第58話 覆面を買うである!
「え、覆面ですか……?いやまぁ、あるとは思いますけど……」
謎の注文に眼の下にクマを携え、激務から解放されたタオラも不思議そうな顔をしていたである。
ただ彼も商人なので言われた通り覆面の在庫を探しに店の奥に消えていった。……いや、まず寝るべきだとは思うのであるがな。
しかし、何故コーリィはいきなり覆面が欲しいなどと言い出したのであろうか。
聞かないでくれと言われた以上、聞くつもりはないであるが、このタイミングで言い出したという事は王都に顔を見られたくない誰かがいるという事であろうか。
もっというと、彼女が初めて名乗った時「コーリィ・ディ……」と名乗ったあと、「ただのコーリィ」と言ったことが関係あるのかもしれない。
そんなことを考えていると、奥から複数の布を持ったタオラがやってきた。
「あったあった、ありましたよ。いくつかありますが……まず目出し帽。」
「却下である。」
なんでそんな物があるのであるか!いや、確かに覆面という点では非常に優れているのであろうがあからさまに怪しいであろう。
というより、そんな奴を吾輩一緒に歩きたくないのである。
「うーん、この目だし帽は優秀なんですけどね。あまり売れないんですよねー……」
「そりゃそうであろう。で、もっとないのであるか?」
「覆面ではないですけれど、仮面もありますが。」
「それも却下。」
何その仮面舞踏会に着けていくような煌びやかな仮面は。パーティーでもないのに仮面にお洒落など求める気はないであるぞ。
その後の覆面も仮面もどれも微妙な物ばかり……却下を繰り出す作業になりかけたところで1つの灰色の布が出て来た。
だがこの布、何かおかしいというか、違和感を感じる。見えるのであるが、視認できないというか……
「この布はですね、ただの布に見えて実はちょっと高いんですよ。」
「ほう、何か秘密でもあるのであるか?」
「えぇ、この布。ハイドマフラーと呼ばれるものでして、ハイドカイコと呼ばれる魔物の糸から生成されていましてね。このハイドカイコが面白い魔物でしてね、外敵に視認されにくい認識阻害スキルが付与された糸を吐いてそれで繭を作るんですよ。これを巻くとあら不思議、巻かれたものは認識されづらくなり、仮に中身が見えてもぼやーっとして記憶に残らないのです。割とレアな魔物ですので相対的にこのような布製品も値段が高くなるんです。」
長い長い。疲れ貯まっている筈なのによく喋るであるなぁコイツ。だが、面白い魔物であるな。蚕と呼ばれる虫は前世にもいたであるが、この世界にもやはり同じような存在はいたのであるな。
そんなにいい商品があるのであれば最初に出してほしいとは思ったが、売れないと言っていたし、この機に1つでも在庫処分をしようとしていたのであろう。
「中々いい商品であるな。コーリィ、少し巻いてみるである。」
「そうですね、それでは……」
コーリィはタオラからハイドマフラーを受け取ると、ぐるぐると顔に巻き付けていく。
お、おお?これは凄い。爆発的に何かが変わったわけでは無いが、一巻きするごとに段々とコーリィの顔がぼんやりとなるのを感じる。
このネコの目をもってしてもコーリィの顔が見えないことに違和感を感じなくなってきた。なるほど、これは顔を隠したいコーリィにはうってつけな商品かもしれないであるな。
「コーリィ、巻き心地はどうであるか?」
「特別息苦しさも窮屈さも感じませんね。匂いもきついという訳でもありません。」
コーリィも中々気に入ったようであるな。よし、これにするであるか。
「これはいくらであるか?」
「さっきも言いましたが、貴重なものですからね。小金貨8枚でどうでしょう。」
ほう、確かに高いかもしれぬが今の吾輩に払えない金額でもなさそうであるな。
世話になったことであるし、中金貨1枚をタオラに渡しお釣りはいらないように言うと
「おっと、ネコさんも最初に比べて大分豊かになったんですかね?……まぁジェネラルとソルジャーの話は聞いていますからね、これくらいは余裕でしょうか。」
おっと?皮肉られた気がしないでもないであるが、そんなことは気にしないであるぞ。
ちょうどオークの話も出てきたことだし、ついでに買取もしてもらうであるか。
「タオラ、今買取をしてもらってもいいであるか?」
「えぇ構いませんよ。では、店先ではあれなんで裏に来てください。」
店の裏に引っ込むと、吾輩は買取をしてもらうべく、オークの肉と皮、その他素材を並べ、タオラに見てもらった。
吾輩がタオラに借りた借金分は、どうにかただのオークの素材全部と、オークソルジャー1匹分の素材で完済とのことである。
「では、オークとソルジャー1匹買い取りまして完済という事で……他のも買い取りますか?」
「基本的に、肉と魔核以外はいらないであるな。何かが特効薬になるというのであれば引き取ってもいいかもしれぬが……。」
「そ、う、ですねー……オークの睾丸が精力剤になるとかどうとか。」
「あ、いらんである。」
精力剤など吾輩には必要ないである。ならば金にした方がいくらかマシであるぞ。
買取は滞りなく進み、肉と魔核以外の素材を全て買い取ってもらい、小金貨6枚を受け取ったである。
そういえばと思い出し、買取ついでにタオラに王都に行くことに伝えると、彼にしては珍しく寂しそうな表情を浮かべた。
「そうですか……ネコさんがいるといちいち驚かされまして、いくらか度胸がついたつもりなんですけどねぇ。今生の別れでもないのに動揺してしまうのは私もまだまだ未熟ですね。」
「未熟とか、どの口が言うであるか。」
「まだまだ未熟ですよ、私なんて。……ま、出発までまだ日にちはあるんでしょう?せめてその間だけでもゆっくりしてくださいね。」
言われなくてもそのつもりである。早速食堂にオークの肉を持って行ってステーキでも作ってもらうであるかなーっと。
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お知らせ
新社会人として引っ越しやら研修やらで投稿が滞ることがこれから多くなるかもしれません。
時間を見つけ次第少しずつでも書いていこうと思いますので、今後ともネコ闊歩をよろしくお願いします。
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