第39話 強化である!?

「おぉ、オークですか。この付近では珍しい魔物ですね。」

「ギルドの者も言っていたが、やはりそうなのであるか?」


 複数人の解体師に解体され、まさに豚肉という親しみ深い姿に形を変えていくオークを眺めながら、吾輩とタオラは話し、コーリィは解体の講義を受けている。

 というか、タオラは毎回毎回吾輩たちが来ると決まって、話に来るがいいのであろうか……こいつ一応代表なのであるよな?


「あくまでこの付近では珍しいだけで、離れた街では一般的に近い魔物ですよ。その街では安価でオーク肉を食べられるんですよね。」

「それは羨ましい限りであるな。オーク肉は美味しいのであるか?」

「それはもう。ブルピッグよりもおいしいです。」


 ブルピッグとは、この世界でよく見かける豚型の魔物で、吾輩も依頼で狩ったことがある。

 世間に流通している安い豚肉は、ブルピッグの肉とのこと。吾輩にとっては美味ければ何でもよいのであるが。


「それでもオークは、Dランクなりたての冒険者がよく狩ると言われています。Eランクになる予定だったとはいえ、よく勝てましたね。」

「いやいや、途中で逃げようとする雑魚であったぞ?」

「逃げる……?オークが?……ふむ。」


 何か引っかかることがあるのか、タオラは思案気な顔を浮かべたが、聞いてみても「気にしないでください」とはぐらかされた。

 

 気にはなるが、どうせ何か企んでいるのだろうし、それに関して吾輩が踏み入ることではないと思ったので解体中、真っ先に運ばれてきたオークの魔核に尻尾を伸ばし、がぶりと一噛みする。

 少し期待していたが、やはり不味い。まぁワイバーンも不味かったし、魔核は基本不味いのかもしれないであるなぁ……

 ゴクンと飲み込むと、それを合図にしてか、頭の中に例のアナウンスが流れた。


『スキル、イーターの効果によりオークの魔核の吸収が完了しました。』


 今までであれば、これでアナウンスは終了であったが、今日はそれだけで終わらなかったのである。


『イーターの効果よって吸収された魔力が一定の値に達しましたので、魔法・スキルが解放されました。』


 ん!?今なんて言ったであるか!?

 イーターの効果によってスキルが解放されたと言ったであるか?

 思いもよらない報告に、吾輩は慌てて自分の解放されたというスキルを確認しようと思ったが、よく考えたらそのすべをクシャルダに教えてもらっていなかったである!

 ちっ、あの馬鹿神め……だが、今クシャルダを恨んだところでどうにもならないである。えーっと、確か……吾輩が読んだ異世界物では……ステータスと念じるのであるな!

 少々眉唾物ではあるが、やってみる価値はあるである!"ステータス"!


《名前》ネコ

《年齢》15歳

《性別》雄

《種族》黒魔猫

《スキル》

言語理解・発声 気配遮断 忍び足 風魔法 闇魔法 イーター 猫パンチ 分身

魔爪 斬撃強化 

《ユニークスキル》

癒しの肉球 吾輩は猫である


 吾輩の目の前に、クシャルダと一緒にステータスを確認した時と同じようにウィンドウが表示された。

 しかし、すぐ近くにいるタオラが一切のアクションを示さないので、これは吾輩だけに見えているようであるな。

 やってみるものであるなぁ。さて、追加されたスキルというのは……魔爪に斬撃強化?斬撃強化というのは、まぁその名の通りであるが、魔爪とは……見たところ、吾輩の爪に異常は見当たらないであるが……?実戦で何かわかるのであるか?


 どうやら爪に関する強化がされたようであるな。

 吾輩、どうにも猫パンチだったり尻尾で締め付けたりと爪で斬るなんてこと、滅多にしていなかったである。これを機に他の戦い方を模索するのも手であるな。

 まさか、イーターにスキルを生み出す力まであるとは……このスキル、本当に食べるだけのスキルではないのであるな。


「ネコさん、どうしました?」

「ん?あぁ、何でもないである。」


 少しの間何も話さなかった吾輩を疑問に思ったのか、タオラが話しかけてきたが、彼に話すことでもないので適当に流しておいたである。

 オークの方も滞りなく解体は終了し、タオラの店に納品した。

 珍しい肉だけあって価格に色も付けてもらい――そろそろ借金全返済も近づいてきたのだとか。

 いやぁ、借金返済してからが楽しみであるなぁ……その前に今日を乗り切らねばな……うっ寒気が




 その日の夜……商会に借りている吾輩たちの部屋にて、吾輩は不敵に笑うコーリィに見下ろされていた。


「フ、フフフ、ネコ様?今日は寝かせませんよ?」

「い、いや、あのあるな?コーリィ?その……お手柔らかに?」

「善処します!」

「ギニャアアアアアアアアア!」


 吾輩は言われた処刑宣告通り……長い時間コーリィに満足するまでモフモフなでなでぷにぷにされた……で、あ……る。




 翌朝、ボロボロになった……わけでも無く、寧ろつやつやに手入れされた体を起こして吾輩は大きく伸びをする。

 未だすやすやと寝息を立てているコーリィを尻目に吾輩は朝日が差し込む窓から街を見下ろし、景色を眺めるである。

 普通だったらのどかな光景が見えるはずであるが、今日は違った。

 冒険者がギルドのある方向へ走っているのだ。それが1人や2人じゃないから、少し異常に感じた。


 ふと、何気なく部屋に備え付けられている机の上にあったコーリィのカバンに視線を向けると、その中から赤い光がこぼれているではないか。

 コーリィが、吾輩に内緒で何か隠し持っているとは思えないが、好奇心を抑えきれず確認してみると、光の正体は、Eランクになりたてコーリィの新品のギルドカードであった。


 いつもであれば、白いカードであるそれは、爛々と赤く輝き、コーリィの指名等が書かれているはずの内容が別の字によって書き換えられていた。


『緊急依頼発令中!ギルドに集合求む』

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