第12話 名をマキリーらしいである
商人が来る当日、魔力欠乏症から改善された吾輩はティナを連れ(というか勝手についてきた)森でスキルの練習をしていた。前回のようにティナを置いて走り出すなんて止めておく。またあのようなことにティナを巻き込んでは堪らんであるからな。
得に吾輩に及ぶ被害の事を考えてな。
「ティナよ。商人が来るのは何時か分かるであるか?」
「んー?えっとね、大体夕方頃かな?」
「夕方?では商人は夜中に帰るのか?」
「んーん!集落に泊まって次の日に帰るんだよー!」
そうか、一日滞在するのであれば十分な取引もできるであるな。では夕方までしっかりと鍛えることが出来そうであるな。ただし魔法に関しては無理をしない程度にとどめておくである。
ちなみに今はフロートで吾輩とティナを木の上まで浮かせている。前回試した時とは違い、やはり魔力は人数+重さ分消費されるみたいである。魔力上限が上がったとはいえ、結構疲れた……
魔力欠乏症でもない限り休めば魔力は回復するようなのでちょくちょく休憩を挟んでは魔法や猫パンチといったスキルを試している。
そういえば、スキルと言えばティナも持っているのかと聞いてみたのであるが、結論から言うと持っていたである。生れたときから持っていた身体能力超向上というスキルである。1つだけであるが、子供でありながらギィガ並みの身体能力の理由はこれであったか。
ギィガによると、スキルは先天性のものもあるが、後天性的に得ることもあるのだと言う。一番楽なのは魔導書を読み、各属性の魔法スキルを覚えることらしい。もちろん適正は必要であるが。
吾輩、よくよく考えるとこの世界の事何にも知らないであるな。……ふむ。
まぁ今はスキルの練習しながらでも構って欲しげなティナの相手でもしながら時間が過ぎるのを待つである。
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日が傾き、空がオレンジ色に染まってきた頃。集落の若いワーウルフが来て商人が来たことを伝えに来てくれたので集落に戻ることに。
ほう、確かに今まで無かった馬車が止まっているであるな。……いや、アレ馬じゃねぇ!馬に近い生き物であるな。あービックリして二度見してしまったである。
「ティナよ。これが商人の馬車であるか?」
「そだよー!」
近くで見ると結構大きい馬車であるな。まぁマジックボックス無しに商売しようとなるとこれくらいのサイズにもなるであるか。
「おや、ティナではありませんか。」
「マキリーさん!やっほー!」
「やっほー。」
馬車の中から青い長髪の整った顔立ちのどこか涼やかな印象を持った女性が現れ、ティナに挨拶する。
その、無表情でやっほーは違和感スゴイであるな……彼女が商人であるか?
む、こっちを見た?
「おやティナ。確か10歳ですよね?」
「うん?そーだよ。」
「その歳で既に魔物を手懐けるとは流石長の娘というだけありますね。」
ティナが魔物を手懐ける?この数日間ずっと一緒にいたが魔物と触れ合う機会なんて無かったはずであるが……?
馬車から降りたマキリーと呼ばれた女は吾輩たちに近付き――吾輩を持ち抱えた。ん?吾輩?
「しかしこの魔物、私も見たことありませんね?名前はなんていうのですか?」
……は?吾輩?もしかしてマキリーの言っているティナに手懐けられている魔物というのは吾輩の事であるか?ハハハってかこの流れちょっと見たことがあるような気がするのであるが。
「失礼であるぞ貴様!」
「うわっ喋る魔物ですか。」
うわっとか言いながらその無表情は崩れていない。こいつ鉄仮面であるか?
いや、無表情ではあるが、その頬は
「マキリーさん、だめだよ!その魔物はネコって言ってね、お父さんのお友達なの!」
「お友達ですか?ふむ。ティナが洗脳受けているようにも見受けられませんし、この魔物からも邪気を感じられないという事は真実なのでしょう。」
洗脳て。まぁそういう魔法もあるのであろうが、吾輩の魔法のレパートリーの中にそんなものは存在していない。闇魔法スキルを持っている以上今後覚えてしまいそうであるな。
「これは失礼しました、まも――ネコ様。私はマキリーと申します。」
「おう、お前今魔物って言いそうになったであるな。聞き逃さんぞ。……まぁいい、吾輩に様付けは必要ないである。」
「?しかし、その口調は魔物の中でも高貴な生まれでは?」
魔物の中でも高貴云々があるのであるか?
「いいや、吾輩はそんな大層なものではない。この口調なら吾輩の好きな本の主人公をまねたものである。」
「それは自分がその主人公のようになりたいという意味が込められているのですか?」
「ンなわけない。」
ただ単に気に入っているだけである。本当に深い意味などないであるから……たまに素に戻るときがある。
っとと、そんなことよりも本題である。マキリーが商人であるなら
「マキリー。お前に売りたいものがあるのである。」
「ほう?売りたい物、ですか。」
「あぁ……ワイバーンである。」
「ワイバーンですって?珍しいですねこの辺には生息していない筈ですが?」
集落の外から来たマキリーでさえ珍しいというであるか。本当にどこから現れたのか、ワイバーンめ。
「ワイバーンを売りたいというのは分かりました。ただネコさん。一つ問題があるのです。」
「問題であるか?」
まさか、街ではワイバーンの肉は凄い流通していて価値がものすごく減っているなんてことが――!?
「私、商人じゃなくて護衛なんですよね。」
そういうお約束ネタはいらなかったである。
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