第31話

「神崎、おまえは、簡単には殺さねえ。徹底的に追いつめて、死ぬほどの恐怖を味わせながら殺してやる」

 菊池が、殺意をこめた目で、直也をにらみつけた。「組織の力で、じわじわ追い詰めてやる。おまえは、大切なものを少しづつ奪われていき、ずっと恐怖を味わいつづけながら、死へと近づいていくんだ」


 両親がヤクザなだけあって、菊池の脅迫きょうはくは、堂に入っていた。しかし、直也は、まったく恐怖を感じていないようだった。平然とした表情で言葉をかえす。

「そういってイキってたくせに、結局、最後に立場が入れかわるんだ。自分が相手に言ってたように追い詰められて、死んだ奴等を、俺は何人か見てきたよ。因果応報ってやつだな」


「横田と上川のことか?」


「さあな……」

 直也がとぼける。


「まあいい……。次にダンジョンで会うのが楽しみだ。ダンジョンでは、いくら人殺しをしても目撃者が生き残らなきゃ、事故ってことですむんだからな。いい世の中になったもんだぜ」


「おまえのような知能の低い人間の一番の欠点は、自分が追い込まれる立場になったときのことが想像できないことだ。だから、他人にいくらでも残虐なことができるんだよ……」


「口の減らない野郎だ」

 菊池が、イラッとした表情で、額をこわばらせる。


「……それはともかく、朝から学校の校庭で爆音をあげて、バイクでパラリラパラリラは、やりすぎだ。うるさいよ。あいつらを静かにしてくれ」

 直也が菊池を見つめた。直也の圧力に菊池が、少しひるむのがわかった。菊池は、何度も喧嘩の修羅場を踏んできた男だ。それだけに、対峙たいじしただけで相手の強さも、ある程度はわかるのだろう。菊池は、今の直也を相手にして、一対一タイマンの喧嘩では勝てないということをさっしたようだった。


「まあいい……」

 菊池は振り返り、学校の運動場でバイクに乗って暴走していた子分たちに言った。「おまえら、もういい。大人しくしてろ。今後、学校内でバイクを乗り回すのは禁止だ」


 菊池のヤンキーへの言葉は、圧倒的だった。


「「「はっ、はいっ! わかりました菊池くんっ!」」」

 バイクを乗り回していたヤンキーたちは、まるで大企業に就職したての新入社員が社長の前にでたような態度だった。運動場で響き続けていた騒音が嘘のように、たちまち消えさった。


 菊池は、立ち去る前に捨て台詞ぜりふを残していく。

「神崎、おまえがいくら強くたって組織の力にはかなわねえ。おまえの命は、次にダンジョンで会うまでだ」


  ☆☆☆


 校庭での、直也と菊池のやりとりは、すでに学校に登校していたみんなが、じっと見守っていた。


 直也と菊池が分かれた後の教室は、その話題でもちきりだ。生徒たちが口々にうわさしあう。


「見たか? 神崎が菊池に言って ヤンキーたちが運動場でバイクで暴走するのをやめさせたぞ」


「神崎、スゲー!」


「神崎って、なにもんなんだよ?」


「菊池でも、神崎に逆らえないってこと?」


「そんなわけないだろ。菊池は、暴力のプロだぞ。人前では暴力をふるわないってだけだ。法律がおよばないダンジョンの中こそが、菊池の本領が発揮されるところだよ」


「でも、みんな見てる前で荻原がコケにされただろ?」


「荻原は、高校デビュー組だよ。菊池の傘下に入ってからモヒカン頭にして、急に威張いばりだしたんだ。ちんけなイキリ野郎だよ」


「荻原は、菊池グループの幹部だぞ。荻原を、みんなが見てる前でコケにされたら、菊池としても黙ってられないだろ」


「幹部の荻原がやられて、菊池は完全にメンツをつぶされた格好だ。神崎を絶対に許さないよ」


「ヤクザの世界は、メンツがめちゃくちゃ重要だからな。ヤクザは、められたら終わりって聞いたことある」


「菊池は、この学校の帝王だからな。誰もさからえない」


「でも、神崎も、めっちゃ強そうだよなあ……」


「神崎が本気をだせば、菊池でもボコボコにできそう」


「それより、神崎って、なんか最近、急に背が伸びたような……。魔法かなにかなの?」


「いや、高校生の男子なら、一年で10cm伸びる奴とか、普通にあるだろ」


「神崎って、学校ではおとなしいけど、本気で暴れたら、めちゃくちゃ強いかもね」


「相撲部の岸川に、腕力で勝つってヤバイだろ」


「『相撲』の加護をもらった岸川が、ベンチプレスで350kgあげてたの見たことある」


「巨体デブのパワーってヤバイからな」


「なんで、岸川に神崎がパワーで勝てるんだよ? 神崎の加護、なんとかいう糞ゲーだろ?」


「ダンジョンにこもって、ずっとレベリングしてるらしい。元から帰宅部で、ヘビーゲーマーだそうだよ。そういうの、毎日、何時間もやり続けても苦痛にならないんだろ」


「でも、菊池は本物の悪党だぞ。その辺にいるような雑魚ヤンキーとはスケールが違う」


「菊池は、そのうち神崎を殺すよ。なにせバックが本職のヤクザだから」


「菊池には組織力があるからな。なんでも、何人もの人間を殺して、警察に追われてる『悪魔の殺人鬼』ってのをかくまってるらしいぜ。本職のヒットマンに狙われたら、いくら神崎でも生きてられないよ」


「でも、神崎もかなりヤバイぞ。神崎なら菊池を倒して生き残るかも……」


「神崎ってイケメンよね」


「入学時は、イケメンって感じじゃなかったよ。ダサい感じだった。でも、最近は、モデルみたいに超カッコイイ」


「毎日、早瀬花凛はなりって子と、いっしょに登校してくるけど、二人は、つきあってるの?」


「いっしょに登校してくるのは、魔物が町にも出るようになってからでしょ」


「以前は、別々に登校してたよね」


「今は、登校中に魔物に襲われる可能性があって、集団登校が奨励しょうれいされてるからじゃないの?」


「それより、早瀬のオッパイおおきい!」


「美少女だよなあ……。いったい、どんな男なら、あんな美少女とつき合えるんだろう?」


「俺は、織田結菜ゆいなちゃん派」


「2人ともオッパイおおきいよな」


「オッパイ! オッパイ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る