第18話
【一人称 主人公の視点】
やたら深刻そうな顔つきをして俺に絡んできた、わけのわからない8人組とわかれて、俺はしばらく走った。急な坂を登ったところにあるダンジョン内の安全地帯まで来る。周囲に誰もいないのを確認してから、腰をおろした。
今日は、けっこう稼げたな。特に、合計3匹を倒すことになったアース・ドラゴンのドロップが、めっちゃ
ここは……
あれ……、やっちゃう?
『ガチャ』
そこに回せるものがあったら、回したくなるのがゲーマーの
ステータスウインドウを開いて、ガチャ画面へと移動する。
ガチャ、1回300円。11連3000円。
やたら
一回だけ、11連やってみるか……。絶対、一回だけな……。いいか一回だけだぞ、俺。
自分にいい聞かせながら、俺はステータスウインドウの右下に、『入金』と書かれた10cm角ほどの黒い四角に3000円を入れた。
ガチャのボタンを押す。
…………
…………
「10回まで全部が『N(ノーマル)』かよ……」
SSRどころか、SRもでねえ……。渋いなあ。絶対確率いじってるだろ、これ。
でたのは、全部、素材だった。クラフトスキルで、強力な装備をつくるには、素材を大量に集めなければならない。
必要な数がぴったり合うはずもなく、
「最後の一回……。いくぞ。……おっ、SRの演出きたーっ! なにが出た?」
そこに表示されたのは……、
《ちょびっとミスリルな剣》
「うわー、SRもゴミかよ」
この剣は、20本集めて、クラフトスキルを使えば、ミスリルの延べ棒ができるという……、まあゴミ素材の一つだ。ミスリルの武器や防具をつくるには、さらにミスリルの延べ棒が何十個、何百個と必要になる。
俺は、『ちょびっとミスリルな剣』を手にして、軽く振ってみた。
「メイン装備が鉄の剣だったら、かなりの攻撃力アップだったんだが……。今の俺には、はるかに強力な有料DLCの武器があるからなあ……」
気を取られて、立ち上がったところで、『ちょびっとミスリルな剣』が、ぽろりと手からこぼれ落ちた。
「おっと……」
剣は、急な坂の下へと、ころがり落ちていく。
「ま、いっか……。ゴミ素材だし」
俺は、ダンジョンの出口へと駆け出していた。
☆☆☆
【三人称 国語教師、吉川律子の視点】
吉川律子は、23歳。高校で国語を教えている美人教師だった。
この日、律子は、大学時代のサークル仲間の2人と、ダンジョンで狩りをしていた。
「地下第4階層ともなると、結構強い敵がでてくるわね」
看護師をやっている楠田のぞみが言った。のぞみの加護は【看護】。簡単な治癒魔法が使えた。
「でも、今の私達でも戦えるっぽい?」
アニメオタクの中西
「そうね。思った以上に戦えてる」
律子が、ダンジョンのドロップ品である『鋼鉄の剣』をふるう。
律子の加護は【剣術】。6歳の頃から古流剣術をはじめ、学生時代には剣道もやっていた。
「今日も、だいぶ稼いだねえ」
「うん。本業より、ずっと稼げてる。いつまでダンジョン・バブルが続くか、わからないけど、超おいしい」
看護師のぞみが、巨大なオッパイをぷるぷるさせながら笑う。そのオッパイのせいで、入院患者の爺さんたちから、よくセクハラまがいのことをされていた。
魔物退治は、政府から
「じゃあ、もうひと稼ぎ、行くよー」
「「おーっ!」」
律子の掛け声に、2人が答えた。
しばらく狩りを続けたときだった。
ダンジョンの通路の向こうから、のっそりと、巨大な影が現れた。
「なに、あれ? おっきい」
のぞみが声をあげる。
巨大な蛇の胴体。5つの首を持つ大蛇だ。
その魔物は、頭をもたげた高さだけで4m近くはあった。律子たちのほうへ、ゆっくりと近づいてくる。
「ひょっとして、ヒドラ・ゾンビ?」
律子が見たその大蛇は、身体がゾンビのように腐っていた。
「ヒドラ・ゾンビって、この階の階層ボスじゃなかたっけ? どうして、こんなところにでてくるの?」
「ゾンビなら、わたしのホーリーライトが効くかも」
のぞみが、アンデッド系に特効のある攻撃呪文を唱えた。
「グワアアアッ!」
攻撃を受けて、ヒドラ・ゾンビが巨大な
律子たちとの戦闘がはじまった。
「くうっ……。
「こいつ、ぜんぜん攻撃が効かないよぉー」
律子たちは、かなりの時間、必死で戦い続けた。しかし……、
「きゃああっ」
ヒドラ・ゾンビの首のひとつに、律子が
立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまっていた。体力も限界に来ている。足に力が入らない。
「もう、MPがないわよぉ……」
のぞみが絶望の声をあげる。
「うわーん。お母さーん。ごめんなさいーっ」
律子は確信した。
(自分たち3人では、……この魔物には、かなわない)
(いくら稼げるからって、自分たちがバカだった……)
さらに、ゾンビ・ヒドラが、律子たちに迫ってくる。律子は、目前にせまった死を確信して、身をすくめた。
そのときだった。
一人の少年が現れて、律子たちとゾンビ・ヒドラの間に割って入った。
「そういや、かなりの低確率らしいけど、こんなバグ、報告されてたよなあ……。階層ボスのくせに、ボス部屋から出てくるなっつーの!」
少年が、独り言のように言う。
「神崎くん?」
「え?」
律子に声をかけられ、少年が振りむいた。
「あっ、やべ……」
律子に目を止めた瞬間、少年は、すぐに顔を
副担任をしているクラスの生徒をそこに見つけて、律子は驚いた。
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