第16話

 最初の一匹が倒れ、ドロップ品を落とす。しかし、新たに二匹のアース・ドラゴンが現れた。


「おまえなあ……、それ、あかんやつだろ……」

 俺のテンションが上がりはじめる。


「ククク……」

 俺の口から、笑い声が漏れていく。


「これ、ゲーム的には、まだ中盤にさしかかる前だぞ。序盤で、こんなアホみたいなナイトメアモードの仕掛けをしたらダメだろ。多くのプレイヤーが嫌気さして、やめるっつーの!」

 さすが超糞ゲー。ゲームバランスがおかしすぎる。


 二匹が交互に俺に向かって突進しはじめた。ステップとジャンプを使い分けて、俺は的確に攻撃をかわしていく。


 二匹だと、逆鱗げきりんへの攻撃が間にあわない。一匹に狙いを定めているあいだに、もう一匹に攻撃されてしまうからだ。


 もちろん、一発でも敵の攻撃が当たれば、低レベルの俺は即死確実だ。


 俺は完璧に二匹の攻撃を避け続け、ようやくできた隙に、攻撃を加え……ようとした。


「あ……、最後に剣を投げたんだった」


 ヤベエ……。すっかり忘れてた。


 落ちた剣のところまで走りより、拾いあげる。


 アース・ドラゴンのひっかき攻撃を、ギリギリで回避して、反撃。さらにアース・ドラゴンの連続攻撃が、俺に襲いかかる。


 敵の攻撃ひとつひとつを、俺は完璧なタイミングでかわしていく。


 俺のテンションが爆上がりしはじめた。


「ふははは……。一匹でも、命がけギリギリの戦いなのに、二匹って……。おかしいだろ。絶対、おかしい! ぎゃははははっ!」

 ハイテンションになった俺は、大爆笑をはじめた。完全に危ない薬をきめてるジャンキーのようだ。


 これだから……、


 俺は『ファースト・ファイナル』を何千時間もの間、やめられなかったんだ。


 アース・ドラゴン二匹との無謀な戦いが続く。二匹のときは、逆鱗げきりんへの攻撃が間に合わないため、固い鱗をなぐって、ちまちまHPを削っていくしかない。


 ヤバイ、ヤバイ……、超ヤバイ……。


「楽しいーっ! すげー超楽しい! ぎゃはははっ……」

 ずっと爆笑が止まらない。


 何千時間も、『ファースト・ファイナル』をやった俺は、さすがに飽きたと思っていた。けど、PCのモニター画面の中で戦うのと、こうやって本物の魔物を目の前にして、現実世界で戦うのとでは、楽しさが段違いだ。


 興奮しすぎて、全身が震えてる。これが武者震いというやつか。


「うははははは……」

 大笑いが止まらねえ。


 ちまちまHPをけずっていったら、何時間かかるんだよ、これ。


 一般人でも何度かやれば、一回くらいは、絶妙なタイミングで動けるものだ。しかし、今の俺が要求されているのは、1万回やって、1万回とも完璧なタイミングで動くこと。1回でも外せば、そく、死への直行便だ。


 ぎりぎりの生と死との狭間はざま。想像をぜっするほどの緊張感。


「うひゃひゃひゃひゃ……」


 ここに他に人間がいれば、俺のことを頭のおかしい危険人物だと、思ったかもしれない。だが、ここには俺一人しかいない。


 遠慮はいらない。


「ヒャッハーッ!!」

 俺は、絶叫していた。


 楽しさを我慢することはないんだ!


  ☆☆☆


【三人称 自衛隊、ダンジョンアタック特別部隊の視点】


 西澤一尉は、自衛隊から選りすぐられた特別編成のダンジョン攻略部隊パーティ、8人の隊長だった。


 西澤の部隊パーティは、第7階層のボス部屋の前で、何時間もぶっとおしで、魔物相手に狩りを続けていた。


 ここで、狩りをするのには2つの意味があった。ひとつは、経験値をためて彼らの部隊パーティのレベルをあげること。もうひとつは、第7階層のボス部屋を攻略している謎の『部隊パーティ』がどうなるかを見届けることだった。


 ダンジョン攻略の最先端がどういう状況かを、日本政府に報告するのも、西澤たちの重要な任務だ。


 階層ボスの部屋は、挑戦者が入ると閉まる。そして、階層ボスが倒されるか、挑戦者が全員死ねば、再び開く。


 どちらにせよ、西澤たちの部隊パーティは第7階層のボス部屋の扉が再び開くまでは、そこを離れるわけにはいかなかった。


 何時間たっただろうか。


 しばらくして、第7階層のボス部屋の扉が開いた。


 でてきたのは、10代半ばくらいにみえる少年だった。普通の少年に見えた。しかも、たった一人だ。


「まさか、ソロで第7階層ボスを攻略しただと?!」

 北川二曹が驚きの声をあげた。


「冗談はよせ。おそらく、他のメンバーが何十人、いや……、下手をすれば100人以上いたんだろうが、そいつらは皆死んで、たった一人だけ生き残ることができたんだろう……」

 源田一曹が言った。


「ともかく、このことは上層部に報告しなければならん」

 西澤一尉がつぶやいた。


「海外の特殊部隊の隊員でしょうか?」

 北川二曹がたずねた。


「その可能性は高い。たとえば、アメリカ軍は、日本政府の数百倍以上もの莫大ばくだいな資金を投資し、デルタフォースや、シールズなどから、人員を選りすぐったダンジョン攻略の特殊部隊を編成しているという噂だ」

 西澤一尉は、むずかしい表情をしながら答えた。

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