第59話
【一人称、主人公の視点】
試験会場から家に帰ろうとしたところで呼びとめられた。
「やあ、君、
振り返ると、男が立っていた。せいぜい俺より2、3歳上ってところだ。
「なにか用か?」
「ふふふ……、君、すごく強いよね。見ただけでわかるよ。まとってる雰囲気がね」
白髪の瞳には、敵意がこもっている。
「……なにが言いたい?」
「実は僕も、そうとう強いんだよ。おそらく、君より強いよ。世界で一番強いだろうね」
「わざわざ俺を呼び止めて、自分の自慢話かよ。暇なやつだな」
「いや、君に誤解されたくなかったのでね。今日、僕は選抜試験で妹の
「…………」
「本気でやれば、僕だって地下第5階層くらい、簡単に到達できるってことさ。今回は、妹のわがままに付きあわされたとばかり思ってて本気を出さなかった。けど、君みたいなのがいると最初からわかってたら、本気を出してたところだよ」
「なるほどな。おまえの言うことは理解できたよ。じゃあな……」
めんどくさそうな奴だ。相手にせず立ち去ろう。
回りこんできた。
うざすぎね?
「ねえ君、その鉄の剣は、本当に君のメイン装備なの? 防具もないジャージ姿もそうだ。普通に考えればおかしいと思うよね。強さを隠すためのフェイクなのかな?」
「……そもそも、誰だよ、おまえ」
「これは失礼した。自己紹介がまだだったね。僕は、西ノ宮
「大宮司キララは、自分が大宮司商事の当主
「キララは、おかざりの担ぎあげられた当主さ。事実上は、ほとんど何の権限もないよ」
総一朗が、黒い表情で、ニヤリと口元を
「いやだね。俺は人にこきつかわれるのは向かないんだ」
「ひどい誤解だなあ……。こきつかうことなんてしてないよ。大宮司商事で働く社員は、自らの意思で、自分の全力を出すようになるんだよ。僕の会社の社員たちは、なぜか、とても仕事熱心になるんだ。多くの社員がオムツをはいて働いてるんだよ。どうしてだかわかるかい? 働くためにトイレに行く時間も惜しいからさ。それくらい熱心に働く社員たちばかりで、僕は、とってもほこらしいんだよ。ハハハ!」」
「なるほどな」
「君に招待状をあげよう」
総一朗は、懐から一枚のハガキを取り出した。「これは、わが大宮司商事がB市のダンジョンの中に築き上げた享楽の園『
「いらねーよ。ダンジョンはお前の所有物でもなんでもない。俺が行きたいときに行き、入りたいところに自由に入るだけだ」
「ふふふ……」
総一朗が、含み笑いをする。「君も薄々気づいているだろう? 日本の治安は悪化しつづけている。日本政府が日本を維持できなくなりつつあるわけだ。国家という枠組みが崩壊しはじめているんだよ」
「…………」
「現代人が国と思うものは、近代国家のことだ。でも、近代国家の歴史なんて非常に浅いんだよ。そのうち、僕と大宮司商事は、国家権力をも超える存在となる。近代国家は壊れてしまい、世界の頂点となった巨大企業が、国家を超える世界の支配者となるんだよ。今のうちに、僕に
「とんだアドバイスだな」
「そうかな?」
「ひとつ、俺の親切心からのアドバイスしてやろう」
「なんだい?」
「どうしてもというなら、おまえを俺のパシリとして雇ってやるよ。もちろん、俺の命令には絶対服従。オムツとおしゃぶりの常時着用は強制だ。『バブー』と『ママー』って言う以外の発言は一切禁止。今のうちに、俺に
それまで余裕をかましていた総一朗の表情が、とたんに固まった。一瞬、顔が怒気をはらんだものとなる。よほどプライドが高いようだ。
感情を抑えつけるようにして、総一朗が言った。
「君とは、ダンジョンの中で会うのが楽しみだよ。神崎直也くん」
総一朗の表情が、さらに黒くなった。
「神崎くん、君には特別に、僕の【加護】がなにか教えてあげるよ。君だって、知りたいだろ?」
「…………」
「僕の加護は、【ラノベのチート無双主人公】だよ。特に固有のパッシブスキルがあまりにも無敵すぎてね。これが、とんでもないんだよ。どんなスキルだと思う?」
「…………」
「僕の最も強力な固有スキルは、『主人公補正』だよ。どうかな? これほど強力なパッシブスキルはないと思わないかい? よくラノベを読んでる人ならわかると思うけど、笑っちゃうくらいの圧倒的なチートスキルだよね。僕の前ではどんなに強大な敵も、主人公を引き立てるための脇役すぎなくなるのさ。アハハハハ……」
総一朗の、どす黒い笑い声が、あたりに響きつづけた。
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