第7話 吾輩の力量確認である(肉体編)

「ティナ、何でお前がいるであるか?」

「ネコについていったら面白そうだからついてきた!」


 えへへ、とあどけない笑顔を向けられ、流石の吾輩も目を逸らさずにはいられないである。

 会った時からずっと思っていたであるが、ティナはラナイナ程とは言わないが、大人の女性らしい体型をしている。その割に子供っぽい発言が多いであるな。

 だからこそ、余計に歳が気になるであるから思い切って聞いてみるである。


「……ティナ。お前何歳であるか?」

「え?10歳だよ?」


 ぼふぉ!!

 嘘である。そんなのおかしいである。

 10歳でその体つきであるか!?あり得ぬ……あり得ないであるぞ。少なくとも、吾輩の前世ではあまり見かけられないほどの成長であるが……

 ワーウルフの特徴であるか?それだと説明が行くであるな。

 よし、ティナの謎が一つ解けたところで……まずは吾輩の脚力を計るである。


「ねー、ネコー!なにするのー?」


 背後からティナの声が聞こえるが、吾輩は身を屈めて脚に力を籠め――


「教えないである!!」


 返事と同時に脚に溜めた力を一気に開放し、森の中を駆ける。

 我ながら相当なスピードが出ているであるが、辛さは一切感じず、寧ろ爽快感が勝っている。

 これ軽く走っているだけであるがギィガ並に速いであるな。

 おっと、吾輩はただ駆けているだけではないのである。実は爪でちょくちょく木に切り傷を付けているのである。

 これは爪の力加減の調整と同時に始めて入るこの森で迷わない様に目印を付けているのである。

 最初の一振りは力入れ過ぎて半分ほど斬っちゃったであるが……迷子になった日にはギィガに笑われてしまいそうであるからな!木々よすまんである。

 

「ぃよっ!」


 吾輩は大きく跳躍し、地面から丈夫そうな木の枝に乗り移り次へ次へと他の枝に飛び移る。

 ただ跳ぶだけではなく、尻尾を鉤爪状に曲げ枝にひっかけさながら振り子のように揺れ、その反動で大きく跳ぶ。

 尻尾の力も中々に高いようであるな。


 走っている間、猪や鹿に近い動物――いや、魔物であるな。――とすれ違うであるが、一様に驚きの表情をしていたのは笑えたである。

 驚くのも無理はないであるな。吾輩のように小さな魔物が素早く駆け、跳びながら木々に傷を付ける。彼奴等には珍しい光景であるか。

 今の吾輩はさながら日本の妖怪の1つ、鎌鼬の様なものであるな。……吾輩は鼬ではなく猫である!!


 むっ!木々の間から開けた光景が見えるである。ということはそろそろ森を抜けるであるか。

 森を抜けるとそこは雪国であった――わけでも無く、普通に草原である。

 そして丁度良いところに大きな岩があるである!これはあのスキルを試さずにはいられないであるな!


 ギィガに縛り付けられていた鎖に放った猫パンチ。あの時は加減も分からなくとりあえず放っただけであるが……それでも鎖を、それどころか荷車の壁まで破壊していたである。

 もし猫パンチを全力で打てば……そう思っていたところに岩とは本当に丁度いいであるな!唸れ吾輩の右前脚……!!


「猫パンチ!」


 ……あの。

 猫パンチって人間からしたら力がないのにパンチして可愛い~とか、じゃれているサインだとか言われているであるが……

 岩をも砕く猫パンチ。喰らいたい人間なんているであるか?少なくとも吾輩は……いやであるな。

 いやぁ、見事なまでに木っ端みじんである。吾輩、自分でやっておきながら引いているであるが……クシャルダの言った通り相当強いスキルであるな。鍛えていない人間なら瀕死レベルであるぞこれ。

 これ、猫パンチ撃つときは考えねばいかんであるな……


「わぁっ!ネコすごーい!でっかい岩が粉々になっちゃったー!」

「っ!!?」


 待て。待て待て。待て待て待て!待つのである!

 お前!振り切ったはずである!なのに何で!?何でお前がここにいるのであるか!?


「ティナ!どうしてお前がここにいるんであるか!」


 そう、吾輩の目の前には奴がいた。さっき置いてけぼりしていたはずのティナが笑顔で立っているではないか!しかも疲れを感じさせないような笑顔で!

 そして屈託のない顔で何気もなく言い放ったのである……


「えー?ネコを追ってきたんだよ?ネコってすごいんだね!お父さんより速かったよ!私追いつくのに大変だったー!」


 吾輩が言ってはいけない言葉であるかもしれないが……10歳なはずなのにバケモンであるか、こいつ。

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