第71話

「天井裏にある電気系コードをずたずたに破壊しました。これで、この建物の制御コアに向かうルートの全ての罠は動かなくなったはずです」


「いいぞ、翔子」


 翔子が戻ってきて、俺を先導する。


 閉まった隔壁をいくつも破壊し、ついに最深部に到達した。


 最後の隔壁を破壊した向こうにいたのは、一見、13歳くらいの少年だった。


 半ズボンに蝶ネクタイ。少年は、テーブルに座りながら紅茶を飲んでいる。


 少年が口をひらいた。

「まさか、ここまでたどりつくとはね。おどろいたよ」

 さっきまでスピーカーから聞こえていた声だった。「どうだい? 君もお茶を飲むかい?」


 が泣いていた。


 しくしく、しくしく……、あきらかに若い女が泣いている声が、テーブルから聞こえてくる。


「なんだ? そのテーブルは?」


「ああ、これ?」

 少年がテーブルの方に視線を向けながら言った。「これは、テーブル人間だよ。最新キメラ技術により生まれた新生物だよ。テーブルと人間を合成キメラ化したものだ。このテーブルには人間の意識がある。こいつは、であると同時に、人間であり家畜なのさ。それより、まずは、一緒にお茶にしようよ」


「うるせえ。てめえはぶち殺す!」


「ああ……、風情ふぜいというものがわからないようだね。君のような野蛮人はどうしようもない。おい、テーブル、おまえはいらない存在らしいよ。倉庫にでも戻ってろ」


 テーブルがしくしくと泣きながら、四本の脚で歩き出した。


「このテーブルの四本の脚は、人間の手足を改造したもので、自分で歩くことができるんだよ。便利でしょ。キメラの生成には、生体分子システムの機能制御の膨大な演算が必要なんだけど、この電脳演算都市『バベル』の超々スーパーコンピューターなら簡単さ」


御託ごたくはいい。てめえは死に際の念仏でもとなえてろ」

 俺が持っていた武器を振りあげた。


「おいおい、気がはやいよ。君が僕が直接相手するべき敵なのか、すこしだけ見せてもらうかな……」



 突然、横の扉が開き、30匹以上のトロールが入ってきた。


 ただのトロールではない。トロールの頭の上に、人間の頭がついている。


「これがトロール人間だよ。どうだい? トロールは巨体による怪力と、強力な再生能力が強みだけど、知能がものすごく低いからね。そこで、トロールの脳をとりさり、人間の頭とのキメラにしたのさ」


 「殺してー。お願い殺してー」

 アラサーくらいの女の顔がトロールの頭の上についていて、しくしくと泣いていた。


「こんな人生は地獄だ。たのむ、はやく殺してくれー」

 50歳くらいのオッサンの顔もトロールの頭の上で、俺に乞い願うように絶望に満ちた顔をしていた。


「こいつらには意識や感情、知能はあるが、完全な家畜奴隷人間なので、自分の意思では行動できないんだ。僕の命令どおりに従うだけさ」

 少年が、トロール人間に、俺を指差しながら命じた。「おい、おまえら、そいつを殺せ!」

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