第75話

「霊獣サンダーバードを召喚!」

 碧佳あおかが召喚魔術を唱えた。


 召喚されたのは、巨大なわしだった。全長5メートルくらいある。一羽いるだけで、そこそこ広い部屋が、窮屈にかんじられるほどだ。



「……でかいな」

 と、俺。


「「おおきいですぅ」」

 翔子sが言う。



「この大きさを連れ歩くのは、ちょっときびしいぞ」


「大丈夫。サンダーバードは霊的な存在なので、大きさや姿形の変更は自由」


 巨大なわしは、形を変えて小さくなり、緑色のセキセイインコの姿になった。


「ボク、サンダーバード。アルジさま、ボクもナマエホシイ。ピー、ピピピピ」

 インコが飛びあがり、俺の肩にとまる。


 だから、名前つけるの苦手なんだって。


「もう、ピピでいいか」


「アリガト。ボク、サンダーバードの、ピピちゃん。ヨロシクネ。ピピピ……」


「よし、行くぞ。碧佳あおか、朝風エリカのいる場所まで、案内してくれ」


『了解、あるじさま。まず左に曲がって、西区ストリートを……』

 俺と翔子2が、魔法『遠隔通信』で碧佳あおかから指示されたルートを、つき進む。



「そういや、朝風エリカは、借金取りに家族ごと連れて行かれたって言ってたな……」


『検索中……。わかった。朝風エリカは、父親と二人暮らし。事業に失敗して借金をかかえた父親は、『単純労働ダンジョン探索者』として採用されていた。……ただ』


「ただ、なんだ?」


『3時間ほどまえに、ダンジョン探索中に、ミノタウロスと遭遇。戦闘で死亡してる』


「……そうか」


 『単純労働ダンジョン探索者』の戦闘力は、一般人と変わらない。数の力だけで魔物に対抗する使い捨ての存在だ。


 せめて、花凛の友達だけでも助けよう。



「しかし、家族構成までわかるんだな」


『ここ電脳演算都市『バベル』のデータベースには、きわめて膨大な情報が集められている』


「個人情報って、どこまでデータとして蓄積されてるんだ?」


『特に大宮司電機のスマホなどを使用している人間の個人データは、詳細に集められてる』


 そういや、中学のときの同級生でゲーム仲間だった中西丸男は、大宮司電機のスマホつかってたな。


 大宮司電機のスマホは、安いわりに高性能。そのかわり、他社のものよりも、より詳しく個人情報が抜かれているのではないかと、以前から噂があった。


「E市A高校の一年生、中西丸男の個人データとか、どれくらい集められてるんだ?」


『検索中……、でた。中西丸男。ゲーム好き。ソシャゲからPCゲームまで、さまざまなゲームを毎日、何時間もしている。

 ただし、夜寝る前には、ほぼ毎晩スマホでエッチな動画を見てる。

 金髪白人系の、無修正動画が特に好き。すこしでも、女のオッパイが小さいと、すぐにブラバしてる。特に、乳首の色にこだわりがある。乳首が黒い動画を見たあとで、『乳首が黒すぎるだろがあああああ!』などと、感情を露わにしてコメント欄に書き込んだこともある』


「…………」


『スマホでP●rnhubなどの動画を見ているので、そのときにスマホのマイク付きフロントカメラで撮影された本人の映像と音声が記録されている。

 とりあえず、音声だけ流す』


『はあ、はあ、はあ……』

 性欲の煩悩まみれに興奮していた中西の声が聞こえてきた。『はぁ。はぁ。はぁ……』

 中西の声が更に高まっていく。興奮度があがっていくのがわかった。

 

 やがて……

『……うっ、……ふう』

 声を出すと、中西のテンションが突然さがり、落ち着いたものになった。

 その声は、まるで煩悩など知らない賢者のようだった。


「…………」


『モニターがあれば、中西丸男がスマホでP●rnhubを見ているときの、フロントカメラで撮影された映像も表示できる』


「いや、いい……」


 中西。今、見たこと聞いたことは、すぐに忘れるからな。人それぞれ、他人に知られたくないプライベートはあっていいよな……。

 すまん、中西。


 あと、大宮司電機の製品は、絶対に使わないようにしよう……。俺は、強く心に決めた。

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