第61話

 昼になって、花凛の母親で看護師の咲子さんが夜勤から帰ってきた。



 家のことは咲子さんにまかせ、俺は花凛とふたりで家をでた。


 俺のいないときに、そこそこの強敵とであっても、花凛も最低限の自衛くらいはできるようにしておきたい。パワーレベリングで花凛をさらにレベルアップすることにした。


 いつも通ってる市内のダンジョンまで移動し、出入り口から入る。


 ダンジョン内をしばらくすすむ。ガラの悪そうな男が1人。俺たちの進行方向に立ちふさがった。


 20歳そこそこだろう。あきらかにカタギではない。でも、本職のヤクザでもなさそうだ。半グレといったところか?


「じゃまだ、どけ」


「おいおい、そう簡単にここを通すわけにはいかねーんだよ」


「…………」


「ここを通るには通行料が必要なんだよ。ぐへへへ……。なんなら、おまえが連れてる、そっちの女を置いていってもいいんだぜ」


「うせろ」

 警告なしに、半グレの顔面の中心を殴る。予備動作なしの、高速パンチ。


 もろに顔に命中する。


「ぎゃあっ。……痛い、痛い、痛いっ」

 半グレが地面に倒れ、顔をおさえて、のたうちまわる。


 最近、ダンジョン内では、こういうバカが大量に増えた。

 バカを放置して、さらにダンジョンの奥へとすすんだ。




 少し歩いて、ダンジョンの通路を脇にそれる。こっちは、本来は行き止まりだ。だから、いままで、他のダンジョンハンターに出くわすことは、めったになかった。


 行き止まりの手前までくると、俺が言った。

「花凛、メイン装備に変えるぞ」


「……うん」


 アイテムボックスを使用した俺と花凛が、一瞬で強力な武器と防具を身にまとう。今のレベルで装備できる最強の装備だ。



 俺達はさらに進んだ。行き止まりまでくる。俺が壁に手をあてた。


 ゴゴゴゴ……


 音をたてて、隠し扉が左右に開いた。


 地下15階層の階層ボスを倒せば、ここからダンジョンの地下16階まで直通のエレベータが使えるようになるのだ。



 そのとき、


 ふと、視線を感じた。


「だれだ?」

 俺がふりかえる。


「…………」


「隠れても無駄だ。でてこい」


 物陰から、1人の少女がでてきた。甘栗色に髪を染めた織田結菜ゆいなだった


「見つかっちゃったぁー。ははは……」

 結菜ゆいなは、見つかったことをごまかすように、照れたように笑った。


「おまえ、俺達をつけてたな? ストーカーか?」

 俺がせまる。


 俺の表情を見て、結菜ゆいながひるんだ。表情をこわばらせる。

「ちょ、ちょっと、神崎、なに、その目? 超怖いんですけどー」


「秘密を知られたからな。仕方ない。ここで始末していこう」

 俺が剣を抜いて、振りあげた。


「ひゃあああっ。ほんとうに、顔が怖いよ。神崎の演技力すごすぎないー?」


「演技だと思うか?」


「すいません、すいません、すいません。なんでもしますからーぁ!」

 結菜ゆいなが地面に正座して、ぺこぺこと、何度も額を地面におしつける。


「うるさい。口をふさぐためには、殺さないとな……」


「いやあああ……」


 俺が結菜ゆいなに歩みよると、花凛が言った。

「さすがに、殺しちゃうのはかわいそうだよ」


「でも、信用できない。秘密を漏らされるわけにはいかないし……」


なおくん、ゲームみたいなアイテムいっぱい持ってたでしょ。こういうときに、なんか使えそうなアイテムないの?」


「あるにはあるが……」


「え? あるの?」

 結菜ゆいなが顔をあげ、目をキラキラさせて俺を見た。


 俺はアイテムボックスから、ベルト型のチョーカーを取り出した。


「これは、本来、NPCの魔物につけるアイテムなんだが……。何故かプレイヤーキャラクターにも使用することができて、ゲーム内の掲示板が炎上したことがある」


「なに、それ?」


「正式名称『従属の首輪』。しかし、プレイヤーは、そんな名前では呼んでなかった」


「なんて呼んでたの?」


「通称、『奴隷の首環』。もともとは、魔物を従属させるアイテムだ。いちどつければ、つけられた者は主人の命令には絶対服従になる。どんな命令にも反抗することはゆるされない。おまえにこのチョーカーをつける覚悟はあるか?」


「つけます。つけます。喜んでつけます」


「わかってるのか? これをつけるということが? 事実上、俺の奴隷になることを意味するんだぞ。このベルトは一度つけると、つけた人間しかはずすことができない」


「わかってます。つまり、エロい命令されて、あーんなことや、こーんなことや、あられもないことを、させられても断れない……と。あーん。想像するだけで興奮する。ひゃふん……」

 結菜ゆいなが、やたらつやめいた声をもらす。恍惚こうこつとした表情になり、快感に目をうるませはじめた。


「…………」

 とんだ、淫乱いんらん女もあったもんだ。



 俺は、結菜ゆいなの首に『奴隷の首環』をつける作業をすすめた。


 結菜ゆいなの細くてなまめかしい白い首に、後ろからベルトをまわす。


「ひゃあああ……」

 やたらエロい声が、結菜ゆいなの口から漏れる。


「…………」


 首の後ろにベルトをまわしてから、留め金の部分を前に持ってくる。ベルトの先端をバックルに通そうとした。でも、無駄に結菜ゆいなが身体をうごめかすので、なかなか先端がバックルに入らない。


 結菜ゆいなが、アダルトビデオのような声をだした。くねくねと、色っぽく身体を動かす。

「あんっ、あんっ、あー……、ああ……。いやんっ……。だめ……。ベルトの先が入る……。入っちゃうううぅ」


「うるせー。黙れ。淫乱いんらん女!」


「ひゃあっ……。だって……、だってぇ……。神崎に、こんなのされたら……。もう……、ぐしょぐしょ……」


「いいから、その口をふさげ! じっとしてろ!」




 とりあえず、なんとかベルトを首にはめおわった。


 あとは、『隷属の首環』を有効化するための誓いの儀式だけだ。


「織田結菜ゆいな、誓え。俺の秘密は絶対にもらさないと……」


「誓います。あたしの御主人様、神崎直也様の秘密を、絶対にもらしません。あと、直也様に、あたしの処女をささげ、生涯の貞節を誓います」


「よけいなものまで誓わんでいい」

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