第63話

 地下第5階層までやってきた。


 このダンジョンの地下第5階層には、魔物が入ってこない街がある。ガラワルイという名前の小さな街だ。


 街ではNPCたちが暮らしている。街で、宿泊したり、武器や防具、アイテムなどを購入することができる。とはいっても、大した物は売ってない。


 だが、俺の意識をとらえたのは、ガラワルイの街ではなかった。その背後には、街とは比較にならないくらいの巨大な建造物が視界に入る。


 それは、まるでバベルの塔のように、圧倒的な威圧感でそびえていた。こんな建物はゲームになかった。後から建てられたもので間違いない。



 ガラワルイの街に入っていくと、1人のNPCが定型文を述べた。

「昔語りの町、ガラワルイへようこそ!」



 少し進むと、俺の背筋が、ゾクッとおぞけだつ。心臓が、けたたましく鼓動しはじめる。


 首の後ろがピクピクして落ち着かない。


 ものすごく嫌な予感がした。数多くのゲームをやりこんだ人間の直感だ。何か、ひどく悪いフラグが立ってる気がする。


 俺は、アイテムボックスから『探知』のスクロールを取り出し、使用した。


 すぐにガラワルイの南西にある施設に、意識が引き付けられる。


「なんだ、この施設は……?」


 呪われている。ものすごい数の高レベルの呪われた魔物がいる。


 こんなのが地上にあふれでたら、世界が終わるぞ。


 突然、俺の『探知』の効果が無効になった。相手に、レベル20以上の斥候スカウト系の職業ジョブがいるのだ。そいつに魔法を無効化されたのだろう。

 

 となると、俺がいま使ってる姿と音を消す魔法、『スニーキング』も、すでに無効化されていると考えるべきだろう。


 俺は、『スニーキング』の魔法の効果がなくなったのを意識してから、南西にある施設へと近づいた。


 施設の大きさは、幅20メートル。奥行100メートルほどはあるだろうか。白い工場のような建物だ。この建物もゲームにはなかった。


「ここは、許可証がなければ入れない」

 施設に入ろうとする俺を、警備員らしき4人の男が、押しとどめる。


 問答無用で、4人をぶちのめす。こんな奴らにかまってる場合じゃない。入口の扉を開き、強引に建物の中に入った。



 最初に入った一番手前の部屋は20畳ほどの殺風景な場所だった。真ん中にビジネスデスクが一つ。


 マジメそうな、銀縁メガネのエリート・ビジネスマン風の男がデスクについていた。


 俺は男に言った。

「おい、後ろの扉をあけて奥の部屋を見せろ」


「な、なんですか? あなたは?」

 男は、突然の乱勇者である俺に驚いた風だ。「どういうご用件でいらっしゃったのですか?」


 男は、俺を見下すような目つきだ。俺のことを、なにかの間違いで部屋の中まで紛れ込んできた3流ダンジョン・ハンターかなにかとでも思っているのかもしれない。


「アポイントメントは、すでにお取りいただいてますでしょうか?」


「うるさい。奥を見せろ!」

 俺はビジネスデスクを蹴った。大きな音がなる。男がヒャッと言ってひるんだ。


「警備員! 不審者だ! 取り押さえろ!」

 男が叫び声をあげた。


 しかし、警備員はこない。どうやら、この施設を警備するのは、出入り口の前にいた4人が全てらしい。


 奥から、独特の魔物の泣き声が聞こえてきた。俺は、全身が凍りついたように、身を固まらせる。


「テケリ・リ、テケリ・リ・リ・リ……」


 以前、俺が、魔物が漏らすこの声を聞いたのは、ゲーム終盤のはじめの頃だ。今の俺は、ようやく、ゲーム『ファースト・ファイナル』の中盤に、さしかかった程度。


 RPGは、レベリングで圧倒的に戦闘力が変わる。今の俺では、この魔物を同時に相手にできるのは、せいぜい1体が限度だ。『探知』の魔法で存在を感じたのは、呪われた高レベルの魔物が50体以上。


 人類のレベルがまだまだ低い今、こんなバケモノが20体ほどでも地上に解放されればまちがいなく人類は壊滅する。


 こんな施設、組織の末端だけでどうこうできるわけがない。大宮司商事トップの西ノ宮総一朗の意向が入っているのは間違いない。


 西ノ宮総一朗、おまえはいったい何をたくらんでやがるんだ?!

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