第15話

【一人称 主人公の視点】



 俺は迷いなく地下第7階層ボスの部屋に入った。


 俺が部屋に入った瞬間、入ってきた入り口の扉が閉まる。こうなると、ボスか俺か、どちらかが倒れないかぎり、扉は開かない。


 ボス部屋は、直径60mくらいで、円筒形をしている。微妙に霧がかかった向こうに、地下第7階層ボス、アース・ドラゴンがいた。


 姿は羽のないドラゴンを想像してもらえばいい。頭から尻尾の先まで10mくらいはあるだろうか。ゲーム画面の中ではなくリアル世界で見ると、やはり迫力がある。


 俺が歩みを進めると、

「ギャアアアア!」

 アース・ドラゴンが、けたたましい咆哮ほうこうをあげて、突進してきた。


 うおっ。リアルで見ると、すごい迫力だ。すげー。


 アース・ドラゴンの猪突ちょとつを、まずはサイドステップで回避。通り過ぎぎわに、尻尾を攻撃。


 キーンという、甲高かんだかい金属音がした。アース・ドラゴンのよろいのようなうろこで、初心者用ミスリルソードが、はじきかえされる。


「やっぱり、堅(かて)え」


 今の俺は、レベル12。まあ、有料DLCの装備を持っていたとしても、今のレベルでは、アース・ドラゴンのうろこは貫けない。


 たしか、地下第7階層ボスのこいつを討伐するときのメーカー公式推奨レベルは25以上、推奨人数5人以上だったはずだ。レベル12が、ソロでいどむなんて、ぶっとんで頭のいかれた野郎だと言われても仕方ない。普通なら、ただの自殺行為だ。


 はっきり言って、プレイヤースキル上級者でも勝てる相手ではない。


 ……だが俺なら別だ。俺には、上級者をはるかにこえる超絶プレイヤースキルがあるからな。



 反対側の壁まで走り抜けてから、アース・ドラゴンは振り返る。再び突進してきた。


 俺は、ぎりぎりまで見極める。ゲームなら、サイドステップで回避できる余裕が9フレームしかないところで、アース・ドラゴンの全身がぴたっと停止する。

 尻尾の横薙ぎが飛んできた。水平に尻尾を振り、その長さも十分ある。そのため、非常に広範囲に及ぶ攻撃になる。突進だと見誤ってサイドステップをしたり、間違ってバックステップ回避しようとしても、尻尾の直撃は免れない。レベル12のプレイヤーなら、一撃で即死する。


 タイミングをあわせて、俺は跳躍する。ジャンプで尻尾をやり過ごすのだ。


 地面に降り立つやいなや、すかさず踏み込む。


 攻撃後のアース・ドラゴンの硬直にあわせて、2発の攻撃を入れておく。まあ、かたすぎて、気休め程度のダメージしか入らないけどな。


 アース・ドラゴンのHPは1350ある。


 アース・ドラゴンが首をあげて、鼓膜がびりびりするほど大きく咆哮ほうこうした。


「これを待ってたんだ!」


 踏み込んで、いっきに間合いをつめる。剣をふりあげ、アース・ドラゴンの首の一点を突き刺した。


 この攻撃は、非常に正確に一点をつらぬかねばならない。それは、逆鱗げきりんと呼ばれている場所で、アース・ドラゴン最大の弱点だ。


 小さな逆鱗げきりんに正確無比な攻撃が入れば、うろこによる物理防御は無効、しかもクリティカル確定の超特大ダメージ。


「グワアアアッ!」

 アース・ドラゴンがもだえ苦しむように、身体を震わせ、首を左右に振った。


 一度、逆鱗げきりんへの攻撃を受けると、アース・ドラゴンの挙動きょどうは、第二段階に入り加速していく。ただでさえ難しかった戦いが、さらに馬鹿げたまでに難しくなっていく。


 ものすごい勢いで突進してくる。第二段階でのこの突進を見極めてから、避けられるタイミングの余裕は、わずか6フレームのみ。


 アース・ドラゴンの猪突!


 すかさず、サイドステップで回避。


 再度、逆方向の壁際まで走り抜けていった、アース・ドラゴンが振り返る。


 アース・ドラゴンが俺をにらみつけ、首をもたげ、咆哮する動作にはいる。


 俺は、手に持っていた初心者用ミスリルソードを逆手に持ち替え、陸上競技のやり投げの選手のように構えた。


「あばよ!」


 投げた剣が一直線にアース・ドラゴンへと飛んでいく。剣は的確にアース・ドラゴンの喉元の逆鱗げきりんに命中した。


「ギャアアア!」

 アース・ドラゴンの断末魔の咆哮ほうこうが鳴り響く。


「あれ? まだ鳴きやまない……」


 普通なら、とっくに絶命して、ドロップ品を落としている頃だ。


「これって……」



《アース・ドラゴンが、仲間を呼んだ》

 何もない空中から、解説の声が聞こえてきた。


「やべ……」


 アース・ドラゴンは、逆鱗げきりんに特大ダメージを負うたびに、100分の1の確率で2匹の仲間を呼ぶのだが……。


 まさか、俺が、ここで引くとは思わなかった。

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