第116話 ジッとしていられるわけないである
起きたである……ふむ。日の昇り様から見て1時間ほど寝ていたようであるな。くあぁと欠伸をするが、眠気はあまり感じない。さて、と。
「暇であるし、外に出るであるかなー」
「バウッ!?」
おおう、ポチも起きてたであるか。それにその「外出るの!?」とでも言いたげな鳴き声は。言葉の通りであるぞ。
確かに我輩はコーリィ達に留守番してるから行って来いと送り出した。それは間違いないであるな。だが、しかし!元来、我が友の家でゲームやラノベに興じていたとはいえ、我輩は外で暮らしてきた猫。部屋でじっとしているなんて出来ようものかである!
「――という訳で、我輩は外に出るのであるが、ポチよお前はどうするのであるか?」
「ワウン!」
やはりポチも暇だったのであろう、すくっと立ち上がっては尻尾を大きく振るっている。ポチ1人の判断であれば、外に出るなんて考えはしなかったであろうが、我輩が出るならばと言うことであろう。つまりは我輩に責任を擦り付ける気であろう。まぁいいであるが……
「では早速行くであるか。背中借りるであるぞ。」
「ワウ。」
華麗にポチの背中に乗り込み、外に出るための窓を2つの尾で開く。ポチは勢いよく駆け出し窓から飛び出、宿の向かい側の建物の屋根に飛び乗った。ポチであればこれぐらい余裕であるな。仮にロッテが乗っても同じことができたであろう。
さてと、どうするであるかなーっと。考えたところできゅるると音が鳴った。それも1つではなく、2つの音だ。そしてその音の正体も何となく理解できた。
「飯でも探すであるか。」
「ワウン。」
同意するようなポチの鳴き声。そう、我輩ら腹が減ったのである。別に朝食を逃したわけでなく、単純に昼飯の時間なのである。そうと決まれば……どこに行こうか。
冒険者ギルドの飯も悪くはないであるが、気分ではない。かと言え、他の行きつけの店もそういう気分の口ではない。となれば、答えは一つ。歩きながら新しい店を探すであるか。
とりあえず歩いて店を探すことをポチに告げると、ポチもそれに同意し、軽やかに屋根から地面に降り立った。それにより街歩く人々の注目を集めてしまったであるが……残念なことに我輩、有名人ならぬ有名猫であるからしてあまり騒ぎになることなく、「あ、何だこいつか。」張りの目線をもらうだけで事済んだ。
「んじゃ今日は大通りから外れた道に行ってみるであるかな。」
「ワウ。」
前世、我が友の家に入り浸る前、夜の街を闊歩していた我輩は人間のある言葉を聞いたのである。曰く、大通りの居酒屋もうまいが裏通りの隠れた名店を見つける楽しみもまたたまらんだとか。
我輩もそれに倣って隠れた名店とやらを探してみようと思うのである。
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かと思ったのであるが……
「治安悪いであるなぁ……裏通り。」
我輩とポチの周りにはぴくぴくと痙攣を繰り返すボロボロの服を着た男たち。裏通りに入ってみたはいいものの、珍しい魔物である我輩を捕らえようとならず者が襲ってきたのである。
覚悟はしていたであるがな、本当に襲ってくるとは……我輩のこと知っているのであれば強さも分かろうに。殺すほどでもないであるよ。
「あーもう、諦めて大通りで店でも探すであるかな。」
「ワウ……ウ?」
「む?ポチ、どうしたであるか?」
「ワウ!バウワウ!」
突然、鼻を引くつかせたポチが顔を上げたかと思えば、何かを見つけたのであろう、駆け出した。地を駆け、時には壁を駆け我輩らを待ち構えていたならず者を躱す。ってポチお前いつの間にそんな芸当出来るように!?我輩も出来るけど……
でもなポチ?我輩、背中にいるのであるぞ?お前、壁なんて走ったら重力の関係上我輩落ちるであるぞ?尻尾お前に巻き付けてなかったら落下していたであるぞ?分かってる?
「ワウバウ!」
お、おう漸く止まったであるか……ポチよお前もうちょっと加減をな?我輩だから良かったが、ロッテが乗ってるときはするでないぞ?ってかどこに止まったであるか?何やらいい匂いがするが、飯屋であるか?
店を確認しようと面を上げたとき、我輩の目には信じられないものが映っていた。
その店の看板に書かれていたのは『ウノハラテイ』という文字であるが、重要なのはその読み方ではない。ウノハラテイと書かれた文字である。
"卯之原亭"
「漢字?であるか?」
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