第25話

 直也の攻撃がさらに続こうとしたとき……、


 カーンッ!


 高い音をたてて、直也の剣が受け流されていた。


 やったのは、例のライン坊主の男だ。


「パリィが使えるのか」

 直也が言った。


「俺の加護は【刃物】だ。ナイフはもちろんだが、長剣だって完璧にあつかえる。パリィも、俺の加護によるスキルなんだぜ。ふふふ……」

 ライン坊主が自慢げに言う。


「みごとなもんだ」


「たりめえよ。おまえの動きは、すでに見切った」


「ほう……」

 直也が目を細めた。


「俺は『シティファイ』の上級者でな……」

 ライン坊主が悪どい顔で微笑む。『シティファイ』というのは、有名な『対戦型格闘ゲーム』だ。賞金がでる大会もひらかれており、プロゲーマーも数多くいる。


「それで……?」


「おまえの動きはゲームに似てる」


「なかなか、いいところに眼をつけたじゃないか」


「とうぜんだ! 他の人間には、おまえの動きがわからないようだが、俺には見える」


「…………」


 ライン坊主は得意げに続けた。

「一見、どんなことをしているかわからない動きにもパターンがある。ぜんぶ反射神経だけで対応できるわけじゃない。で、相手に特定の動きをさせるように誘導し、決まった反撃をする。上級者といっても、それを数パターン持っているだけだ」


「おまえは、上級者ってもんが、わかってるじゃないか」


「ふんっ、もちろんだ。おまえの攻撃パターンも決まってる。完全に見切ったぜ。ふははは……」


「じゃあ、これはどうだ?」


 直也がサイドステップ気味に踏み出し剣の柄を振った。


「ぎゃああああっ!」

 避けきれなかった、ライン坊主の顎に、直也の剣の柄が命中する。


「ば、バカな……どういうことだ?」

 ライン坊主の表情が硬直する。


「おまえは見誤った。俺は、おまえが言うようには動いてない」


「だったら、どう対応してるって言うんだよっ!」


「すべて反射神経で対応してる」


「無理だ……。そんなスーパー超人のようなことができるのは、プロゲーマーの中でも、ごくごく限られた超上級のバケモノだけだぞ!」


「そのとおりだ。俺は上級者ではない」

 直也はニヤリと笑った。「今、おまえの目の前にいるのが、その超上級のバケモノだ」


「そんなこと、あるわけねえーっ!」

 ライン坊主が残った右手で剣を振りあげ、直也に襲いかかる。


「パリィ!」

 スキルが決まる。

 直也のスキル『パリィ』は、タイミングが完璧だと、相手の身体がよろめいて、3連続の反撃を入れることができる。


「ぎゃああああっ!」

 直也に切り刻まれたライン坊主が悲鳴をあげる。


「おまえ、刃物で人を切りきざむのが好きらしいな。どうだ? 自分が切りきざまれる側になった感想は?」

 直也がライン坊主にせまる。


「ち、ちくしょーっ!」


「ほら、もっと切りきざんでやろう」

 直也が剣を振り上げる。


 ライン坊主の顔からは完全に戦意が消えていた。おびえた表情で、頼みこむ。

「た……、たのむ。助けてくれーっ!」


「ゴミのくせに、人並みの口をきくな」


「おまえには、人のなさけってもんがないのかよーっ!」


「汚物にかけるなさけなどない」


「そ、そんなぁ……っ!」


「うぎゃああああーっ!」

 斬られたライン坊主が息絶えた。



 【刃物】の加護をもつものさえ、簡単に斬り殺されたのをみて、ヤンキーたちは完全におびえていた。


 直也が、生き残ってるヤンキーたちに顔を向ける。

「どうした? ここは、バトルロイヤル用の部屋だぞ。さあ、はやく殺し合え! でないと、よくないことが、おこるぞ」


「な、なにがおこるってんだ?」

 恐怖でいっぱいの表情になった上川が、青ざめた顔で言った。


「ほら、こうなるんだよ」


 見ていると、周囲の壁から、生き残ったヤンキーと同じだけの数のゴブリンがきでてきた。


 直也は、魔王のように微笑んだ。

「扉が閉まったこの部屋では、人を殺さないで一定時間すぎると、いて出た魔物に攻撃される。しかも、いてくる敵は、段階的にどんどん強くなっていく。それから逃れる方法は、対人戦で人を殺すのみ。さあ、おまえら、とっとと仲間同士で殺し合え!」

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