第62話

 自分の部屋で、ゲーミングPCでゲームをしていると、花凛が入ってきた。


なおくん、たいへんだよー! エリカちゃんが、ヤクザな人たちに家族ごと連れていかれちゃったぁー」


 朝風エリカというのは、高校のクラスで花凛と一番仲のいい女生徒だ。


 俺が、PCモニターから顔をあげる。

「たしか、お父さんが、脱サラして起業したんだっけ?」


「うん。それで、事業がうまくいかず、闇金にまで手をだしちゃって……」


 で、借金取りに来たヤクザに連れていかれたってわけか。


「このあたりで、借金とりのヤクザに連れて行かれるところって、たぶん、例のB市のダンジョンだな」


 花凛が悲しむ顔は見たくない。俺は立ちあがった。


「わたしも行く?」


「いや、今回は、俺ひとりでいくよ」

 花凛も、かなりレベルはあがったが、まだ俺とは圧倒的な差があるからな。


  ☆☆☆


 俺は、となり町であるB市のダンジョンまでやってきていた。B市ダンジョンは、スタンピードを起こし、市街のかなりの範囲が、一般人が入りこめない魔物が徘徊はいかいする廃墟となっている。


 ダンジョンの出入り口を見ることができるところまでやってくる。


 出入り口には、10人ほどの男たちが立っていた。あきらかに、カタギでない男たちだ。



 俺は、物陰に隠れたまま、最適な装備を選んで身にまとう。

 今日の防具は、全身イレブンナイン・ミスリル製のフルプレートだ。ヘルメットも、同じ素材でできたフルフェイスのものを着用する。これで顔は見えないし、銃弾も防げる。もちろん、ヤクザが銃器を持ちだしたときのことを考えてだ。


 ゲーム『ファースト・ファイナル』では、かなりたってから、銃を扱う職業ジョブ『ガンナー』も実装された。ゲーム内でも、リアル世界に存在する各国メーカーの銃が使用可能だったのだ。

 

 この防具なら、拳銃弾はもちろんのこと、M2重機関銃の徹甲弾でさえ防ぐことができる。今の俺の反射神経なら、銃弾くらいほぼ全部避けられるだろうが、用心にこしたことはない。


 姿と音を消す魔法、『スニーキング』のスクロールを使用した。スクロールで使えるのは、多くが低級魔法だ。レベル20以上ある本職の斥候スカウトがいれば、簡単に見破られてしまう。でも、ないよりはましだろう。


 姿を消したまま、ダンジョンの出入り口に近づいた。たむろしている10人ほどのヤクザがしゃべっている。


「しかし、ダンジョンはボロいシノギだぜ」


「ほんとうに、手堅い。もう、リスクのある覚醒剤シャブ売りなんかに手をだす必要はないな。なにせ親方日の丸おやかたひのまる、天下の日本政府様が全面的に、バックアップしてくれるんだからな」


「俺なんか、攻略組のダンジョン探索夫たんさくふを10人つれてきて、ウハウハよお。政府からの支給額は、ひとり一日4万円。10人集めて、ひとり3万をピンハネして20日も働かせりゃ、一ヶ月で600万が転がりこんでくるって寸法よ」


「ちぃっ……。攻略組は命がけだから、なかなか探索夫やりたがるやついないだろ。どうして、そんなに人夫にんぷ集められるんだよ」


「俺は、親父の代から闇金業だよ。借金背負ってニッチモサッチもいかなくなった奴等を、家族ごと引っ張ってくるんだよ。簡単な商売だ」


「ちくしょー。うまいことやってやがんなー。うらやましいぜ」


「先月、欲しかったベンツの新車、買っちまったよ。やっぱ、いい車乗ってると女の反応が違うわな。しょせん、この世は金だ。笑いがとまらねえぜ。あははは……!」

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