第32話 コーリィの魔法能力である!
吾輩たちは今、街から離れ、大きな池の近くまで来ている。
スライムの居場所すら知らずに飛び出たのは吾輩が浅はかだったであるが、街から出る際に門番にスライムの生息地を聞いてみると基本的にどこにでもいるが、一番集まるのは水辺だということなので、こうして池まで来ているのだが……
いるわいるわで、プルプルして青いゼリーのような魔物がポヨンポヨン跳ね回っているである。
ゲームでは目や口ついているものがよく見られたが、必要ないのであろうこやつ等には存在しない。
しかしコイツ等、やはりと言うべきか……
「弱いであるな。」
「そうですね……いえ、ネコ様のお手を煩わせないほどだと考えればいいことなのでしょう。」
「それはそれで困るのであるが?」
先程から何匹か吾輩たちに跳びかかって来るであるが、猫パンチを使うまでもなく、尻尾であしらうだけで地面にペシャッと音を立て絶命する。
これだけ弱いと申し訳なさすら感じてくるのであるが、このスライムが仮に街の下水から侵入したら……?
スライム自体に生殖器官は無いが、アメーバのように分裂し数を増やすのだという。下水で少しずつ数を増やしそれらが一気に地上に出たら間違いなくパニックになるだろう。
雑魚とは言え数という補正があればスライムは容易く人間を殺し捕食できるらしいので駆除のためスライム討伐の依頼は常時発生しているらしい。
吾輩たち以外にも離れたところで冒険者が何人かスライムを狩っているのがその証拠だ。ただ彼らは少し苦戦しているようだが。
さて、流石に吾輩ばかりじゃ駄目であるな。そろそろコーリィの初陣である。
「ではコーリィ、次はお前の番である。」
「はいっ!ネコ様のご期待に沿えるように頑張ります!」
「そこまで気張るなである。気楽に気楽に」
吾輩の言葉にコーリィは軽く自分の頬を叩き、深く深呼吸をする。
「"フレイムアロー"」
ほう、火を纏った矢を放つ魔法であるか……同時5本ぐらい放つのは普通なのだろうか?
そのフレイムアローだが、1本2本まではスライムも頑張って回避していたが、それが限界か、残りの3本は2体のスライムに直撃し中の水分がボコボコと沸騰したかと思うと力なく絶命した。
「どうでしたか、ネコ様!」
あ、この顔は褒めてほしそうな顔であるな。最初であるし褒めておこう。
「うむ。流石はコーリィであるな。よくやったである。」
「えへへっ!ありがとうございます!」
「だが聞きたいのは、あのフレイムアローは火の矢を5本放つ魔法であるか?」
「いえ?あれは使用者によって本数が変わるんですよ。1本しか出せない人もいますし、50本なんて簡単に出せるなんて人もいます。」
なるほど、個人差によって撃てる量も変わるのであるか。そう言えば吾輩のウィンドカッターも1つしか出なかったであるな。
ただコーリィによるとやはり練習や慣れで本数を増やしたり減らしたりもできるとのことなので希望はある。
よし、もう少しコーリィの魔法を見せてもらうであるかな。
「コーリィよ、吾輩と対峙した時のあの火球を放つ魔法。あれが見たいである。」
「あーあれですか。かしこまりました!"レイ・フレイムボール"」
コーリィが唱えるとあの時と同じように周りに火球がいくつも出現した。だが、あの時と違う点を挙げるのであれば、火球はすぐにスライム目掛け放たれるのではなく、宙に浮いたままである。
「ネコ様、実はこの魔法は操作が可能な魔法なんですよ。」
「操作であるか?」
「はい、このように……っと。」
そう言いコーリィが人差し指をたて、くるりと円を描くとそれにつられたかのように火球が宙で円の軌道を描いた。
ほー、これはまた使えそうな魔法であるな。
「お恥ずかしながらネコ様に目を覚まさせていただく前は、知能が獣並みになっていましたので、ファイアボールを操作するほどの力を発揮できていなかったんですよ。」
「それはそれは……ある意味助けられたであるな。」
「いえいえ!たとえ操作できたとしてもネコ様に通用しないのは自明ですよ!」
そんな会話の中でもしっかり火球をスライムに当てているのだから恐ろしいものである。スライムだから、こんなに適当でも倒せるのだろう。
裏を返せばコーリィが本気を出して魔法を行使すれば、それこそもっと強い魔物も屠ることが出来るかもしれない。
元々、吾輩が魔物を倒せばいいのだからちょっと動ける程度の奴隷であればいいなーぐらいの考えであったようだが、凄い掘り出し物を見つけた気分である。
聞けばまだ使える魔法の種類はあるとのこと。コーリィの将来が楽しみになってくるである。
彼女はもっと魔法を披露したようだったが、スライム自体は十分すぎるほど狩った。具体的に言うと必要数の5体の3倍の15体。
これ以上は他の冒険者の妨げにもなりかねないので、スライムの死骸を吾輩のマジックボックスに収納して街に帰還である。
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