第14話

【三人称 自衛隊、ダンジョン攻略特別部隊の視点】



「止まれ」

 部下たちに命じたのは、隊長の西澤だった。


 西澤は、ダンジョン攻略専用に編成された自衛隊の特別部隊をひきいていた。階級は一尉。部隊員は全部で8人。全員が戦闘系の【加護】を持つ。日本でも、トップクラスの戦闘力を持つ者たちだった。


「誰かいる」

 西澤が緊張の声をあげる。


「ここは、俺たちが攻略中の第7階層ですよ。いったい、他にどんな人間がいると言うんですか」

 答えたのは、源田一曹だ。


「いや、間違いない。ボス部屋の扉が閉まってる。たしかに中に誰かいる」

 と、西澤。


「本当だ。扉が閉まってる。でも、ちょっと考えられないですよ。まだ俺たちでさえ戦ってもいない階層ボスに、いどんでる奴が、存在するなんて!」

 源田一曹の言い分も、当然のことだった。


 彼らは日本政府がダンジョンを攻略するために、特別に編成した部隊だった。自衛隊の中でも最強と言われる部隊のひとつ、第1空挺団などから、選びぬかれた超エリートたちだ。


 自衛隊の第1空挺団ともなれば、【加護】がなかったとしても、圧倒的な戦闘力を持つ者たちの集まりだ。


 源田一曹の趣味は、休日に、歓楽街の飲み屋などにいき、ヤクザをボコボコにして、金バッジ・銀バッジをとりあげることだった。源田のバッジ・コレクションは、すでに300個をこえていた。


 日本政府も、この部隊には非常に力を入れていた。


 装備は、特製のカーボンブレード。セラミックとケブラー繊維を使用したボディーアーマー。強化繊維を樹脂で固めた、軽くて強力なヘルメット……


 全て少数の特注品であり、一人の装備だけで数千万円という代物しろものだ。


 彼らこそ、国家が力をいれた、ダンジョン攻略の最先端を行く部隊パーティのはずだった。しかし、実際には、彼らより先を行く人物がいたのだ。



「ひょっとして扉が誤動作してるんじゃないですか? 自衛隊の選抜チームである俺たち8人でも、まだいどむのがためらわれる階層ボスですよ」

 源田一曹は、信じられないといった表情になる。


「民間の攻略パーティなんて、トップ層でも第5階層ボスでさえ攻略できていないという報告を、今朝ブリーフィングで聞かされたばかりだったのに……」

 口をはさんだのは、北川二曹だ。


 北川二曹も、第1空挺団の出身で、【加護】をもらうまえから、とてつもない身体能力を持っていた。北川は、あまりにも過酷なことで有名な自衛隊のレンジャー教育課程を、脚を骨折した状態でやりとげた。ビルの4階から地面に飛び降りても、平然としていられる。食べ物一切なしで、突然山の中に放り込まれても、狩りをしたり山菜を食べたりして何ヶ月も生きていける。まさに超人だ。


 西澤がたちが、ボス部屋の扉へと歩み寄った。


 音がした。


 たしかに聞こえる。ボス部屋の扉の向こうから、魔物がえる声。そして、剣戟けんげきの音。


「誰かが中で戦ってる……」

 西澤一尉が声をもらす。


「ちぃ……。俺たちは、亡霊でも見てるのか?!」

 源田一曹が舌打ちした。


「まさか……、他国が編成した、軍の特殊部隊が日本のダンジョンの攻略をはじめている?」

 と、北川二曹。


「日本政府が編成した最強の部隊パーティは、俺たちだ。今の日本に俺たち以上の戦闘力を持つダンジョン攻略部隊はいない。……となると、海外からとしか考えられないな」

 西澤一尉が答えた。


 突然、日本にあらわれた謎のダンジョンでは、これまで人類が見たことがないような特別な素材や、魔石が手に入ることがわかった。


 ミスリルと呼ばれる謎の金属は、カーボンよりもはるかにかたく、工業界に革命がおきると予想されていた。魔物がドロップする魔石を使うと、効率よく発電することが可能で、人類のエネルギー産業が一変する可能性を秘めていた。


 日本だけでなく、世界の主要各国が、日本にあらわれたダンジョンに注目していた。今のところ、公式に日本のダンジョンに攻略部隊を送った国はない。ダンジョンは日本固有の資源として、日本政府が所有権を主張しているからだ。


 しかし、旅行者などをよそおって日本に入国し、隠れてダンジョン攻略を行っている海外のパーティがいる可能性は、十分に考えられた。いくらかの国の駐日大使館にも、ダンジョン攻略のための特殊部隊がすでに到着しているという話もある。


「俺たちは、これまで毎日毎日、何時間と訓練を重ねてきた。装備だって現在の技術で考えられる最高級品だ。他の奴等に負けるわけがない……」

 負けず嫌いの北川二曹が、対抗心をむき出しにした。


 毎日毎日、何時間もゲームをやりこんで、超絶プレイヤースキルをみがきまくっていた高校生が存在することを、彼らが知るはずもなかった。それこそ、学校が休みの日など、寝る間もしんで、一日20時間以上もゲームをやりこむことさえ、めずらしくない高校生だ。その高校生が持つ装備は、ゲーム『ファースト・ファイナル』の初心者向けDLCだったものの、西澤一尉たちの持つ何千万円もする装備より、はるかにすぐれたものだった。

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