第60話
ふわー……。目覚めた。
日曜日だった。
昨晩は、花凛の家に泊まった。朝起きて、ダイニングキッチンまでくる。トントン……と、花凛が使う包丁の音が聞こえてきた。
「あ、
「おはよう」
花凛は、超ミニのワンピースだ。なかなか似合っててかわいい。すらりと伸びた白い足。スカートが短すぎて、ちょっと動くとパンツが見えそうだ。が、俺しかいないので問題はない。
うん。とてもよい。
ダイニングテーブルに座って、朝食をつくる花凛の姿を眺めながら、しばらくすると、
「
寝ぼけ
「どうした? 日曜なのに、起きるの早いな」
「ブリギュア見るの」
「ああ、ブリギュアか……」
「
「おう……」
《……トーンコネ◯ト! ひろがるチ◯ンジ!……》
見てると、俺まで画面にひきこまれてしまう。
「ブリギュアがんばえー!」
「がんばえー!」
「まけるなぁー!」
「まけるなぁー!」
「もう、
花凛が、こっちを向いてクスクス笑ってる。
ブリギュアが終わった。
「
「いいぞ」
「わーい」
花凛が、テレビのチャンネルを変えた。ニュース番組になった。
「現在、『単純労働ダンジョン探索者』というのが問題になっているようですね」
「なんですか、それは?」
論説委員の言葉に、ニュースキャスターがたずねた。
「派遣労働のダンジョン版といえばいいでしょうか」
「へー、そんなのがあるんですね」
「ダンジョン探索は、非常に利益があがる一方、とても危険です」
「毎日、多くの人がダンジョンの中で行方不明になってますね」
「だから、特別な【加護】や能力、経験をもった専門のダンジョン・ハンターが探索するのが通例です。ところが、優秀なダンジョン・ハンターは少ない」
「ダンジョン探索業界も、人手不足というわけですか」
「考えられたのが、特別な能力を持たない一般人を雇って、ダンジョン探索をさせるというやり方です」
「一般人にやらせるのは、危険ではないですか?」
「もちろん、きわめて危険です。一般人を多く集めて、数の力で強力な魔物を倒そうという命がけの仕事です。政府は、大手企業がダンジョン探索をしてもらう人を雇うために、1人1日あたり4万円の助成金を出しています」
「危険とはいっても、1日で4万円稼げるんですか?」
「いえ。実際は、雇用主や中間業者にピンハネされます。現実の『単純労働ダンジョン探索者』の収入は、コンビニなどで働いてるアルバイトと、大して変わりません」
「そんな仕事、誰もやりたがらないんじゃないですか?」
「そこにでてくるのが、反社会的勢力です。もっと、わかりやすく言えば、ヤクザ、暴力団と呼ばれてる人たちなんですね。彼らが、さまざまな手段をつかって労働者を集めてくるんですよ。こういうヤクザの仕事は、
「暴力団が、ダンジョン探索の指揮をしているんですか?」
そのとき、たまたま呼ばれていたゲストコメンテーターが口をはさんだ。
「いえ、暴力団をつかって、かわいそうな労働者を集めているのは、誰もが名前を知る大手大企業です」
「…………」
「B市のダンジョンでも、指定暴力団菊地組を使って、非常に悪どいことをやっている企業があります」
「ちょっ、ちょっと、その名前を出すのはまずいですよ!」
司会担当のニュースキャスターが顔をこわばらせて、ゲストコメンテーターの発言をとめようとする。
しかし、ゲストコメンテーターは、止まらなかった。義憤にかられて興奮したように、両手でどんと机を叩いた。
「悪どいことをしてるのは、大宮司商事です! それも悪の元締めは、あの
「おい、そいつを黙らせろ!」
テレビ・スタッフの怒鳴り声が、テレビから聞こえた。
テレビ局のスタジオが、にわかに怒声と騒がしい物音につつまれる。
すぐに、テレビの画面がきりかわった。
『おそれいりますが
しばらくそのまま
お待ちください』
動かない画面になった。
テレビが静かになる。
ややあって、テレビ画面にアナウンサーの顔が映しだされた。ゲストコメンテーターが座ってた椅子には、テレビ局のゆるキャラの人形が置かれていた。
「大変、お見苦しい場面がありましたことをお
しばらくして、画面は提供クレジットに変わった。
「この番組は、人の未来とダンジョンのパイオニア、『大宮司商事』の提供でお送りしました」
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