第28話

 【一人称 主人公の視点】


 昨夜も、花凛はなりの母親の咲子さんが夜勤だった。

 俺は、花凛の家で寝た。もちろん、寝室は別だぞ。


 朝起きると、花凛が、キッチンで弁当をつくっていた。ついでに俺の分もつくってくれてる。加護【家事】のおかげで、花凛の料理スキルは、ますます向上している。花凛の弁当はむちゃくちゃ美味しい。今日の昼の弁当が楽しみだ。


 リビングでは、テレビがついたままだった。ニュース番組でキャスターと論説委員が話をしている。

「日本各地の警察署が謎の大爆発をおこし、多くの警察官が死傷しました」

「これからも、治安の悪化は、しばらく続くでしょうね」

「警察は、人手不足・予算不足で、決定的な手段がないようです」

「しかも警察は、ダンジョンからでてきた魔物を退治する仕事も負わされています。その魔物も、最近では強い種類がでてくる傾向にあり、数も増えているようです」

「それを理由に、春木総理は、さらに増税を予定しているようですが……」

「世論の反発が予想されます」




 学校に来てみると、荒れ具合がさらに悪化していた。


 校舎の窓ガラスが割れているのはいうまでもない。が、運動場では何台ものバイクが、けたたましい音を鳴らしながら、我が物顔で走りまわっていた。


《パラリラパラリラ~!》

 バイクに取りつけられたミュージックホーンの音がうるさいったらなかった。


 ここは、世紀末の世界かよ。


「あ、花凛、おはよー」

 クラスで花凛と一番仲のいい女生徒、朝風エリカが声をかけてきた。


「おはよー」


「学校、酷いことになってるね」


「なんか怖いよぉ……」


「はやく、教室行こう」


「うん」

 花凛は言って、俺の方を振り向く。「なおくんも行こう」


「俺はちょっと見てるわ。花凛、先に行っててくれ」

 言って、俺は、花凛たちを行かせる。



 運動場にとどまっていると、一台のバイクが近づいてきた。


 バイクに乗ってる奴は、映画『マッドマックス2』や『北斗の拳』の悪役、モヒカン頭みたいな髪型をしていた。ただし、体つきは、映画にでてくるようなガタイのいいムキムキ・マッチョでなく、制服を着た並の高校生なので、あまり格好がつかない。身長だって170cmないくらいだ。はっきり言って、悪役にしては、ちんちくりんで、しょぼい。

 人気アニメを、低予算で実写映画化したときの登場人物みたい、って言えばわかるだろうか?


「おい神埼……」

 バイクに乗ってた奴は、最近、菊池の子分になった同じ学校の一年生だ。たしか、荻原おぎわらとかいう名前だったはずだ。「おまえ、最近、ダンジョンに行ってるらしいな……」


「だったら?」


「横田と上川をったのはおまえだろ? 菊池くんが言ってたぜ」


「さあな……」


「ふん、しらばっくれても無駄だ。……まあいい。この金バッジにかけて、おまえは徹底的にやる。菊池くんも言ってたぜ」

 荻原が制服の襟につけた金色のバッジを、これみよがしに見せつけてくる。菊の紋に、龍をかたどったバッジだった。


「なんだよ、そのバッジは?」


「これは、『ドラゴン菊池連合』の構成員であるあかしとなるバッジだ」


「また、大層たいそうな名前だな」


「『ドラゴン菊池連合』は、菊池くんを頂点として、この地域の学校を支配する者たちの組織だ。金バッジ、銀バッジをつけているのは、その構成員であることをあらわすんだよ。特に金バッジをつけてるのは幹部のあかしなんだ」


「まるでヤクザみたいだな」


「とうぜんだぜ」

 荻原は、ほこらしげにドヤ顔になった。「俺達がやってるのは、学生の遊びじゃない。本職顔負けに、この近隣の学校を全て支配するのさ」


 このモヒカン頭にとって、『ヤクザみたいだな』って言われるのは、め言葉らしい。とんだ、高校生もあったもんだ。


「神埼、なんならおまえにもこのバッジを売ってやろうか? もちろん、一般人は、金や銀のバッジをつけることは許されない。最初につけるバッジは、銅バッジだ。どうしても欲しいってんなら売ってやるぜ。一つ3万円だ」


「いい値段するじゃないか」


「もちろんだ。それだけの価値があるからな」


「どんな価値だ?」


「この銅バッジをつけてれば、『ドラゴン菊池連合』の庇護下ひごかとみなされる。さらに、毎月1万円の上納金を収めれば、『ドラゴン菊池連合』に守ってもらえるって寸法よ」


「なかなか、おもしろい商売をやってるじゃないか。ヤクザ顔負けのケツモチ商法だ」

 しょせん、銅バッジを買ったところで、せいぜい積極的にいじめられないって程度だろう。むしろ、ヤクザのような組織と下手な関係をもってしまって、パシリなどに使い倒される可能性さえある。


「強い支配者が弱いものからしぼりとる。これこそが、正しい社会のあり方ってもんだ。さあ、銅バッジ、売ってやるから買えよ」


「いらねえよ」


「ふん……、まあいいさ。神埼、覚えておけ。おまえは、絶対、菊池くんにはかなわない」


「どう、かなわないんだ?」


「菊池くんは、生まれついてのサラブレッドだからな」


「…………」


「菊池くんの父親は、江戸時代から続く、ヤクザの名門家系の組長だ。母親もテキヤをしきる大手広域暴力団の組長の娘だぜ。おまえらとは、元から生まれが違うのよ。菊池くんは、生まれついてのサラブレッドなんだよ」


「悪党のサラブレッドか。そりゃすごいな。ひどい純血種もあったもんだ。笑わせてくれる」


「なんだとぉ……」

 俺のあおり文句に、モヒカンのひたいがぴくぴくと痙攣けいれんした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る