第30話

【三人称 視点】


「てめぇ! ぜったい許さねえ!」

 萩原モヒカンが、乗っていたバイクのアクセルをふかす。


 バイクが、急発進して、直也の方に突っこんでいく。



 ……信じられないことが起こった。


 直也が、萩原モヒカンのバイクを片手で受け止めていた。


 萩原モヒカンが乗るバイクは、250ccの人気車種だ。乗っている人間こみで総重量200kg以上。最高出力30馬力もある。


 しかし、直也の片手で受け止められたバイクは、ガッチリと万力で固定されたように動かない。


 バイクの後輪がから回りして、けたたましい金切かなきりり声をあげる。人間ではありえないほどの、恐ろしい力だった。


「クソがっ! どうなってやがるんだぁーっ!」

 萩原モヒカンは、アクセルを全開にする。が、改造マフラーが耳障みみざわりな音をむなしくあげるだけだった。


 萩原モヒカンが目をむいて叫ぶ。

「おまえの加護は、ゲームだったはず。それも、『糞ゲー』の加護だ! なのに、どうしてこんな力がでるんだっ……!」


「俺の加護は『糞ゲー』じゃない」

 直也がニヤリと笑う。


「だったら、なんだって言うんだ?!」


「俺の加護は『超糞ゲー』だ。ゲームバランスがめちゃくちゃのな……。だから、やりようによっては、ゲームバランスをこわしてしまうような、現実ではありえない力を、ゲーム内で発揮できることもある……」


「ゲーム内の話なんかしてねえ。ここは現実世界だぞおっ!」


「やーん。神崎、バイクが突っ込んでくるよぉー。こわーいよぅ。神崎ぃいいー、たすけてえぇ」

 織田結菜ゆいなが、さらに強く直也に抱きつく。その声は、完全に棒読みだった。ちっとも怖がっているようには見えない。改造セーラー服のえりからのぞく、ティファニーの銀ネックレスをした豊満な胸の谷間が、プルプルとれた。


 直也が、バイクを手でガッチリと受け止めていることを目の当たりにして、結菜ゆいなは、危険がないことを確信しているようだった。直也の力を信頼しきっているのだ。

 萩原モヒカンのバイクは、たんに、結菜ゆいなが直也に抱きつく口実にしかなっていない。


 そのことが、結菜ゆいなれている萩原モヒカンを、いっそう苛立いらだたせた。


「チクショーッ!」

 萩原モヒカンは、少しでもバイクを前進させようと、上半身をらす。


 直也があきれたように、ため息をついた。

「おまえなあ……。まがりなりにも、俺といっしょに女がいるんだぞ。そのまま進んだら、女も一緒にいてしまうだろ」


「そんなの関係ねえ!」

 萩原モヒカンは、頭に血がのぼって、完全に判断力を失っているようだった。


 直也が、つき合ってられないというふうに、やれやれと肩を落とす。


 いきり立った萩原モヒカンが、さらに身体をらした。


 バイクのバランスがくずれた。


 バイクが、別の方向に向かって進み、盛大に回転して、倒れた。

「ぎゃあああっ!」

 萩原モヒカンが悲鳴をあげた。

 萩原モヒカンの右足が車体重量160kgのバイクの下敷きになっていた。


「ううっ……」

 地面に倒れた萩原モヒカンが、下敷きになった右足をかばうように、うめく。



 すると……、


「ぎゃあっ!」

 うめ萩原モヒカンの頭を、容赦ようしゃなく蹴りつける人物があらわれた。


 見れば、そこに菊池が立っていた。


「バイクで倒れるにしても、怪我けがしないけ方ってもんがあるだろ、萩原。おまえは、それが、どうしようもなく下手へたくそだ」

 菊池は、地面に倒れた萩原モヒカンの頭を、つよく踏みつける。


「うっ……。菊池くん、でもよぉ……」


「うるさい。おまえは、『ドラゴン菊池連合』の実行部隊2番隊長なんだぞ。実行部隊の隊長ともあろうものが、よりにもよって、学校の衆目のまえで醜態をさらしやがって……。とんだ、恥さらしだ。俺の顔に泥をぬってくれたな」


「ギャァ! ギャア! ギャアアァァ……!」

 菊池が、踏みつけていた萩原モヒカンの頭を、何度もガシガシと蹴りつけた。


 

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