第29話

「うっせえな、コラ!」

 いきり立ったモヒカンが、俺に怒鳴どなってきた。「菊池くんが言ってたぞ。おまえは、徹底的に追い詰めるって」


「…………」


「テメェは、すぐには殺さねえ。おまえは、じわじわ追い詰められて、恐怖に震えながら最後に死ぬんだ!」


「どう追い詰めてくれるんだ?」

 俺が、馬鹿にするように笑う。


「調子のってんじゃねえぞ!」

 モヒカンが怒声どせいをあげて、バイクのアクセルをふかした。バイクで俺をき殺す気らしい。



「あら、どうしたの?」

 いきり立ったモヒカンと俺の間に、割って入ってきたのは、髪を甘栗色に染めた、ゆるふわロングの織田結菜ゆいなだ。


 織田結菜ゆいなを前にしたときのモヒカンの表情は、わかりやすかった。

「そ、それが……、こいつが俺達の組織に楯突たてつこうとしてるから……」


 モヒカンは、顔を真っ赤にして、モジモジしはじめる。明らかに、結菜ゆいなれてる態度だ。まあ、結菜ゆいなは、外見だけは、ファッション雑誌のモデル並のルックスだからな。でも、性格のほうは、だけど……。


 結菜ゆいなは、男のこういった態度に目ざとい。

「あーら、でも、あたしは強い人が好きなんだけど……」


 結菜ゆいなの言葉に、モヒカンがいきり立つ。

「俺は、めちゃくちゃ強いぞ。昨日、他校のヤンキーを3人も、ボコボコにしたんだ!」


「そんな、雑魚のヤンキーなんて、何人倒しても同じよ。あたしが好きになるような男は、神崎を倒せるくらいでないとね」


「おいおい、けしかけんなよ」

 俺が肩をすくめる。


「いいじゃない。神崎だったら、こんな男、簡単にノックアウトできるでしょ」


 結菜ゆいなが言うと、モヒカンは完全に喧嘩腰で俺をにらみつけてきた。

「神崎なんて、どうってことはねえ。おい、神崎、今日、ここで、俺がおまえを、ぶっつぶす!」


 モヒカンが声をあげると、横から、巨体の男が前にでてきた。


 相撲部の岸川だった。岸川は身長約190cm、体重140kg以上ある。


 ちなみに、身長190cmの適正体重は、80kgくらいだ。


 はっきり言うと、巨体のデブだ。


「『ドラゴン菊池連合』の実行部隊2番隊長の荻原おぎわらさんがでるまでもないっスよ。こいつは、俺がやるっス」


 岸川デブ萩原モヒカンに言って、俺にせまってきた。


 上から、俺の身体をかかえこむように手を出してくる。


 俺は、その両手を、自らの両手で真っ向から受け止めた。


 ちょうど、『手四つ』のカタチになる。プロレスラーが試合でよくやる、両手の手と手の指を相手とからませる、力くらべだ。『フィンガーロック』とも言う。


 岸川デブが、面白そうに笑った。

「テメェ、で俺に勝てると思ってんのか?」


「おまえ、そんな立派な身体に生んでもらったのに、どうして菊池の子分なんていうチンピラに落ちぶれたんだ? 親が泣いてるぞ」


「うるせえ。俺は、菊池さんの下で成り上がるんだ!」


 岸川がこれみよがしに巨体の両手に力を入れてきた。


 だが、俺は『レベル20まで、経験値100倍』の無料DLCによるボーナスを持っている。今では、レベルがあがって、パワーも圧倒的に向上していた。


 俺が少し両手に力を入れると、岸川の顔つきが一瞬で変わる。

「なんだ、この力は……? おかしい……」


 さらに俺が力を込める。岸川の顔が、青ざめていく。

「どういうことだ……、俺が力勝負で勝てないだとっ?!」


 俺は、手と指の力を、いっそう増していく。

「ぐがががっ」

 岸川の顔がおびえに変わった。


 バキッ!


 俺の両手の中で、骨が砕ける音がした。


「ぎゃああああっ!」

 悲鳴をあげた、岸川の指が、ありえない方向に曲がっていた。

 岸川は地面に這いつくばって、苦痛にうめいた。



「やーん、神崎ィー、カッコイイ! 超つよーぃ! 超せくしーぃ!」

 結菜ゆいなが、飛びつくようにして俺に抱きついてきた。わざと胸をおしつけるようにして、身体をふるわせる。


「おい、離れろビッチ!」


「やーん、あたしはビッチじゃないわよぉー。これでも、一途なんだからぁー」


「おい、いやらしく腰をふるなっ! しかも、それを押し付けてくんなぁーっ!」


「あたし、処女だからぁー。女の子の一番大切なものは、本当に好きな人にあげたいと思ってるのよぅ! 神崎にあげるぅー! スキスキ大好き超愛してるぅー!」


「うるせーっ! いいから離れろ」


「いやーん、もう我慢できないーっ! 神崎本人が、ベッドの上で確かめてぇーっ! ちゃんと、初めての血がでると思うからぁー!」

 まったく、とんだ淫乱いんらん女もあったもんだ。


 俺にまといつく結菜ゆいなを見て、彼女に惚れてるのがバレバレの萩原モヒカンは、くやしそうにギリギリと歯噛みしめる。ちょっと涙目になって俺をにらみつけていた。

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