第32話

 【一人称 主人公の視点】


 テレビでニュース番組をやっていた。


「ダンジョンからでる魔物の被害が増える傾向にあります」


「政府は、これを重く見て、魔物狩りをする民間人たちを増やしたいようですね」


「定期的にダンジョンで魔物を狩らないと、魔物が町にまで、あふれ出てきてしまいますから」


「ダンジョン攻略には、加護があったほうが圧倒的に有利なのは、すでに知られています」


「その加護が得られたのが、15歳から20歳を中心とする年齢層なんです。それより年齢が離れるほど、加護をもらえる確率は下がっていきます」


「高校生くらいが中心となりますね」


「というわけで、政府は、高校生を中心としたダンジョン攻略グループを増やしたいようです」


「政府は、高校生にダンジョン探索者ハンターの体験学習みたいなことをやらせる意向のようですよ」


「でもダンジョンは危険です。毎日のように多くの人が死んでいますから」


「いまさら、人が死んでも個々の事件はニュースにもならないくらいですよね」


「政府は、高校生の体験学習として、それほど強い魔物がでてこない低階層の探索をさせようとしています。もちろん十分な安全性を確保するとのことです」


「それでも、万一の事故がおこらないとは限りませんね」


   ☆☆☆


 朝の教室。


「学校でグループをつくってダンジョンを探索することになりました」

 クラス担任である中年男の教師が言った。


「危険じゃないの?」


「人死んでるんでしょ?」


「えー……、低階層を見学に行くだけです。それも大人数で行くので、安全には十分配慮はいりょされてます。問題ありません」

 担任教師が、のどをひくひくさせながら言う。


「ダンジョン入ったら、菊池のグループが襲ってきそう」


「菊池がでてきたらヤバイぞ。あいつら、反抗した奴や対立グループの人間をダンジョン内で始末してるって話だ」


「下手したら、俺たちまで巻き込まれて殺されるな」


「事件の証人を残さないように、その場にいた目撃者も一緒に殺すらしい」


「怖すぎる」



 なにか、思わぬ方向に事態が動いているようだ。


 俺が一番心配しているのは、花凛はなりのことだった。万一の事件がおこって、花凛が傷つくところは見たくない。


 なにか起こったら、自衛くらいはできるように、花凛をレベリングしておいたほうがいいかもしれない。


  ☆☆☆


 昼休み。


 俺の加護の効果は、できるだけ人に知られたくない。俺は花凛を、人気のない体育館裏に呼び出した。


 花凛なら十分に信頼できる。打ち明けても俺の秘密を守ってくれるだろう。


「花凛……」


「な、なに?」

 花凛は、緊張しまくったまま、ガチガチに固まっている。


 なんで、そんなに緊張しまくってんだ?


「あの……、とても大事な話があるんだ」


「だ、大事な話ってぇ……。ふえええっ」

 花凛の顔が、耳まで真っ赤になった。


 だから、なんでそうなる?


「あのな、実は……」

 俺が言い終わる前に、花凛が俺の右手を両手でつかんだ。


「わ、わかりましたっ! ふちゅっ……、ふちゅちゅか……、ふつつか者ですが、末永く、よろしくおねがいいたしましゅっ!」

 花凛が、俺の手をひしっとつかんで、頭をさげてくる。


 何故か混乱しまくってる花凛をなだめ、俺は、パワーレベリングの話を説明した。


   ☆☆☆


 他人に俺のスキルを明かすのは、これが初めてである。


 俺の加護『ファースト・ファイナル』が、他人にどう影響するのか、わからないことだらけだ。いろいろ試してみたいことは多い。


☆――――――――――――――――――――☆

パーティに誘いますか?

 YES/NO

☆――――――――――――――――――――☆

 花凛を見つめながら、『YES』のボタンを押してみた。


「なっ……、なにこれ? なんか目の前に画面みたいなのがでてきたんだけど……」

 花凛が、おどろいたように目を丸くする。


「なにか、書いてる?」


「『パーティに招待されました。どうしますか? YES/NO』 ってあるよ」


「YESを押してみてくれ」


「うん……、あれ……、うまく指で押せないよ」


「実際の指でなくて、頭で操作を意識するんだ。カーソルみたいなのでてるだろ? それが動くように念じてみろ」


「うん……。あっ、うごいた」


「いいぞ。そのカーソルを、YESの上まで動かして、押してるところを念じるんだ」


「うん」


 ほどなく、俺のウインドウに、以下のように表示される。

☆――――――――――――――――――――☆

 早瀬花凛が、パーティに参加しました

☆――――――――――――――――――――☆


 いいぞ。これなら、花凛のパワーレベリングがはかどりそうだ。


「ステータスウインドウは開くか?」

 俺がソロのときは、レベル2にならないと、ステータスウインドウが開らかなかった。


「ステータスウインドウって?」


「ステータスウインドウ開けって、頭の中で念じてみろ」


「あ……、開いた……。なんか、いろいろ書いてる」


「どんな、ことが書いてある?」


「HPとか、MPとか……。下の方にアイテムボックスってボタンあるんだけど、これなに?」


「え? パーティメンバーもアイテムボックス使えるようになるのか?」


「押してみたけど、黒いマス目みたいなのがでてきただけなんだけど」


 俺は周囲に人がいないのを確認してから、自分のアイテムボックスから剣をとりだした。


「ひゃっ、なに?! それ、どっから出したの? 手品?」

 いきなり、俺の右手に握られた剣が出現して、花凛がおどろく。


「これがアイテムボックスの効果だ。ほら、剣を渡すから、アイテムボックスに収納することを意識してみるんだ」


 俺が花凛に剣を手渡す。数秒とたたず、剣が花凛の手から消えた。

「なに?! これ、どうなってんの?」


「アイテムボックスの表示はどうなってる?」


「マス目の一つに、鉄の剣(1)ってのが、表示されてる」


 いいぞ。パーティメンバーにも俺の加護が有効になるとは思わなかった。


 試しに俺は、『パーティ解散』のボタンを表示させ、押してみた。


「あれ? どうなったの? ステータスウインドウがでてこなくなっちゃった。アイテムボックスも表示されなくなったよ?」


 もう一度、花凛をパーティに入れてみた。


「あ……、ステータスウインドウでた……」


「アイテムボックスから、剣を取り出せるか?」


「やってみる」

 言った花凛の手に、数秒とたたず、俺が手渡した剣が握られていた。


 思った以上に素晴らしい効果だ。これから、花凛とパーティを組んでレベリングをやりまくるぞ!

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