第83話
近くにいた、菊地組・若頭が、フルプレートに飛びかかった。若頭は、身長約190cm、体重は100kg以上の巨漢だった。
総合格闘技の経験もある若頭が強烈なタックルをフルプレートにかます。
ドンッ。
低くこもった音がなった。
だが、若頭の表情が驚きに変わるまで、数秒とかからない。
「なんだと? くうううっ……」
若頭の表情が、こわばる。
若頭は、フルプレートの腰のあたりにくらいつき、必死で押し倒そうとした。一見細身に見えるフルプレートは、まるで大木のようにビクともしない。
「何だ?! この強さは! 常識を超えている。くうううっ……、いくら力をいれても、少しも動かない! 化け物か!」
フルプレートの男は左手で組長の日本刀を握りしめたまま、右手でタックル体制の若頭の頭を後ろから
メリメリメリ……
骨がひしゃげる音がした。
「うわあああっ」
若頭が悲鳴をあげる。
まるで小さな子犬を抱えあげるかのように、かるがると体重100kg以上の身体が浮きあがっていく。瞬間、重力がなくなってしまったかのような錯覚をおこすほどだった。
フルプレートの男が、無造作に若頭の身体を放り投げた。
若頭の身体が、ゴムボールのようにふっとんだ。
若頭身体は、頭から壁にめり込んでいた。そのまま動かなくなる。
フルプレートは、右手で組長の頭を殴った。
いや、闇金業者には、殴ったと推測するしかなかった。あまりにも、パンチの速度が速すぎて、見えなかったからだ。
闇金業者の目に飛び込んできたのは、フルプレートの右手が一瞬動いたかと思うと、組長の首から上が、ミンチとなって吹きとんだという光景だけだった。
☆☆☆
【一人称、主人公視点】
「
『検索中……、わかった。そこに座りこんで、失禁してる闇金業者が懐の中にもってる』
俺は、闇金業者のほうを振りむいた。
「この少女の父親と交わした借用書をだせ」
「そんなものもってない。信じてくれ!」
「嘘をつくな」
頬を張り飛ばした。もちろん、かなり手加減した。今の俺の身体能力で本気で殴れば即死だからな。
だが、十分なダメージは入ったようだ。
「ひええええっ……。嘘じゃねえんだよぅ」
闇金業者は畳の上に正座し、泣きながら拝むように手をあ合わせる。もちろん、哀れみを乞うための演技だ。
「うるさい」
俺は、正座している闇金業者の太ももを踏みつけた。
「ぎゃあああっ」
メリメリメリ……。
「おい、大腿骨がひしゃげる音がするぞ。もうちょっとで折れるぞ」
「痛い、痛い、痛い!」
「おまえのことはすべてお見通しだ。この電脳演算都市『バベル』の中にいるかぎり、中央コンピューターの管理者権限をもっている者は、全知の神にも近い存在だ。誰もが一挙手一投足を監視されつづけ、一切、隠すことはできない」
『バベル』は監視都市だ。あらゆる場所に監視カメラ・盗聴機がある。この部屋にも、一見しただけで天井に2つあるが、他にもわからないように大量のカメラが隠されているはずだった。
「ど、どうして、あんたが中央コンピューターの管理者権限を持っているんだ?!」
「うるさい。おまえに答える必要はない。朝風の父親とかわした借用書をだせ! おまえがふところにいれているのはわかってるんだ」
さらに太ももを踏みしめる足に力を入れると、ついに闇金業者が折れた。
手渡された借用書を確認する。
うーん……
正直、俺には、借用書が本物かどうかわからない。
「
『監視カメラで映像を確認。解析中……、解析終了。間違いなく本物の借用書』
「よし」
組長の死体のそばに、タバコに火をつけるためのオイルライターが置いてあった。それを拾って、借用書に火をつけた。十分に火が燃え上がったところで畳の上に投げ捨てる。
朝風エリカは呆然となって、部屋の片隅で座っていた。
「いくぞ」
「あなたは、誰?」
「……さあな」
「きゃっ」
俺は、少し強引に朝風エリカを抱きあげた。
部屋の出入口から出てすぐのところで、手にもっていたオイルライターを分解した。オイルが染み込んだフェルトを抜き出して、部屋の中で燃えている借用書の方へと投げた。
火が、爆発するように、ボッと大きくなる。
瞬く間に、火が部屋じゅうを覆った。
「ぎゃああっ」
部屋に残したままの闇金業者の悲鳴が聞こえてきた。
俺と翔子2、ピピ、そして朝風エリカは、もと来た通路を通ってヤクザの組事務所を後にした。
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