第86話

 織田結菜ゆいなを前にして、俺はアイテムボックスから愛用の剣をとりだして振りあげる。

「よし、斬り捨てよう」


 織田結菜ゆいなには、すでに俺のアイテムボックの存在は知られているので、眼の前で武器をだすのに躊躇ちゅうちょすることもない。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 織田結菜ゆいなが床の絨毯じゅうたんに額をこすりつけるようにして、平謝りしている。


「うるせー!」


「許してください。お願いします。ボディ洗いでも、添い寝でも、夜伽でも、なおさまの目の前でオナニーでも、なんでもしますからーっ!」


「それ、全部、おまえがやりたいことだろが!」


「うっ」

 俺の剣幕で織田がを固まらせた。


なおくん、さすがに斬り殺すのはかわいそうだよ」

 花凛が、持ち前のやさしい性格を発揮して言う。「それに、ここはダンジョンの中じゃないから、むやみに人を傷つけたら警察に捕まっちゃうよ」


「まあ、それはそうなんだが……」


「そういえば、なおくん、パーティ組むメンバーもっと欲しいって言ってたじゃない。織田さんも入れてあげればいいんじゃないの?」


「うーん、どうかなあ……」


 今、俺がパーティを組める信頼できるメンバーは、花凛、翔子、碧佳あおかの3人だ。俺を入れて4人パーティを組むことができる。


 ゲーム『ファースト・ファイナル』のフルパーティは8人だった。

 今の俺の目標は、ゲームのようになってしまったこの現実世界で、俺のステータスをカンストさせることだ。

 レベルがさらにあがって、これからダンジョン深層にいくともなると、ソロでも狩れないことはことはないが、やはりフルパーティのほうが、ずっと楽だし、レベリング効率もよくなる。


 信頼できるパーティメンバーは、もっと欲しいところだ。


 結菜ゆいなは性格はあれだが、『隷属の首輪』をしているので、俺を裏切らない。というか裏切れない。

 俺の秘密を、絶対に漏らすこともないという意味では、非常に貴重な存在なのかもしれない。


「おまえも、俺達といっしょにダンジョン攻略に参加するか?」


「はい。もちろんです。なんでもします!」

 結菜ゆいなが緊張した面持ちで答えた。


「あと、織田さん、黙ってなおくんの家に入ってこなくても、ちゃんと言ってさえくれれば、普通に遊びにきていいんだよ」

 お人好しの花凛が話しかける。


「ほんと?」

 花凛の話をきいて、織田が俺の表情をうかがってくる。


「まあ、花凛がいいって言ってんなら、俺はかわまないが……。でも、俺のいないときは、ちゃんと花凛の言うことを聞くんだぞ。おまえに対する花凛の指示は絶対だ。花凛の命令は俺の命令だと思え」


「わかりました」

 結菜ゆいなは花凛の方に向き直って言った。「花凛奥様、どうか、わたしのことは結菜ゆいなとお呼びください」


「え~~~っ、奥様?!」


「早瀬さんは、直さまの正妻だから、奥様で」


「正妻って……」

 花凛が顔をあからめる。


「あたしは、直さまの副正妻でいいので」


「副正妻ってなんだよ。勝手に変な言葉つくんなっ!」

 俺のあげた声に結菜ゆいなが緊張して身体をすくませた。


「織田さん、そんな、かしこまらなくていいんだよ。なおくんは言葉はきついけど、ゲームに関することでもないかぎり、普段は、ぜんぜん厳しくないから大丈夫だよ。普通に話して。それに私のことは花凛ってよんでもらっていいよ」


「では花凛さま」


「さま、いらないよ」


「では、花凛ちゃん、あたしのことは結菜ゆいなと呼んで」


「うん、結菜ゆいなちゃん、よろしくね」

 花凛が結菜ゆいなの手をとって、ニッコリと微笑みかける。


「ありがとう、花凛ちゃん、ほんとうにやさしいのね」

 結菜ゆいなが笑顔になった。非常にいい表情だった。この女、性格はあれだが、実は花凛に匹敵するほどの美少女である。花凛に受け入れられた結菜ゆいなが、うれしそうに身体を上させると、大きなオッパイがぷるぷると揺れた。



「ところで結菜ゆいな、おまえ、ダンジョン探索はしたことあるのか?」


「……ほとんどやったことないけど、ハンター協会発行のF級の許可証は持ってるわ」


「レベルは?」


「1」


「そういや、おまえの加護ってなんだったっけ?」


「あたしの加護は【経営】よ」


「経営?」


「家が事業をしてて、それを手伝ってるせいか、そんな加護がついたの。レベルが低いせいか、まだ固有スキルみたいなのは全然ないけど」


「おまえの家って、なにやってんだ?」


「デパートの織田屋ってしってる?」


「業界でも5指に入る老舗の百貨店だろ?」


「そこの社長が、あたしの父親」


「それは知らなかった。おまえ、金持ちのお嬢様だったのか」


「そうよ。驚いた?」


「驚いた。高そうな、ネックレスとかブレスレットとかしてるのって、パパ活でもしてるのかと思ってた」


なおさま、ひどーい! あたし、そんなことする女の子じゃないもん」

 結菜ゆいなが、怒って頬をふくらませた。


 こいつ、いかにも遊んでそうなギャルっぽい外見に似合わず、処女だからな。


  ☆☆☆


 俺、花凛、結菜ゆいなの3人は、いつも行っている学校から最寄りのダンジョンに来ていた。


 結菜ゆいなを俺のパーティに入れる。俺のパーティに入るとアイテムボックスが使用可能になる。


「わあー、何これ? 日常生活でも、ものの持ち運びがすごく便利になるんじゃない?」

 花凛のときと似た反応だった。かなり興奮して驚いてる。


「アイテムボックスの機能は、他の人間には秘密だぞ。いいな」


「うん」


「で、なにか、やりたい職業ジョブはあるか?」


職業ジョブ?」


「普通は選べないから、加護で得られたスキルを使うしかないんだが、俺には加護ゲーム『ファースト・ファイナル』があるから、参加したパーティメンバーが、ゲームに存在した職業ジョブを選ぶことができるんだ」


「なに、それ超すごくない? ああーんっ、なおさまってやっぱり素晴らしい。超絶ステキー!」

 結菜ゆいなが、上気したように頬をあからめて、身体をくねくねさせる。 


「こんなところで、発情すんなっ。で、職業ジョブは何にするんだ?」


なおさまの役にたつものなら、なんでもいいわ」


「本当にいいのか?」


「うん」


 俺が自由に決めていいとは、ありがたい。



 今の俺のメンバーは以下のとおりだ。


・俺:両手剣物理アタッカー

・花凛:ヒーラー

・翔子:斥候スカウト

碧佳あおか:電撃系魔法使い



 専門技術者エンジニアや、錬金術師アルケミストのような生産系の職業ジョブを持つものも、いずれメンバーに欲しいところだ。しかし、今の少人数の状態でパーティに入れるのは効率が悪い。


「じゃあ、結菜ゆいなには、バッファーをやってもらおうか」


「うん、わかった」


「ほんとうにいいのか?」


「いいよ」


「じゃあ、まずは、結菜ゆいながパワーレベリングからだな」

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