第17話

【三人称 自衛隊、ダンジョン攻略特別部隊の視点】


 第7階層ボスの部屋からでてきた少年と、西澤一尉の目が合った。


「おい、君」

 たまらず、西澤一尉は、少年に声をかけた。


 少年は、じっと西澤たちを見返してくる。感情のない表情だった。まるで落ちてる石でも見るように、西澤たちに一切興味がないといった顔だ。


 日本政府が投入した最高レベルの特別部隊パーティ。少年は、たった一人で、その8人と対峙たいじしている。だが、少年に、まったく動揺する様子がない。


「君は、いったい何者だ?」

 西澤がたずねる。


「俺は、ただの高校生ですよ」


「嘘だ。ただの高校生が、地下第7階層までこれるわけがない。それも、階層ボスの部屋から戦闘を終えて出てくるなんてありえない」

 源田一曹が、叫んだ。


 第一空挺団という化け物集団の兵や下士官でさえ、一喝いっかつで震え上がらせる源田一曹の声にも、少年は平然としていた。

 まったく、感情を乱した様子がない。むしろ、ふてぶてしい態度だった。


「高校生が、第7階層ボスを討伐したらダメなんですか? そんな法律、聞いたことないけど」


「だめではないが……。君のパーティ仲間は、ボスの討伐で全員、死んだのか?」

 西澤がたずねた。少年を前にした西澤は、ひどく緊張していた。たった、ひとりの少年の存在に威圧されている? 信じられないことだった。


「俺はソロですよ。ソロでボスを倒しただけだよ」


 そう言った少年は、背中に金で装飾された剣をかつぎ、とてもかたそうだが非常に軽そうなプレートアーマーで身体をおおっていた。


 西澤は、ダンジョン攻略以外にも、ダンジョン自体の調査という重要な任務をまかされていた。現在、民間人らによって、ハンター協会に持ち込まれている、ダンジョンのドロップ品も、すべて把握している。そんな西澤でさえ、少年の装備は、まったく見たことがなかった。


「嘘をつくな。第7階層ボスを一人で倒せるわけがない」

 源田一曹が怒声どせいをあげる。


「よせ、源田」

 西澤一尉が、少年に詰め寄ろうとする源田を手で制した。


「君は、日本人なのか?」

 西澤が、少年にたずねる。


「そうだけど」


「詳しく話を聞かせてもらっていいかね?」


「嫌だと言ったら?」

 少年の表情には、まったくといっていいほど、気後れしたところがない。


 少年の言葉に、源田一曹の声のトーンがあがる。

「嫌なら、無理やり取調室に連れて行くことになる。かなり日本語が流暢りゅうちょうなようだが、おまえ外国の工作員だろ。ふつうの民間人が、こんなに深い階層にこれるわけがないんだ。覚悟しとけ。しっかりと尋問じんもんしてやる」


「はははは……」

 少年は笑ってから、あきれたように肩をすくめた。「俺を、無理やり連れていく? なにかの冗談かな? 並の人間が8人集まったところで、俺を無理やり連行できるとでも思ってるんですか?」


「俺たちを、並の人間だと?!」

 詰め寄る源田の声に、少年は、はじめて、表情を変えた。


「おっ、PKか? 俺はPKはやらない主義だが、PKKは迷いなく受けてたつ主義でね。これまで、俺にいどんできたプレイヤー・キーラーは、数しれず。だが、すべてが返りちにされた。一人も逃したことがない」

 少年は、悪びれる風もなくニヤリと笑った。ひるむどころか、そこで初めて、ちょっと期待に満ちたような楽しそうな表情を浮かべた。


「こいつ、マジでイカれてやがる……。面白い、やってやろうじゃねえか!」

「やめろ、源田! 任務中だぞ!」

 カーボンブレードを振り上げる源田を、西澤が止めた。


「で、どうするんですか? 俺を連行するのをあきらめるのか、それとも、ここで全滅して死ぬか。あんたらには、2つの選択肢せんたくしがあるんだ。どっちでもいいが、とにかく早く決めてくれ。今日は、帰ってから見たいテレビがあるんでね。あんたらに、ずっと付き合ってたら時間に間に合わない」


「……わかった。行ってくれ」

 西澤一尉が言えたのは、たったそれだけだった。謎の少年を前に、完全に威圧されていた。日本で最強のダンジョン攻略部隊パーティひきいていたはずの西澤がだ。


 いったい、何がおこってるんだ? この少年はいったい何者?


 西澤は、自分がひどく混乱しているのを、ひしひしと感じていた。

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