びかける。


「この地に眠りし魂共、妾に力を貸しやれ。狂いし者どもを抑えよ。」


 妾の言葉はこの地で息絶えた人間、魔物を呼び起こす。言葉に応じた魂は土を人の魔物の腕へと姿を変え狂操状態となった獣人冒険者を押さえつけ始める。

 最初は何とか避けていた狂操状態の者たちだったが、土の腕の意図を察した他の冒険者との連携も相まって次第に地面へと寝転がされていた。……いや、全員ではないのう。


「フーッ……!」


 土の腕をも、冒険者たちの猛攻をも避け躱し、その何れも跳ねのける者がいた。

 やはりというべきか、カルラであった。まるで猫のようにするりと掻い潜っては攻撃に転じる。やはりアイツ頭についている耳もそうじゃが、動き的に猫の獣人じゃの。しかし、我輩しかネコいないのに何でネコ獣人がいるんじゃろか。

 っと、そうじゃそうじゃ。このままじゃ妾、Sランク冒険者とこの馬鹿九尾相手にせねばならんのか。……うむ!面倒じゃから助っ人呼ぶかの。

 取り出したるは1本の帯電している牙。これに魔力を込めて――呼ぶ。


「起きよ。そして我が元に就け。」


 今は深夜。星々が煌めく空が突如として現れた雷雲により光を遮られる。

 妾を除くこの場の正気を保っているものの視線が一様に空へと向けられる。雷雲は轟轟となるや否や強烈な一筋の稲妻を落とした。他の誰でもない妾の元へ。もっと正確に言うと妾の手の牙へと。

 そして牙は光を放ち光は次第に質量を持ち形を成し……巨大な魔物となった。

 魔獣の名は、グラディウスサーベルタイガー。我輩が下したはずの魔物じゃ。

 その身に雷を迸らせたグラディウスサーベルタイガーは瞳を開け、辺りを見渡し、妾に視線が向いた。そして目を剥いた。


『ここは……あなた様はっ!!』

「久しぶりじゃの、グラディウスサーベルタイガー。んや?妾は初見だったのう?」

『いや……姿が違えど分かる。またあなた様と相見えるとは、偉大なるお方よ。』

「記憶はあるようじゃの?」

『然り。あなた様の柔らかくも力強い雷の拳は今も我が体を駆け巡っている。』


 ……む?その体の雷、さっきの落ちた雷じゃなくて我輩の猫パンチの帯電じゃったのか!?いや、そこまでは予想しておらんかったぞ!?


「ま、まぁいい。グラディウスサーベルタイガーよ、お主今はダンジョンに縛られておらぬな?」

『……おぉ、言われてみれば。あなた様と会った時の喧しい耳鳴りが聞こえぬ。思うように体が動く。……流石は偉大なるお方。あなたのお力なのだな。』

「うむうむ。でな?グラディウスサーベルタイガーよ……ええい、名前が長いな。お前はグサタじゃ!グサタよ。お主、あれを相手せよ。」


 あれとは、グラディウスサーベルタイガーもといグサタの登場に肝を抜かれたのか隙を曝け出している九尾の事じゃ。

 グサタは九尾を一瞥すると妾の前に伏せた。


『任されよ。我はあなた様より呼ばれた者。あなた様に忠誠を誓い、妨げるものを消し飛ばしてごらんに入れよう。』

「であれば行け。お前の力を見せてみよ。」

『参る。』


 妾の命を受け、グサタは九尾に攻撃を仕掛ける。……そういえばあいつとの一騎打ち、一瞬じゃったからそんなに覚えておらんのう。何しとったかのアイツ。

 それに妾、見せてみよとか言っておきながらこれからカルラ相手せねばならんじゃん。見れぬ。

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