第66話 謁見である?

 流石は城。煌びやかで豪華なところであるなぁ……

 近々訪れる少なくない出費に頭を悩ませ始めた騎士団長を放置し、城内に入った吾輩たちを迎えたのはまず大きな犬の様な彫刻であった。猫である吾輩は素材とかとんと分からんし興味もないのであるが、この彫刻はそれなりにいいものだということはよく分かったである。

 コーリィの肩に乗り城内を見渡す吾輩に、数歩後ろからついてきている騎士達は緊張した面持ちで吾輩を凝視しているが恐らく警戒しているのであろう。


「ネコ殿、少しよろしいでしょうか。」

「うん?何であるか、ロディン。」

「先ほども申しましたが、私達3人は騎士団長の一連の行動を知らされていませんでした。……だからという訳ではありませんが、お気を付けください。もしかしたら――」

「もっと危険な目に合うかもとでも?」


 吾輩の返答にロディンは申し訳なさそうに頷く。

 予想できないことではないであるからな。吾輩が召喚されてくるということは知らされているのであろうが、全員が全員快く迎えてくれているわけがないであるからな。

 騎士団長を仕掛けた者然りな。


「それで?吾輩たちはどこに向かっているのであるか?」

「謁見の間です。そこで王並びに各重鎮とお会いしていただきます。」

「あれであろう?吾輩はネコであるとか言ったら帰ってもよいのであろう?」

「さ、流石にそれは無理かと……」


 チィッ!面倒な。

 早く帰られるかどうかは吾輩次第という事であるか。コーリィは言うまでもないかもしれないが、軽くパーティメンバーに断りを入れるとロッテとリンピオは快く了解してくれた。

 しかし、コーリィだけは少し言いよどみながらも了解した。……うぅむ、本当にコーリィどうしたのであるか?聞いても生返事ばかりであるし。


 リンピオと一緒に周りの彫刻だが装飾品だかの価値について話しながら少し歩くと、他の扉と違い一層豪華な扉の前でロディンの足が止まった。


「ん?ロディン、ここであるか?」

「えぇ、ここが謁見の間です。少々お待ちください、皆さまが到着したことを報告してまいりますので。」


 そう言うとロディンはガゾッドとニーフィを引き連れ、先に謁見の間に入室した。

 ……あの、中から怒号が聞こえるのであるが?正確に言えば「何故得体も知れぬ魔物を城内に引き入れたのだ!」とか「黙れ!王の御意思に異を唱えるのか!」だとか。


「大丈夫なのかよ、これ……」

「あまりいい雰囲気ではないわよね。」


 うん、面倒なことにしかならないであるよな、これ。

 ややあってロディン1人だけが扉から出て来た。

 その顔からは先程よりも疲れが見て取れるであるぞ……中で一体何があったのだろうか。


「お待たせしました、私に続いて入ってください……王がお待ちです。」


 その一言で、ロッテとリンピオの顔が引き締まる。これから王に会うのだ。緊張もするのであろう。コーリィの方は顔が隠れているからあまり表情が読み取れないであるがな。

 ちなみに吾輩は全く緊張しておらず、むしろ気怠さの方が勝っている。

……はぁ、ここまで来たら入るしかないであるかな。


 ロディンに追従し、謁見の間に入りまず視界に飛び込んできたのは真っ赤な絨毯であった。

あ、なんか奥に背もたれの高い豪華な椅子に、ガタイの良い金髪親父が座っているであるな。他にも豪華そうな服を着た男やら女やら、はたまた騎士もいるのだが、今の吾輩の興味はこの絨毯にある!

 コーリィの肩から絨毯の上に跳び下りると、ポチの背中よりも上質なふかふか感が吾輩の足元を覆った。

 ほう?これはなかなか良いものであるな。この上で昼寝をすると気持ちよさそうであるなぁ。

 おっと、ふかふか感を楽しみ過ぎたあまり、コーリィ達に遅れてしまったであるな。あーもう、ロディンそんなおろおろとこちらを見るでない。情けないであるぞ。

しかし吾輩はもう少しこのふかふか感を堪能したいのであるがなーと思ったところで、椅子の親父の付近に立っていた赤髪のおっさんが大声を上げた。


「おい魔物!貴様、魔物の分際で王を御前として何をしている!早々にこちらに来て頭を垂れよ!」

「断る。」


 ふん、そんな偉そうに言われると余計に行きたくなくなるではないか。

 間髪入れず返した吾輩に赤髪親父は一瞬呆気にとられ、吾輩に言われた言葉をようやく理解できたのか、次第に顔を髪の色同様に真っ赤に染め、睨みつけた。


「やはり礼節も知らぬ畜生か!王よ、やはり隷属していない魔物を城に入れるなど間違いでしたのです!即刻あの魔物を殺しましょう、死んでも研究は出来ます!騎士団長ルーデリクを呼べ!今度はあの剣を持ってこの魔物を打ち滅ぼせと伝えるのだ!」


 ほう、今の言葉からするに、騎士団長をけしかけたのも恐らくこいつであるかな。

 そんな奴が礼節とはまぁ笑わせる。

 さて、打ち滅ぼすと言われたからには――


「言ったな貴様?吾輩を殺そうとするのであればそれ相応に暴れて見せようぞ?」


 吾輩は軽く威嚇をするように3本の尻尾を左右に振るう。

 あまり力は意識していないのであるが、それでもびゅんびゅんと風を切る音が発生した。

 ここで怯めばよし、もし本当に殺しにかかってくるのであれば、その時はまぁ、仕方ないであるかな?

 周りの騎士は赤髪親父の命に従い剣を構えてはいるが、襲ってくる様子は見受けられないが、自分たちでは勝てないと考え、構えるだけ構えて外の騎士団長を待っているのであろうか?

 そんな騎士たちの考えを知ってか知らずか、赤髪親父は叫ぶ。


「何をしている!殺せ、さっさと殺すの……」

「ふぅ……少し黙れ、クレード。喧しいぞ。」


 赤髪親父の声を遮るように隣の椅子の親父が呟いた。

 いや、本当に呟いただけなのであろうが、その声は離れているはずの吾輩にも鮮明に聞こえたであるぞ。しかも赤髪親父もあんなにヒートアップしていたのが、一気に押し黙って汗を流し始めたし。

 椅子の親父はゆっくりと立ち上がると未だ尻尾を振るう吾輩を見据え、口を開いた。


「俺の配下の者が失礼をしたな。俺がこの国、ラヘルの王のライアット・クランネルスだ。」

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