第27話

 ヤンキーたちのある者は仲間に殺され、ある者は魔物に殺されていった。


 気づくと、部屋の中で生き残っていた人間は、3人だけになっている。


 直也、それに上川とパンチパーマだけだ。


「扉が開くまで、あと3分だ……」

「生き残ったぞ!」

 上川の言葉に、パンチパーマが安堵あんどの表情で、言った。


 お互い、希望に満ちた表情で、嬉しそうに見つめあう。



「なにを勘違いしてる」

 直也が上川の尻を蹴りつけた。「さあ、はやく、二人で殺しあえ」


「そ……、そんな……、約束が違う」

 上川と、パンチパーマの顔がこわばった。


「いつ俺が、約束をした? 汚物の分際で無駄口をたたくな」

 直也が冷酷れいこくに言いはなった。


「おまえには、血も涙もないのかよぉ……?」


「おまえらのような悪党のために流す涙など、みじんもない。そもそも、生きのびるために、さっきまで仲間を何人殺してきた?」


「だ、だってよう……」

 上川が声をもらす。


「俺に2人とも殺されるか、それともお前ら2人で殺しあうか。好きなほうを選べ」


「で、でも……」

 と、パンチパーマ。


「選べって言っるんだ」

 直也が二人を、さらに蹴り上げる。「めてたら、二人ともぶち殺す」



 直也のあまりに強い剣幕に、上川とパンチパーマの二人が、向き合って、殺しあいをはじめた。


 しかし、その動きがのろい。


「おまえら、いつも人には死ぬ気でやれと、けしかけといて、自分のときはひるんでんじゃねえか」


「た、たのむ。ゆ……、許してくれぇ……。これから、改心して、善人として生きていくから」

 上川がなさけない言葉を言った。


「うるさい。無駄口をたたくな!」

 

 直也が戦いをけしかけているうちに、上川とパンチパーマが、仕方なく剣を手にして戦いをはじめる。二人はしばらく、動きをみながら相手の隙をさがしていたが……、

 やがて、カウンター気味に入った攻撃が、互いの身体の急所をついた。


「「くううう……」」

 相打ちになって二人が倒れる。



 すぐに動かなくなった二人の身体に、直也は冷たい目線をちらっと、向けただけだった。


「つまらん見世物だったな。……でも、あの晩の公園で約束した見物料くらいは、くれてやるよ。ほれ、10円」

 直也が指で弾き飛ばした古びた10円玉が、倒れたパンチパーマの額にあたってから、地面に落ちた。


「じゃあな」

 言って、立ち去る直也の背後で、上川とパンチパーマの死体が、ダンジョンの地面に吸い込まれるようにして消えていった。

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